内丹法(仙道の瞑想法)
「世界の瞑想法」に書いた文章を編集して転載します。
中国の道教(仙道)の気をコントロールする瞑想法(命功)である内丹について説明します。
内丹の目的は、初歩の段階では気功に似た健康法ですが、最終目標は不老不死ということになっています。
ただ、その意味はインドで言う解脱と似たものでしょう。
そのために、内丹ではまず、生まれたての嬰児(成熟した胎児)のような、汚れのない純粋に創造的な気の身体の状態を回復しようとします。
両親の交わりによる受胎と母体の中での胎児の成長を、気をコントロールする瞑想によって再現し、新たな気の身体の胎児を、体内に育てます。
それによって、元々の身体をも純粋に創造的な気の状態にします。
内丹の具体的な方法は一つの決まった方法があるわけではなく、時代や宗派、道士によって様々な違いがあります。
本ブログでは、正統派の内丹法と思われる、張伯端によって完成した「南宗丹法」と、それを継承した「伍柳派」の、比較的一般的と思われる方法を紹介します。
内丹の瞑想法(修行法)には下記のような段階があります。
1 煉己築基
2 煉精化炁(初関・小周天)
3 煉炁化神(中関・大周天)
4 煉神還虚(上関・出神~還虚合道)
1 煉己築基
この段階は、「後天的な気」を凝縮し、「精」(エネルギー状の気)を集める段階です。
まず、「武息」という呼吸法を使いながら、下田丹(腹部)に後天的な気を集めて凝縮します。
すると気は熱くネバネバした「陽気」になります。
「武息」は、意識的な腹式呼吸で、切れ切れに鼻から吸い、それとともに肛門を締め上げます。
しばらく息を止めてから、切れ切れに空気を吐きながら、肛門の締め上げをゆるめます。
胴体と頭部の前面と背面には重要な気脈があって一周しています。
前面が「任脈」、背面が「督脈」です。
陽気をその気脈に沿って周回させます。
最初は体の表面を通りますが、徐々に内側を通るようになります。
つまり、腹部から下に降ろし、胴体の下部を通って、背中の中心に沿って上昇させます。
そして頭頂を経て、顔面を下に降ろします。
「上丹田」(頭頂)では、一定の時間、陽気を留めおきます。
これを「(還精)補脳」といいます。
この時、「文息」という、無意識で自然な呼吸を行います。
さらに、鼻から下へは、舌を通して喉に抜きます。
さらに、胴体全面を降ろしていき、中丹田を経て、下丹田に戻します。
以上、1周させるのに、数十分かかります。
これを繰り返すことによって、身体に分散している「精」(エネルギーの元)を陽気に集めます。
2 煉精化炁(初関・小周天)
この段階では、「先天的な気」を発動させてすべての精と混ぜて蓄積します。
表層的な意識を滅して下丹田に集中することで、「先天の気」を発動させます。
「先天の気」は下丹田あるいは「命門」(両腎蔵の間orすい臓部)から腎中に達します。
これを「外薬(小薬)」と呼び、このプロセスを「調薬」と言います。
この時、「陽光一現」といって、眼前にひと光りを感じます。
これを陽気と同様にして、何周も回して、下丹田に蓄えます。
これを「小周天」(採薬)と呼びます。
360回ほど小周天を行って外薬を練ることで、体中の精をすべて外薬に集めます。
このプロセスを「煉薬」と言います。
この時、「陽光二現」と言って、眉間に光を感じます。
周天は、慣れると一呼吸で回せるようになります。
文息にして意識を下丹田に集中します。
すると、会陰から「気」が登り、「内薬」が生まれます。
外薬と内薬を混ぜて「炁(キ)」(丹母)にします。
「炁」は精をすべて気に混ぜたで凝縮したものです。
つまり、精と気が一つになったものが「炁」です。
この時、「陽光三現」と言って、眉間と回りに光を感じます。
この時、上丹田から発生する液状のもの(随液)と、腎で発生した精(玉液)とを、下丹田で気と混ぜることもあります。
大周天(内丹法2)
大周天は、仙道の「内丹」における、第3段階にあたる瞑想法です。
3 煉炁化神(中関・大周天)
この段階では、炁と神(深層意識)を一体にして胎(清浄な気の体の胎児)を作ります。
まず、小周天で凝縮した炁を全身に行き渡らせて、気の身体を活性化します。
さらに心を集中していると、炁が黄庭(脾臓部)に移動します。
さらに心を集中していると、下丹田に「大薬」が生じます。
この時、「六根振動」といって、下丹田が燃焼し、腎が沸騰し、眼から金色の光が出て、耳の後ろでは風が起こり、頭の後ろで鷹が鳴き、身が沸き立つようで、鼻が引き付けたりするように感じます。
大薬は勝手に動き回りますが、外に漏れないようにしながら、ゆるやかに導いて、これまで同様の経路で周天させ、下丹田に戻します。
ただ、大薬は光を発する気の塊とする説と、液体状のものだという説もあります。
大薬を黄庭(胸部と腹部の間)に移して意識を集中し、炁と混ぜて練ります。
この時、中丹田(心臓部)と下丹田の間を動きます。(服食)
このプロセスを「採工」と言い、7日ほどかかります。
さらに、意識を集中し続けると、大薬・炁は徐々に静まり、「聖胎(仙胎)」と呼ばれる清浄な気の体の胎児になります。
「聖胎」に意識性をそれに分け与えると「陽神」(金丹)になります。
「炁」が「神」に変化したのです。
この状態は、自分の意識が今までの自分と「陽神」の2つにあるような状態です。
つまり、「陽神」は気でできた自分の分身のような存在です。
このプロセスを「採丹」とも言い、ここまでに4・5ヶ月ほどかかります。
さらに瞑想を続けると、10ヶ月ほどで胎・丹は完成します。
そして、体は純粋な陽の性質になります。
このプロセスを「養胎」と言い、ここまでに10ヶ月ほどかかります。
以上が「大周天」という行法です。
狭義では、上に説明した大薬の部分を「大周天」と呼ぶようです。
4 煉神還虚(上関・出神~還虚合道)
陽神をさらに育てて上丹田に移し、強化します。
このプロセスを「哺乳」と言い、3年ほどかけます。
陽神は、感覚をしっかり持つ分身となります。
すると、自然に頭頂から外に出て行けるようになります。
これを「出胎・出神」と呼びます。
陽神を少しだけ体外に出しては戻し、その距離を徐々に長くしていきます。
このプロセスを「六年温養」と言います。
この先は、さらに伝説的な領域になります。
行法も抽象的にしか分かりません。
無の境地の瞑想によって自我を滅する一方、陽神を成長させます。
そして、最終的には、還虚・合道と呼ばれる道教の最終の境地に至ると共に、肉体を陽神に解消していきます。
女丹
仙道の内丹法には、男性と女性では生理が違うので、女性には固有の行法があります。
中国では多くの仙女が存在していて、独自の行法が作られました。
これを「女丹」と呼びます。
有名な女性の仙人・内丹家には、呂洞賓の弟子の何仙姑、王重陽の弟子の「七真人」の一人の孫不二がいます。
また、気の弱まった老人や気が非常に強い少年にも少し異なった行法が存在します。
例えば、男性成人は下丹田を中心に気を練りますが、女性は中丹田を、また老人男性は性器部分を中心に気を練ります。
男性と女性の行法の違いを簡単に紹介しましょう。
男性は丹を一から作る必要がありますが、女性には生命を育む機能が始めからあるので、丹も最初から存在しています。
そのため、男性の場合は、腎臓の精を気に変えて下丹田で丹を作り、生殖機能を停止させましたが、女性の場合は、中丹田に気を戻して生理を停止させてから、中丹田で丹を成長させるのです。
陽性である男性は、まず先天の気で丹を作ってから練形を行います。
これに対して、陰性である女性は、先に練形を行ってから丹を成長させます。
女性の練形の最初の行法は「養真化気」と呼ばれます。
これは、月経を止めて少女や男性のような体にするものですが、これを「斬赤龍」とも呼びます。
乳房にある気が下降して経血になると考えられていたので、これを止めて中丹田に気を戻して凝縮することが重要なのです。
具体的な方法を紹介しましょう。
まず、中丹田に意識を集中します。
同時に乳房をマッサージする場合もあります。
すると子宮から光とともに気が頭頂まで昇ってくるので、これを胸下にまで降ろします。
1、2ケ月これを繰り返して、子宮から気が昇って来なくなるまで続けます。
すると、月経が止まります。
そして、中丹田で気の塊(丹)が真珠のような光りを放つようになります。
月経開始の2日前と月経後2日目には、陰になる直前の陽の気が体を流れるので、この行はこの時に行うと効果が強く、逆に月経中は行ってはいけません。
次が本格的な練形法の「九転練形」です。
これは中丹田で唾液を気に変えながら小周天を行う行です。
そして、3周天を行った後で、乳房をマッサージして気を蓄積します。
こうしていると、股のところまで降りた気が、左右に分かれて回転するようになります。
これを3回行います。合計9周天を行うことになります。
こうして、より丹を成長させます。
すでに書いたように、女性の場合は最初から丹が存在するので、丹を成長させることは男性より簡単です。
女性の場合、中丹田が決定的に重要なので、丹の循環よりも、胎息が強調されます。
丹を完成させる行は、特別なものではありませんが、「運用火符」、「黙運胎息」などと呼ばれます。
この後の行法は男性の行法とほとんど同じです。陽神を作って出神を行います。
また、老年になって月経が止まった女性の場合は、精・気を養って、一旦、月経を取り戻してからその後の行を行います。
*以下のページもご参照ください。