音楽を体験するということ
私自身、音楽教育家・ピアノ教育家として、レッスンや指導の中で「音楽体験」を中心に据えることを大切にしています。
音楽を学ぶとは、ただ音符を読み取り、指を動かす技術を習得するだけではありません。それは、考え、想像し、見ることや聞くこと、そして感じることのすべてが織り交ぜられた、全身での体験です。
五感をフルに使い、体の細胞ひとつひとつを活性化させながら音楽を体験すること。
それは音楽を深く理解し、自分自身の表現を見つけるために欠かせないプロセスです。
たとえば、楽譜に記された音符を目で追いながら、もしくは全体を俯瞰しながら、その音やフレーズがどのような響きを持ち、どのような描写をしていて、どのような感情を引き出すのかを想像します。その想像をもとに音を出し、響きを耳で聴き取る。
そして、演奏を通じて体全体で音楽を感じ取る。
この一連の流れが、「音楽を体験する」ことの核心かなと思っています。
音楽は単なる理論や技術だけではなく、人間の感覚を通して初めて生き生きとした存在になります。
そのため、私は生徒に対して「楽譜を超えた音楽」を感じてもらうことを目指しています。
音符の裏にある作曲家の意図や音楽の背景、曲の中で語られるストーリーを深く感じ取ることで、演奏がただ正確であるだけでなく、心に響くものへと変わります。
そう、楽譜はある意味、そういったアイディアや体験を書き記したものでしかない。
そして、音楽を学ぶ過程で、五感を活用して自分の中にある感覚や感情を最大限に引き出すことは、練習や本番での表現力を高めるだけでなく、音楽をより深く理解し愛するきっかけにもなる。そう思っています。
音楽を体験することで生まれる豊かな気づきや喜びや、陰や陽を含む人間の持つ様々な感情や自然への敬意。
それこそが、私が教育を通じて生徒と分かち合いたいと願うものだし、できたら多くの人にそういう体験をしてほしいと思っています。