沈められる男はさらに堕ちる

 袖を長くしたシャツが恋しくなる季節の夜、乗組員が見えない船やコンテナが点在している港の片隅には男が3人居た。一人は縛られて海へ突き落されることになる。
 「なぁ俺を海へ沈めるなんて考えなおしたほうがいいぞ!きっと妻や娘が仇を討ちにやってきて泥沼の復讐劇が始まるんじゃないのか?なぁそうだろ!?」
 「あほか、別れた家族と音信不通なのは知ってんだよ」
 借金を返せなかった男にツッコんだニット帽を被った男は、これから始末するこの不甲斐ない男に付ける錘を見ながら。
 「たかが一人とはいえ、うちの会社のアレの餌にしちまえばいいのにさ」
 「しょうがないさ、今日は会社が餌を受け付けてねえんだから。受け入れ先がないなら沈めるしかなぁ」
 なにか口実となる材料はないか、これから殺される瞬間を先延ばしにするでもいい。とにかくこいつらの冷静さを奪いたかった。
 「そうだ!金じゃなくて娘を代わりにどうだ?ナニを満足させるでもいいしビデオで売るのもいいしウリで金を稼ぐでもいいしな!」
 一瞬の沈黙と自分の引き攣った笑顔が痛かった借金を抱えた男。二人からくる同情どころか哀れみすら無いつららのような視線がさらに羞恥を広げる。
 「なるべく痛めつけて殺そう」
 「俺は気に入ったぜこの下衆」
 ニット帽の男は借金持ちの顔を自らの所有物かのように顎をつかむ。
 「なぁお父さんよぉ、別に女なんか要らんのよ。でもね、気に入った。あんたこれから俺たちの......なんだっけこういうの?そう、パシリだ」
 借金持ちは即座に一つ返事でやりますと返す。のどを鳴らす笑い声で歓迎するニット帽の男は隣の相棒へ次にこう提案した。
 「賭けをしよう。逆らったら俺は会社に居るアレをお前に譲る。逆らわなかったらお前の秘密をバラせ」
 「......アッホらし」
 「ありがとうございます!この身が擦り切れるまであなた方にお供させていただきます!」

【続く】

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