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ペリー通りの休日

 横須賀市の久里浜には飼い犬がたくさんいる。久里浜海岸沿いのペリー通りを歩けばどの時間でも散歩中の犬に遭遇できて、朝の6時台でも複数の犬と飼い主が少し広いスペースに集まって交流していることがあるほどだ。

 犬種はダックスフントやチワワ、パグに柴犬など主流な(?)ものが多いけど、なかでもポメラニアンとの遭遇率が高い気がする。茶色くて軽そうな長毛をまといファッサファッサとうごめくかわいい生き物をしょっちゅう拝ませてもらっているので、それだけで移住した甲斐があったというもの。飼い主は若い女性だったり老齢の男性だったりで、犬を愛する気持ちに歳も性別も関係ないんだと知らされる。

 久里浜には釣り客・レジャー客も多い。ふだんは閑散としている波止場や浜も、休日になればそこそこな人数が、釣りをしたり浜辺を歩いたりして楽しんでいる。そうやって思い思いに余暇を過ごす人たちを眺めるときも、飼い主と散歩している犬と遭遇するときも、自分は誰かの生活の一部から幸せを分けてもらっているのだと、歩きながら感じる。

 これは良い事なのか分からないが、いまの自分がもっていない充実した生活(あるいは、幸福度の高い生活)は、まだ実際に手に入れなくても、他人のものを想像するだけで充分すぎる気がするのだ。

 あの犬は家ではどうやって可愛がられているんだろう? あの家族はどんな家に住んでいて、今夜は何を食べるんだろう? などなど。わざわざ海辺に遊びに来るくらいだから、心身ともに比較的すこやかな人が多いのだと思う。けれど、日暮れの頃に浜へのステップをくだる母娘の姿や、魚がかかるのをぼんやり待っている釣り人の横顔といった儚さを感じさせる瞬間に立ち会うと、いまここで過ごしている彼らの時間があくまで全体の一部であることを思い出す。久里浜で過ごす余暇が彼らにとってどんな時間なのか、日常との比較をとおして知りたいと思う。そんな私が散歩しているのもまたペリー通りだ。

 誰もが互いの背景の一部で、孤独さえも華やかに引き立てる。

 そんな歌詞があったが、曲名は何だったか。ああそうだ、Saturdayだ。でも今日は日曜じゃないか。惜しい!

 とまあ、そんなかんじで、久里浜の散歩はけっこう楽しい。知り合いもいない土地で、誰かの背景になることくらいは出来ていれば嬉しいが、一人に慣れすぎて心配な気もする。明日も休みだ。

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