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「シャンパン・ミュージック」と元祖2大ギターヒーロー

『The Lawrence Welk Show』  1959年 Christmas時

■Lawrence Welkと”シャンパン・ミュージック”を御存じですか。

今日のお題であるLawrence Welkなんですけど、多くの方は名前を聞いたことがないんじゃなかろうか。あちらでは有名な方。

Lawrence Welk

アメリカで『The Lawrence Welk Show』(以下『Show』)という音楽テレビ番組を1951年から1982年まで31年間も続けたという、ある意味偉人

ミュージシャンとしてのキャリアは1920年代からスタートして、メインの楽器はアコーディオンだった。1940年代にはフィルムが中に仕込まれた映像で見せるJuke BoxSoundiesのフィルムにも登場、さらに1961年にはインスト「Calcutta」という全米No.1ヒットを放っている。

彼は指揮者としてどんな音楽をやっていたのか。まず『Show』から一曲。

1938年、彼のビッグバンドがピッツバーグで演奏した際、当地のファンが「軽快で陽気な音楽はシャンパンのようだ」と喩えたという。それを聞いたWelkが自身の音楽を”シャンパン・ミュージック(champagne music)”と名付け、それがトレードマークになったそうな。

『The Champagne Music Of Lawrence Welk』1961年

シャンパン・ミュージック。gooで語義をみると「食事の際に演奏される、気楽な軽い音楽」とある。クセのある音楽が好きな私からすれば、”毒にも薬にもならぬ音響”ではある。

実際、『Show』動画のコメント欄を覗いてみると、「お祖母ちゃんがファンで毎週観ていたので、仕方なく横で一緒に観ていた」とか「親がこれを観るのがイヤだった」とか、ロック世代の子や孫たちの怨嗟の声が渦巻いていたのだった。

でも、なぜ私がここまで『Show』に入れ込んじゃうのか。

■アメリカ元祖2大ギターヒーロー、ここにあり。

というのは、Welkのオーケストラに、アメリカの元祖ギターヒーローというべきふたりのギタリスト、Buddy MerrillNeil Levangがいたから。

まずは、彼らの演奏をご覧下さい。

●Buddy Merrill

いまのアマチュアでもこんなプレイはしないぞ!スケールレッスンか? という声が聞こえてきそうだ。でも、これらの動画に予備知識無しに遭遇した時、このMerrillのプレイを一発で気に入ってしまったね。この拙さ、たどたどしさ、そこがいいのよ。超絶技巧のVirtuosoスピード競争よりもよっぽど新鮮、枯淡の境地つーか。

Buddy Merrill 1956年(Public Domain)

Merrillが楽団に入ったのは1955年だが、前年発売になったばかりのFender Stratocasterを手にしている。Leo Fenderとは個人的親交があり、Fender社とEndorseな関係を結んだ最も初期のミュージシャン。テレビを通じてStratoの販売に寄与した最初の人、まさに元祖ギターヒーローなのだ。

(『ギターマガジン』「FENDER STRATOCASTER」2014年版に詳細な記事がある)


●Neil Levang

そのMerrillが1959年米陸軍に入隊した間のリカバー役としてWelkに雇われたのがNeil Levang。彼はもともとカントリー系のプロで、のちにMothers『Freak Out』(1966年)をはじめ有名アーティストの録音にも参加した優秀なセッションミュージシャンでもあった。

巧いよね、やっぱり。こういうのは簡単そうだけど、弾こうと思ってもなかなか出来ない。1961年の「Ghost Riders In The Sky」のプレイなどは、Levangが意図せずして”Surf Guitar"スタイルを創造したとも言われている。確かに同感ですな。

●MerrillとLevangの共演

WelkはLevangの腕を見込んで正式に楽団に採用し、陸軍から戻ったMerrillも加わってのWネック体制となった。Merrillは1974年まで楽団に在籍し、Levangは1982年の『Show』最終回までWelkとともにプレイしたのだった。

■ふたり死して音残す。RIP.

上にある「San Antonio Rose」の動画に付いた評価順コメントの一番上に、こういう一文があった。

Thanks to his fans and YouTube, my father and his music will live forever. Rest in peace, Dad. Jan. 3. 1932 - Jan. 26, 2015

これは娘のCoral Levang氏が書いたものだった。

Neil Levangが2015年に亡くなった時、私はその訃報をFacebookの彼のアカウントで見たと記憶しているけど、それはこの娘さんが書いたものだったかも知れない。老いたLevangにFenderのカスタムショップがアルミピックガードのシグネチャーStratoをプレゼントした時の画像が添えてあったと思う。なんだか胸に迫るものがあったね。

Buddy Merrillが亡くなったことは今日の今日まで知らなかった。wikiに”December 5, 2021, at the age of 85.”とあった。3年ほど前だったのか。死因は記されていない。

Stratoのギターヒーローと言えば、JimiとかBeckを思い浮かべるけど、その前にBuddy MerrillやNeil Levangがいたことを忘れたくないと思う。私はときどき、思い出したようにふたりのギタープレイを聴いては、ホッとした気分に浸る。

そうか、シャンパン・ミュージックの効用とはつまり、ソレだったのだ。


■10月13日追記:youtubeに新しい『Lawrence Welk Show』の動画がアップされていた。放送は1956年1月。Buddy Merrillによるインスト曲。拙いところに味わいがある、そんなBuddyである。

(了)

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