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薔薇十字の修行とイニシエーションの階梯(シュタイナーの人智学)

「神秘主義思想史」に書いた文書を少し編集して転載します。


ルドルフ・シュタイナーは、1904-5年の「いかにして超感覚的世界の認識を得るか(以下「いかにして」と略す)」、1906年の講演「神智学の門前にて」、1907年の講演「薔薇十字会の神智学」、1910年の「神秘主義概論」中の「高次の諸世界の認識」などで、修行法とイニシエーションの階梯について語っています。

これらでシュタイナーが勧めている修行法を、彼は薔薇十字会系のものであると語っています。

ただし、「いかにして」や「神秘主義概論」では、「薔薇十字」という表現は使っていません。

薔薇十字の修行法は、思考を通した認識や自由を重視するもので、シュタイナーは、この修行法が、現代の西洋人に適した道であり、人智学の「精神科学(霊学)」に合った道だと考えました。

この方法を説くことは、シュタイナーの歴史観の帰結であり、「東洋の道」を重視する神智学協会と根本的に相違する点でもあります。


3種の道


シュタイナーは「神智学の門前にて」、「薔薇十字会の神智学」などで、3種類の修行の道について述べています。

「東洋(ヨガ)の道」、「キリスト教の道」、「薔薇十字の道」の3つです。

「東洋の道」はパタンジャリの「ヨガ・スートラ」の八支則のことです。

シュタイナーは、単純にこれを「東洋の道」とします。

神智学協会が「ヨガ・スートラ」を重視していることが、その理由の一つかもしれません。

シュタイナーは、この道を、完全にグルに頼る方法であると言います。

「キリスト教の道」は、「ヨハネ福音書」を通して、ロゴスの力、キリストの生涯を内面的に魂で体験する方法です。

キリスト=ロゴスが地球の霊となり、肉体の中に入って私たちの下に住んだことを信じることが前提となる道です。

シュタイナーはこれを秘儀の7つの段階と考えます。

1 洗足   :謙虚さ、動・植・鉱物に感謝
2 鞭打ち刑 :断固として立ち向かう
3 茨の戴冠 :馬鹿にされても毅然と耐える
4 磔刑   :身体に対する無関心
5 神秘的な死:地上的なものに対する死、被造物の苦しみを体験
6 埋葬・復活:地上のすべてを自分の体と感じる
7 昇天   :魂が脳から自由に


薔薇十字の道


「薔薇十字の道」は、知識によって信仰から離れた人のための道であり、霊視や霊聴を叡智の源泉とする道です。

グルは助言者に過ぎず、修行者は自立し、霊界との関係こそが第一とされます。

また、「いかにして」などのシュタイナーの著作は、書自身がグルの代りとなるように書かれています。

「薔薇十字の道」は、基本的にはクリスチャン・ローゼンクロイツによって作られ、指導されました。

シュタイナーは、彼を、高次な霊的存在が受肉した、歴史的に実在した人物であると言います。

ですが、より古くは、マニやディオニュソス・アレオパギタなども、この道の形成に力を尽くしたと言います。

もちろん、現在の知見では、クリスチャン・ローゼンクロイツは、ヴァレンチン・アンドレーエが創作した人物で、天使のヒエラルキアについて著した「天上位階論」のディオニュソスは、「偽ディオニュソス」とされます。

また、当時シュタイナーが知りえたマニの情報は限られていましたが、悪に対する考え方に共感しています。

「いかにして」では、最初に次の基本的な2つの道が説かれます。

一つ目は、「畏敬の道」で、真理と認識に対する畏敬の念を持つということです。

二つ目は、「内的生活の開発の道」で、毎日時間を確保して、内的平静を保ち、思考の瞑想を行うことです。

また、「神智学の門前にて」では、「薔薇十字の道」は2つの自己認識が基本であると言います。

一つは、低次の自己認識で、日常の自分を観察し、それが高次な存在でないことを認識します。

二つ目は、高次の自己認識で、高次な自己は外なる世界の中にあると認識します。


特性を獲得する6つの行


「薔薇十字の道」には、「6つの行」と呼ばれる方法があります。

また、イニシエーション(霊界参入)が7段階で語られ、それに対応する行法もあります。

「神智学の門前にて」では、この2つは平行して行うべきものと語られます。

「6つの行」は、「いかにして」、「神智学の門前にて」、「神秘学概論」などで語られます。

これは、「魂の特性」を獲得する行で、体と魂を分離させずに霊的に進歩するための基本的な方法です。

一見すると神秘主義や霊能力とは関係なさそうな、精神の基本的な能力を伸ばす訓練です。

具体的には、以下の通りです。

1 思考のコントロール(思考の行)
:一つの概念について論理的に考えていく

2 行動のコントロール(意志の行)
:毎日、決めた時間に決めた行動を行うなど

3 感情のコントロール(感情の行)
:平静を保ち、快不快、喜び・苦しみの表現を統御する

4 積極性
:あらゆる事物・人の中に善・良い点を見つけ、肯定的な態度を身につける

5 信頼・受容
:何事も過去の経験で判断せず、新しい体験に信頼を持って向かう

6 調和
:上の5つの行を通して能力の均衡を形成する


イニシエーションの7段階と行法


イニシエーションの7段階とそれに対応する行法については、「神智学の門前にて」、「薔薇十字会の神智学」、「神秘主義概論」などで語られます。

基本的には以下の順番に行いますが、人によって前後して異なる順番で行ってもかまいません。

1 学習、霊学の研究
2 イマギナチオーン認識(霊視的想像力)の獲得
3 インスピラチオーン認識(霊聴的霊感)の獲得
4 イントゥイツィオーン認識(合一的直観)の獲得
5 小宇宙と大宇宙の照応
6 大宇宙との一体化
7 三昧(神的至福)

各段階の意味と、そこに至るための行法は、以下の通りです。

1の「学習」のための行法は、論理的に思考する、読書で著者の論理をたどる、思考展開・思考体系への沈潜などです。

2の「イマギナチオーン認識(想像力・霊視)」の獲得のための行法は、

象徴的形象へ沈潜する、すべて事物を霊の象徴的比喩と見る、植物の成長過程を瞑想するなどです。

象徴的形象へ沈潜は、シュタイナーが勧める方法は、まず、植物と人間の瞑想です。

これは、植物と人間の存在のあり方の違い、植物の完全性と、植物にない人間が持つ感情・欲望の高次性と不完全性をイメージするものです。

そして、植物存在をその緑の樹液に象徴し、人間存在を赤い血液に象徴します。

次が、薔薇と十字の瞑想です。

これは赤い薔薇をイメージし、それが緑の樹液が赤く変化したものであり、それを浄化された感情・欲望として感じます。

次に、黒い十字架の上に7つの薔薇をイメージします。

そして、前者を根絶された低次な感情、後者を浄化された感情として感じます。

重要なのは、イメージに感情を込めることと、イメージの内容よりも想像力自体を問題とすることです。

この認識によって、変化する存在を認識できるようになります。

この段階は「アストラル界参入」と呼ばれます。

3の「インスピラチオーン認識(霊感・霊聴)」の獲得のための行法は、上記の「6つの行」や、「逆向き瞑想」(毎日の出来事を時間を遡りながら客観的に振り返る)、感覚に捕らわれない「純粋思考」などです。

「イマギナチオーン認識」と違って、認識において感覚的な形象との結びつきをなくす必要があります。

また、この段階の認識を意味あるものとするには、宇宙的な象徴への集中や、理念への瞑想の行によって、魂を成長させる必要があります。

この認識では、変化する存在の内的特性、形姿の中に表現される存在同士の内的関係、天球の諧調を認識できるようになります。

また、文字の形の中にある象徴を理解することができるようになります。

そのため、この段階の認識は、「意味文字の解読」とも呼ばれます。

また、思考や概念が、生きた具体性を持ったものとして体験されます。

この段階は「神界参入」と呼ばれます。

4の「イントゥイツィオーン認識(直観・霊的合一)」の獲得のための行法は、形象的な体験だけでなく、霊聴的な体験も含めて、これまでの体験のすべてを消し去った時に、現れたものに対して没頭することです。

この認識では、存在の内面の認識ができるようになります。

また、この段階では、呼吸法によって植物のように炭素を酸素に変換することができるようになります。

そのため、この段階は「賢者の石の製造」とも呼ばれます。

5の「小宇宙と大宇宙の照応」の段階では、身体の各部分に沈潜することで、それが生まれることになった理由、それが照応する外部(大宇宙)を知ることができるようになります。

6の「大宇宙との一体化」は、5の延長上にあるもので、身体の各部分から出発して、それが拡大され、外部の世界の中に沈潜して、そこに神を見出すことです。

7の「三昧(神的至福)」では、6を通して、全宇宙の意志に応じた仕方で自分に対することができるようになります。

思考内容をなくした思考活動で、神的・霊的世界に安らぎます。


イニシエーションの結果


イニシエーションの結果として現れる事項に関しては、上記の著作、講演や、「いかにして」で語られます。

具体的には下記のような結果、現象が現れます。

A 霊的器官の形成
B 夢・睡眠中の意識の持続
C 高次の自我と人格の分裂・再結合
D 境域の守護霊との対面

Aの「霊的器官の形成」は、まず7段階の第2段階の結果として、アストラル体の次元でチャクラ(蓮華、輪)が輝き始め、次に回転を始めて、霊視能力が現れます。

シュタイナーはチャクラの種類を下記のように4つ数えます。

・喉のチャクラ :16弁:思考内容の霊視能力と関係
・心臓のチャクラ:12弁:魂の志向、動・植物の諸力の認識と関係
・腹部のチャクラ: 6弁:官能性と霊性の均衡に関係
・鳩尾のチャクラ:10弁:魂の才能や能力の認識と関係

心臓のチャクラは光を照射して、アストラル界を知覚することができるようになります。

次に、第3段階の結果として、エーテル体の次元で、心臓の回りに新しい中心点が意識されるようになり、それが認識器官になります。

これは、チャクラにエネルギーを流すようになり、外部に向かっては、光線を放つようになります。

次に、第4段階の結果としては、肉体の次元で変化が起こります。

Bの「夢・睡眠中の意識の持続」は、まず、第2段階の結果として、夢に変化が起こります。

最初に、物質世界を反映した夢も霊的世界を反映した夢も規則的になります。

次に、夢の中で目覚める(意識を保つ)ことができるようになります。

そして、物質界に属さない情報が夢の中に現れます。

また、夢のイメージが日常世界に入ってくるようになり、そのイメージを意識的にコントロールできるようになります。

次に、第3段階の結果として、夢のない眠りにも意識を持続させることができるようになります。

すると、イメージに音と言葉が加わり、イメージは自分が何者であるかを語り、霊的事項の「原因」が打ち明けられます。

日常と関係した事項の場合はそれが解明され、日常と無関係な事項の場合は喜びを感じます。

Cの「高次の自我と人格の分裂・再結合」は、はっきりとどの段階とは言えませんが、まず、第2段階の結果として、「高次の自我」が形成されます。

その後、従来の「意志」、「感情」、「思考」の結びつきがバラバラになり、それぞれが独立して働くようになります。

「高次な自我」が、それらを制御し、育てて、再度、結びつけます。

普通、覚醒時には高次の世界の刺激は無意識に受け取っていて、自分より上級の霊的存在に導かれています。

ですが、これを意識化すると、自立することになるので、この時、「意志」、「感情」、「思考」の再結合が行われるのです。

そして、人は自分の責任で行動して、霊的な世界の事項を地上に移し入れる使命を果たすようになります。

Dの「境域の守護霊との対面」もはっきりとどの段階とは言えませんが、「小守護霊」と「大守護霊」の2段階があります。

「境域の守護霊」は、人が霊的な世界に入る時に出会う存在で、「ドッペルゲンガー」とも呼ばれます。

人がまだ準備ができていない場合は霊界に入ることを拒否したり、忠告をして、進める状態に促したりします。

「小守護霊」は、エーテル体とアストラル体で、「意志」、「感情」、「思考」の結びつきが解け始めた時に現れます。

「小守護霊」は、醜い姿をしていて、「死の天使」とも呼ばれます。

この醜い姿は、その人自身の過去に生活の結果です。

そのため、「小守護霊」を美しい存在にしようという欲求が生まれます。

そして、自分を浄化していくに従って、「小守護霊」の姿も変わっていきます。

「小守護霊」は、人が前に進むと、その人をこれまで導いてきた高級霊が離れることを打ち明けます。

前に進もうとする人が、民族霊や種族霊の力を身につけていなければ、孤立した存在になってしまいます。

「大守護霊」は、「意志」、「感情」、「思考」の結びつきが解けることが、肉体にまで及ぶ時に現れます。

「大守護霊」は「高次の自我」の理想の姿で、壮麗な姿をしています。

そして、人に、他者の救済のために働くべきことを告げます。

人がさらに進んでいくと、やがて「大守護霊」と合一します。


「いかにして」のイニシエーションの3段階と行法


「いかにして」では、次のような、イニシエーションの3段階とそれに必要な行が語られます。

I 準備
II 開悟
III イニシエーション(霊界参入)

これらは、大体のところ、上記した7段階の最初の3段階に相当するようです。

Iの「準備」では、植物の成長・開花を観察、それに集中し、そこから生まれる感情と思考に集中します。

また、自然の発する音に集中します。

そして、他人の言葉に集中し、自分の賛否の判断なしに没我的・脱自的に、相手の言葉に没入して傾聴します。

IIの「開悟」では、鉱物、植物、動物を考察して、それぞれから流れてくる感情を感じます。

そして、その霊的な色彩(オーラ)を見るようにします。

IIIの「イニシエーション」は、3つの「試練」の段階を経過する必要があります。

最初の試練は「火の試練」です。

これは、鉱物、植物、動物の本質について真実なる直観を獲得するものです。

これを通して、事物のヴェールが脱げ落ち、これまでに知覚できた霊的事物の秘密言語、秘密文字が理解できるようになります。

次の試練は「水の試練」です。

秘密言語が教えてくれた規準に従がって、義務を正しく認識して遂行しなければいけません。

それを通して、霊眼、霊耳が成長し、また、自制心や判断力などが鍛えられます。

最後の試練は「風の試練」です。

この段階では、自分で道を見つけて、「高次の自我」を見い出します。

そして、無条件な霊の顕現を実現する必要があります。



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