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ラーメン屋に潜り込んでレシピを盗む。①

あぁ、44年間生きてきて、何をしてきたかを辿って書きたい、書かねばと思い始めてパソコンの前に向かうと、まぁネタがたくさん浮かぶ。困る。
いつか書き尽くす時は来るのだろうか。
思い出すまま、ここに書いて残したい。

ヴィーガンラーメン

で、今回はラーメン屋にアルバイトとして潜り込んだ時の話を書く。
それは2年前の晩夏。42歳のときである。当時私は、都内でヴィーガン料理店を営んでいた。
ヴィーガンとは、肉魚、卵、乳製品を一切食べない完全菜食主義である。
さらに、アレルギーの人も助けられたらいいなと思い、小麦粉も使わない店を目指した。
当時やりたかったのは、唯一無二な存在の店である。
この店についても後に書きたいのだが、今回はラーメン屋の話。

完全菜食主義者と読むと、サラダや生野菜をかじっているイメージがあると思うが、今の世の中、植物性食材のみでつくった肉の代替品、つまり大豆でできたハンバーグや、大豆でできた唐揚げなどは簡単にスーパーで手に入る。
おそらく気にしていない人には目に入らないかもしれないが、ソーセージの棚の一角に、ソイミートのナゲットや肉団子など専門コーナーも存在する。
豆乳はじめ、オーツミルクやアーモンドミルクなどの植物由来のミルクは豊富にあるし、チーズやバター、ヨーグルトだって牛乳以外の材料でできているものが売っているのだ。

そして、ヴィーガンラーメンも存在する。

スープの出汁も植物性。豚骨やら鶏ガラなどは一切使わない。
昆布、しいたけ、たまねぎやにんにくなどの香味野菜、かんぴょう、など植物性の食材だけで出汁をとっている。

結局みんなスペイン料理を食べたくはない

私のヴィーガンレストランはスペイン料理だった。なぜなら夫がスペイン人だから。
とはいえ、彼は店の内装や外装を手掛けてくれたのみで、運営は全て私が仕切った。もちろん料理も。
が、私はプロの料理人ではない。店のシェフは探して雇った。
店では毎日毎日パエリヤを炊いていた。パエリヤにはパプリカのスパイスを入れる。香りが強い。服や手に染み付くほどだ。
店はまだ軌道に乗っていなかった。
大都会・グルメの街「東京」とは言え、日本人にスペイン料理を食べさせることは難しかった。しかも魚介類も生ハムもないスペイン料理なんて。
毎日パプリカの香りに包まれながら、「流行っている、成功している店は何料理なのか」「場所が悪くても人が入る店とは」など考え続けていた。
普通店を始める前に考えておくことを、開けてから閑古鳥の鳴く店内で、南米人スタッフの止まらないおしゃべりを聞きながらひたすら考えていた。

私は本来アジア料理が好きである。

私だって本当はラーメンが食べたい。
餃子やカレー、ハンバーガーや唐揚げ。全て有名なヴィーガンレストランが出しているメニューである。
驚くなかれ、上記の料理は全てソイミートや代替品を使えば簡単にできるのである。
そのようなありきたりのヴィーガン料理ではなくて、スペイン料理にこだわったはずなのに、本物のスペインの家庭料理をヴィーガンで表現するはずだったのに、私の思いとは裏腹にお客様は来なかった。
やっぱり日本人が食べたいのは、餃子やカレー、ラーメンなんじゃないの?
今はスペイン料理だけど、そのうち他国籍料理にしてメニューの幅を出したほうがいいのではないか?
悶々としていた。

原宿のヴィーガンラーメン屋

店のコンセプトを「ヴィーガンのスペイン料理」と決めた時、私自身がヴィーガンになることを決めた。そして東京中のヴィーガン料理店に足を運んだ。その中でもおいしかったのが、ラフォーレ原宿の中にあったラーメン屋である。
ピンクを基調とした女子を意識したカウンター式のラーメン屋だったけれど、監修は有名高級中華料理店の料理長が手掛けていた。はじめ私はこの料理長に、このラーメン屋さんのイギリス展開を申し出ようかと考えていた。
言い換えれば、一緒にロンドンで店をやりませんか?という提案である。
行動力と根拠のない自信だけで生きている私は、本社にメールしたが一向に返事がなかったので断念した。
それでは、この原宿の店にバイトとして入り込み、レシピなど勉強させてもらえばいいんじゃないか、と店にメールした。
すると、ちょうど従業員を募集していた、とかで数日後店長から返信があった。

面接

42歳、久々に履歴書を書いた。もちろん自分で店をやっていることは伏せた。ほんの少し心が痛かったが、いちアルバイトとして店に最大限に貢献する思いは間違いなく持っていた。
面接日が来た。
久しぶりの面接に気合が入り、準備に時間がかかってしまった。どうがんばったって42歳の2人の子持ち、ということには変わらないのに、化粧という手段をつかって少しでも自分をよく見せようとするのが乙女心と言っても許されるだろうか。
山手線に飛び乗った。車内で到着時間を調べる。どう考えても面接時間に少し遅れそうである。原宿駅に着き電車から飛び降りるや否や、これは1本電話して、社会人としての常識は持ってます、と見せなければと店の番号をプッシュした。
長いコール音の後、やっと若い女の子が出た。私は勢い込んで「お忙しいところすみません!電車が少し遅れて、面接時間に少し間に合いません!」と叫んだ。
女の子はクールな感じで、わかりました。とだけ言って切った。

店の場所はラフォーレ原宿である。原宿駅からまっすぐ歩いて徒歩5分ほど。

だが、唇や鼻にピアスをした若者が、ピンクや緑の髪の毛をして個性を出さなきゃ生き残れないかの外見とは裏腹に、ボーっとした表情で仲間とふらふらと歩いている。その間を「遅れたらいかん!」とひとり場違いな風貌の42歳中年女性が、殺気立った形相で進んでいた。

ぜぇぜぇと肩で息をしながら店に着くと、アイドルのように可愛い女の子がひとりカウンターの中にいた。
「面接に来た〇〇です!」
私はカウンター席に座って待った。アイドルのような女の子は、一見全然興味ないという感じを出しながら、内心なんなんだこのおばさん、という好奇心を内に秘めながら、てきぱきと野菜を切ったりスープを仕込んだりしていた。
「こんにちは〜」
メガネをかけた、小柄で私より少し年下かな、という男性が「アイスコーヒー飲みますか?」と聞いてくれた。店長だった。
店長は、私の履歴書に目をざーっと落とした後、店の説明をし始めた。
業務内容、店の売上、シフトの回し方、など。興味深いところはメモをしながら聞いた。ひととおり店長の説明が終わった後、私は事前に準備していた質問を次々と浴びせた。
たとえ面接で落とされても、この機会を逃してはならない。最低でも、店の経営状況やラーメン店の回し方、など聞いておかねばここに来た意味はない。
店長は、店の内情を細かく聞かれたことを不審に思うどころか、好奇心をもってもらえて嬉しい、という感じで、私の質問にほとんど全て答えてくれた。
この人大丈夫かな、と思うぐらい何の疑いもなく。
そして私自身のことは何も聞かず、いつから働けるか、どのぐらいシフトに入れるか、だけ質問し、その場で採用となり、ラインを交換し面接終了となった。
最後にアイドルちゃんに「ありがとうございました!」とお礼を言って店を出る時、彼女だけが変なの〜という顔で私を見ていた。

続く・・・




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