「腐った喉でささやく馬場にオムライス/ササキリユウイチ」川柳の読み3
腐った喉でささやく馬場にオムライス/ササキリユウイチ
(『馬場にオムライス』著・ササキリユウイチ より)
私ははじめてこの句を読んだ時、意味よりも先に切なくて哀しい印象を持ちました。自分がそう思った理由を探してみたいと思います。
「腐った喉」ということは主体がゾンビ化しつつある人間なのかなと思いました。ささやいている、ということは相手は恋人なのでしょう。
主体は生前に高田馬場のお店でおいしいオムライスを食べた事、またそのお店に一緒に行きたい事を恋人に伝えているのだと思います。しかしゾンビなのでオムライスを食べる事はできません。それどころかゾンビ化が進むと、食べるのは人間、それどころか恋人もごはんです。つらい…。
登場する食べ物がオムライスの理由は、土葬のこんもりした土の盛り上がりを想像させるからではないでしょうか。火葬だとゾンビは生まれないので、この句に出てくる日本では土葬が可能になっているのでしょう。ケチャップは血と死を思わせます。
そしてなぜ馬場なのか。語感がよいという理由はあると思います。
それに高田馬場は予備校がたくさんあります。この主体が大学受験のために頑張ってきた人で、ゾンビになってしまった事で将来の夢が断たれたのだとすると切なく感じるからではないでしょうか。
それから昔は雑司が谷の鬼子母神にお参りに行く人たちが、高田馬場で遊んだそうです。鬼子母神は人間の子供をさらって食べていた過去を持ち、ゾンビが人間を食べる性質を思わせます。
あともう一つ、腐った喉になったつもりで「馬場にオムライス」と発音してみました。「ばばじ…おぶらいず…」。なんと、腐った喉でも馬場と発音できそうではないですか。ゾンビにもやさしい地名…。
切ないを詰め込んで上からも切ないをかぶせたオムライスのような句。あまりにもステキすぎます。
以上、2023年11月19日(日)に「川柳を見つけてー『ふりょの星』『馬場にオムライス』合同批評会ー」が開催される事が決定したので、馬場にオムライスから読んでみました。
暮田真名さんの「ふりょの星」、ササキリユウイチさんの「馬場にオムライス」、どちらも傑作の現代川柳句集なので今からワクワクが止まりません。
当日に現地参加やリアルタイム視聴ができない人でも視聴期限付アーカイブ動画を楽しめるそうですのでみなさんも是非。
詳細はこちらの暮田真名さんのnoteをご覧ください。
馬場にオムライスの詳細はササキリユウイチさんのnoteをご覧ください。こちらです。