民主的な公園を作るために
前回までのあらすじ
Object : (ただの)もの
Thing : (なにかある)もの
ObjectをThingへと変える行為がもの派の行っていることである。
日比谷公園は動物園と同じ構造であり、Object(植物/動物)を人間が見るというヒエラルキーがある。
そのヒエラルキーを生み出す構成要素(アスファルトで舗装された道、フェンス、道端の柵など)を無くし求心的な建築物を作ることで、けものみちが生まれて市民が参加可能な民主的な公園が生まれる。そうして作られる日比谷公園は、Thingになるのだ。
民主的な公園を作るために必要なこととは。何が起きれば民主的な公園になりうるのか。
i)民主的な道
現在の日比谷公園はアスファルトで舗装された道に人間がいて、柵や段差によって隔てられた向こう側に緑がある。これによって生まれるヒエラルキーには、人間を植物から遠ざけてしまう力がある。
今、道路に敷いてあるアスファルトを全て剥がし、土を敷く。道路の端にある柵や段差も全て無くし、植物が植わっている場所と人間が歩く場所にヒエラルキーが無くなる。
獣道は人間や動物が土を踏みしめることで草木が生えずに生まれる道である。多くの人間が踏み固めた道は強くなり、多くの人がそこを通るようになる。鬱蒼とした茂みでも少しの道があれば人々はそこを通るようになり、大きな道ができる。
公園のアスファルトなどの舗装を剥がしたら、土が敷かれる。公園の利用者は最初は元あった道を通るだろう。しかし、道の中でも人が多く通る場所とあまり通らない場所が生まれる。人が通らない場所では草木が侵食し始める。
ii)可動するもの
人間が自由に動かすことのできるものは、公園を民主化することができる。そのためにはいくつかのオブジェクトを提供すること、それが適切に運用されるためのプログラムを作ることが必要である。
椅子・テーブル
自由に運ぶことのできる椅子があれば、人々がそこにいて気分が良いと思う場所に集まるようになる。現在あるベンチの場所は公園を管理する組織によって決定され、公園を利用する人々はそれを受け入れて利用するのみである。
現在ある池やベンチの場所に多く集まるだろうというのは予想できる。しかし、人々が自由に椅子を持って自分の好きな場所に座ることで、自分だけのお気に入りの場所を見つけることや新しい居場所を発見することができる。
建具
建具によって空間に変化をもたらせるような仕組みがあれば、自由に小さな空間を作り出せる。誰かが作った空間を誰かが勝手に使う。良いものであればその場に残り続け、誰かが改良し続け、不要だったら改変される。
可動壁
動かすことのできる壁を作る。大きな壁は視線だけではなく、音を遮ることもできる。大きく分かれた空間の向こう側とこちら側では全く違う空気が流れる。
iii)機能的なボリューム
Iconicな建築物を作る。そこには日比谷公園内のみならず、周囲の街から人々が入り込んでくる。
イベントを開くことのできるスペースを作る。平日には周辺にある官公庁やサラリーマンが集まる憩いの場であり、休日には銀座や皇居への観光客が集まる。
周辺に人が住んでいないという特殊な環境がもたらす効果もある。例えば夜間に周囲への迷惑を気にする必要がないため、深夜でも音楽イベントなどを開くことができる。教養のある大人が集まる場所であるという特性から、論壇などのイベントがあるのも良いだろう。
iv)文化の中心地としての役割
野音、公会堂、図書館。市民の文化の中心地としての一端を日比谷公園は担っている。現在利用ができない公会堂を抜きにしても、野音と図書館の機能は残しておく必要があるだろう。現在も多くの人に利用される機能には、そこにあるということで生まれる価値がある。
焼き討ち、二・二六事件。日本の政治の中心地である日比谷のこの場所では、人々の主義主張が暴力的な形で表現されてきた。そして、文化がその歴史を上塗りしてきた。
銀座が商業的な文化を生み出したとしたら、日比谷公園はそれに対した非商業的な文化の象徴だろう。古くからある図書館は東京都立図書館の中心館として機能した。野音は音楽文化の最先端を走り続け、大衆の音楽文化を作り続けてきた。
現代、そして将来の日比谷公園にふさわしい機能とはなんだろうか。
日比谷公園の居場所
日比谷公園の周辺をエリアごとに分けると、日比谷公園が様々なエリアの狭間にいることがわかる。
北には皇居とその外苑。東には丸の内から続く高級オフィス街、その奥には銀座。南東の奥に行くと築地の庶民の商業エリアが広がる。南には新橋、芝へと繋がる中高級オフィス街。南西には虎ノ門、六本木へと続く高級オフィス街、高級タワマン街。西には霞ヶ関の官公庁がある。
周辺には人の住むような場所は非常に少ない。しかし、周辺の駅の日比谷、内幸町、霞ヶ関などを利用し、簡単に訪れることができる。人々が遠くから野音に来るように、更に人々が日比谷公園に来るようなシステムを構築することで、民主的な公園を作るプロセスが進んでいく。
現状のスタディ
日比谷公園内のエリアを大きく3つに分ける。皇居方面の世俗ではない神聖化されるエリア。銀座方面の商業エリアから流入するエリア。官公庁、オフィス街から流入するエリア。人々は横断歩道を渡って公園の外から入ってくるため、入ってくる場所と出ていく場所は定められる。周辺の人々の属性とその場所はそのように分けられる。
それらに加えて、各駅から流入する人の事も考える。駅の出入り口と路線を考えると、人々の流動は定められる。
そこから人々がどのような行動をするのかを予測し、設計する必要がある。
人々の動きに対して大きなストラクチャーをどのように操作する必要があるのか。
思考のヒエラルキー
考える必要のあることを一旦整理する。
現在最終的な目標は民主的な公園を作ること。そのための手段がi),ii)である。人々が直接的に公園という空間を操作する喜びを作り出すためのアイテムを作り出す必要がある。
それに対してiii),iv)はi),ii)を達成するためのゲーム設定を行う手段である。
民主的な公園を目指すのにiii),iv)という独裁的な手段を下すのが良いのかという話があるだろう。それに対しては、いかなる民主的な手法で決定を行う場合でも前提のルールが設定されており、それに従った上で成り立っているという現実と照らし合わせると何ら問題は無いのだと言える。
i)ii)とiii)iv)のどちらを優先するべきなのか。これは更に思考を深める必要があるだろう。もしくは両立しながら作り上げていく必要があるかもしれない。