Tokyo Happy Coats『奥の細道』 【Bonus Track 5】 なぜ”Gay”なのか?
■「Gay Little Hearts」は、なぜ”Gay”なのか?
以前から気になっていたことがあった。それは、なぜ日本のジャズバンドでグループ名に”Gay "と名付けたバンドがあるのか?、ということ。
たとえば戦前から戦後にかけて日本で活躍し帰化したフィリピン人のジャズメン、Raymond Condeのグループは「Gay Quintet」「Gay Six」「Gay Septet」とずっとGayが付いていた。また、WW2後の1949年に多忠修(おおのただおさ:ビクター専属でトニー谷の作品をプロデュースしたことでも有名)によって結成された日本5大ビッグバンドのひとつ「Gay Stars」もそうだ。
そして本稿の主人公「Gay Little Hearts/Tokyo Happy Coats」もGayである。
英語にご堪能な方なら先刻承知という話なのだろうけど、こっちはサッパリ派。ネットで調べると、どうしても男性の同性愛者、LGBTQのことが検索される。
■Gay Starsのボーカルだった熊田千穂氏に教えられる。
いろいろと検索を繰り返していたら、あるブログが見つかった。
ジャンプしてみると、それこそ多忠修から数えて7代目のリーダーとなる岡本章生とGay Starsのボーカルを担当していた熊田千穂氏のものだった。
そのブログで熊田氏は、Gay Starsの”Gay”についてこう綴っている。
つまり「陽気な」という意味だったのだ。「なーるほどねえ!」ざんす、ざんす、さいざんす。
それでGay Little Heartsの場合は、Little Heartは「年下の恋人」を意味するらしいので、”陽気な年下の恋人たち”というグループ名ということになる。まさに彼女たちにピッタリなネーミングだ。
■渡米にあたってグループ名改名を指示したダン・ソーヤー。
この「Gay Little Hearts」というネーミングにまつわるエピソードが、【Bonus Track 3】 で紹介した大庭五郎著『戦後期渡米芸能人のメディア史:ナンシー梅木とその時代』に記されていた。
実は渡米を機になぜ名称を変更したのかも気になっていたところ。日本時代のファンで軍務を終えて帰国したGIも多かっただろうから、”馴染み客”に対しては、Gay Little Heartsの方が名前としては通りが良かったはずである。だのに、なぜ、改名したのか。
グループ名の変更もマネージャーであるダン・ソーヤーの指示だったのだ。
あくまでも想像だが、アメリカデビューに際して”Gay”という言葉がソーヤーとしては引っ掛かったのではないだろうか。「陽気な」ではなく「同性愛者」と受け取られる、だからアメリカで1950〜60年代に流行った日本調ブームで馴染みとなった「法被」をその代わりに纏ったのだと。
でも時代が異なるとはいえ、もしソーヤーにそのような危惧があったとしても、杞憂に終わったかもしれない。
(了)