でたらめ川柳句会・結果発表
●はじめに
13句ものでたらめ川柳が集まりました。皆様ご投句まことにありがとうございます。みなさん事前に話し合ってませんか、って言いたくなるくらいバラエティに富んでいて驚きました。
とんでもなく秀句揃いで苦労しました。どう選ぶか難儀しましたが、自分なりにでたらめさを重視して選句しました。とはいえ、一本ピンと筋が通ったでたらめさというものが、自分の胸に深く突き刺さるいう矛盾に気づいてしまいました。私にとってでたらめとはまったくのでたらめではないんでしょうか。
でたらめって何ですか? だんだんわからなくなってきました。でたらめってむずかしいんですね!
軸吟
ウィッスウレッシュどんぐりポーカー
●賞品について
特選(1名)
は・「川柳句集 降ってきたリンゴ」著・雪上牡丹餅
・「川柳・ジュニーク句集 摘んできたいちご」著・雪上牡丹餅
・「川柳句集 序章あるいは序説もしくは序論」著・成瀬悠
・「現代川柳句集 プニヨンマ」著・森砂季
・「川柳イラストカード2種セット」絵と句・森砂季
秀作(2名)
・「現代川柳句集 プニヨンマ」著・森砂季
・「川柳イラストカード2種セット」絵と句・森砂季
もしも特選の方が雪上さんと成瀬さんの句集をお持ちだった場合には秀作の方へ、秀作の方もお持ちでしたら、投句者の中からお声がけ致します。
●特選
ふナム詩/西脇祥貴
わずか四文字でもの悲しさと詩情を表現してしまう作者の手腕、すごすぎませんか。
フナムシは干からびると死ぬので、海のそばのじめっとした所に隠れています。群れる生き物なので、暗がりにぽつんと一匹でいるところを想像するとなんだか哀愁を覚えてしまいます。
ナム=南無、これは「帰依する」という意味だそう。つまり南無阿弥陀仏は阿弥陀仏に帰依するという事。自分と仏との対話。つながる事ではありますが、欲から離れるというどこか孤独が感じられる行為です。
そして詩、詩は孤独がつきまとう文芸のように感じられます。
フナムシ、南無、詩。これ以上なにも足す必要はないです。極限まで削ぎ落としたからこそ立ち現れたさびしさなのでしょう。あまりにも素敵で私はウルっとしてしまいました。
●秀作
ドアをむにむに むにむにしてドア ゔーんゔゔゔーん 君の分身が中にいる/音羽
ドアを揉みしだく楽しい川柳と思いきや、何か不穏さが付きまといます。むにむにしてドア、と逆になることで表と裏の両方から揉んでいるように思えます。「君の分身」はドアの中に閉じ込められてしまったのではないでしょうか。「ゔーんゔゔゔーん」は人のうめき声か震えている様子かも、と考えるとドアの板がヒトガタに盛り上がって出ようと暴れているのではないでしょうか。
ここで気になるのは本物の「君」はどこにいるのかということですが、主体によってどこか別の部屋に閉じ込められているのかもしれません。誰にも触られないよう、ドアに鍵をかけて。
心地よさと気味の悪さが同居していて大好きです。
●秀作
デカメロン坊や良い木霊こだマリア観世音年々シナ海/西沢葉火
「坊や良い子だねんねしな」(まんが日本昔ばなしのオープニング歌詞)をもじった句。
「デカメロン」「メロン坊や」「良い木霊」(樹木の精霊)「コダマリア」(声優の児玉卓也さんのあだ名らしいです)「マリア観音」「観世音」(観音菩薩)「年々」「シナ海」とどんどん鎖のように繋げています。
日本昔ばなしでありながら、イタリアの古い小説でもある。メロン坊や(というキャラクターがいるのでしょうか?)で、樹木の精霊でもある。児玉卓也さんは聖母マリアで、観音菩薩でもある。年々シナ海の対立が高まっているけども、ねんねしそうな状態でもある。
対照的な存在や事象をどんどん連ねていく面白さがありますね!
すぴょんぺんならば1銭嗅いでyeah/おかもとかも
お笑い芸人が使いたいでしょうってくらい良すぎる「すぴょんぺん」。すべった直後にぺんっと立ち直るリズミカルな響き。これだけでもう最高にも程があります。
そして「1銭嗅いで」は「一千回」とかけている事で、すぴょんぺんという楽しい言葉を幾度も繰り返している感じがあります。一銭硬貨をクンクンする謎の光景も面白いです。ダメ押しのyeahでは何となくジャンプしている感じがしますね。
地に足のついた丁寧なでたらめのミルフィーユでとても胸を打たれました。
どんな味だろうアンパンマンの乳首/月波与生
これ同人誌のタイトルになってたら私、絶対買います。
この会話をカレーパンマンとしょくぱんまんの間でしていたらめちゃくちゃ良くないですか?
視点がでたらめに素晴らしいです。ちょっととらのあなまで買いに行ってきます。
ピョリウッド映画になった(なってない)/上野みかまない
ピョリウッド!行ってみたいです! 非常に心地よい響きです!
もしかするとヒヨコしかいない町ではないでしょうか。そこで作られたピョリウッド映画はヒヨコしか出てきません。セリフは全部ピヨピヨ。かわいい! 永遠にニワトリにならないヒヨコだけの町…。
(なってない)は正気にかえったというよりは、ちょっぴり気恥ずかしさのあるツッコミのようで、そこもかわいいです。
お茶碗と契りを交わし主となる/成瀬悠
互いに盃に入った酒を飲み交わして約束事を強める、「契りの盃」を思い出しました。
お茶碗と主体の二人(?)はお茶碗で酒を飲んで契りを交わしているのでしょうか。
「主」は「ぬし」と読みました。五七五の定型句です。北斗の拳の世界に一人でフォーマルスーツ着用でやってきた狂気のでたらめさかげんです!
2か月後凝灰岩の旅に、王手/南雲ゆゆ
調べたところ「ぎょうかいがん」と読むそうです。「火山噴出物が固まってできた岩石」ということは、噴火から2か月経っているわけです。
大手は将棋を指す手つきをした、巨大な岩の手(おおて、とかけて)かもしれません。対局に2か月以上かかっているのかも。
でたらめの定義を教えてください/中城ユウイチ
川柳投稿フォームから質問を送ってくるでたらめさがすごいですね。選者は川柳として読みますが。
改めて真顔で聞かれると恥ずかしくなってきます。川柳には読む人にいろんな気持ちをいだかせますが、恥ずかしさを引き出す句はなかなか難しいのではないでしょうか。かなり考えさせられました。
でたらめな初夢でした/湊圭伍
いったいどんな初夢だったんでしょうか、って考えたんですが夢ってだいたいでたらめ要素ありますよね。相当なでたらめっぷりだったのでしょう。どんな夢なのか内容が気になりますー!!
買ったばかりのコーヒー豆の袋が逆さで 床一面が黒いつぶ 袋に少し残っていたが そちらは流し台にうっかり/大山
日記じゃないですか?
川柳として日記を送ってくるのも結構なでたらめですね! 長さが効いています。
さんざんな日ですね。こういう悲しい日はふて寝してしまうのが一番です。
光る真似ばっかしてたらほしづくよ/佐藤移送
ゴッホの「星月夜」を動詞にして「ほしづくよ」にしたのでしょう。「ほしづく」は星月夜になっていく事なのでしょうが、風景がキラキラ輝きながらキャンバスに吸い込まれていく景が浮かびます。あえての定型も額縁を思わせます。
…ってこんな叙情的で美しい句をでたらめ川柳句会に投句するのはもったいなくないですか?
…ハッ! そこがいちばんのでたらめ要素!!
それにしても綺麗な句ですねぇ…。
メくるメく、感電A年私罪砲。/まつりぺきん
洒落からの発展が素晴らしいですね。「墾田永年私財法」とかけています。A年は何年かわからない、と読みましたが、何年も感電してしまううちにめくるめく快感を覚えてしまったのかもしれません。私罪砲はレーザー兵器でしょうか。レーザーによる開墾は罪になるのです。危ないし。
「メくるメく」は二つのメの間に「くる」があるので、両目がくるくる回っている様子が想像できます。
新感覚kissをただちに……土竜味!/汐見りら
キュン句…♡モグラ味のキスは土の味がしそうです。かわいい。
ホシバナモグラを想像しました。モグラとキスした事はありませんが、小動物を飼っている人でも鼻の先が星形になっている動物とのキスは新感覚になるのではと思いました。
ただちにの後の「……」はキスした後に見つめ合うような間があったのかなと思いました。
●おわりに
初めて選者をやってみたのですが、学ぶことが多くてとても楽しかったです。他にも川柳でやりたい事がいくつも出てきたので、おいおい挑戦していきます。
このたびはご参加ありがとうございました!
↓応募要項はこんな感じでした