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ゲーマーだった少年も今では保育士やってます!#9〜新米保育士時代編

元少年ゲーマーが新米保育士として働き始めた、自伝的エッセイ風物語。今回は第9話です。
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【あらすじ】
保育園に就職して1年目。
一緒に組んだ先輩は保育園で
一番大きな影響力を持つ人だった。

保育の知識、経験、技術は
トップクラス。
反面、かなり厳しい保育スタイルは、
子どもたちや後輩保育士から恐れられ、
周りを萎縮させていた。

それだけではなく
保育園では彼女の派閥が
多くのシェアを占めており
その取り巻きにより
気に入らない保育士たちを
徹底的に退職へと追い込んできた。

彼女は、その叱責が
鋭く落ちる稲妻に
似ていることから
カミナリ⚡先生と呼ばれている。

そして、カミナリ⚡先生を
取り巻く保育士たちが増えた事で、
その派閥は
カミナリ⚡一族と呼ばれ
発展していった。

その一族のTOPに君臨する
カミナリ⚡先生の
圧倒的な権力の前に、
新米保育士フォルテは
なすすべもなく
屈してしまったのだ。


    フォルテ闇落ち寸前

カミナリ⚡一族…

この種族はカミナリ⚡を自在に操るという。

体に帯電させたエネルギーを
一気に放出し、発雷させる。

カミナリ⚡を受けた人は
心が焦げて黒く染まっていき、
それに耐えきれず、
退職者が後を絶たない。

オレは1年かけて
この保育園に潜む
黒くうずまく闇の正体に
ようやくたどり着いた。

しかし、その代償に
1年間カミナリ⚡を受け続けたこの心は、
黒く染まりつつあったのだ。

しかし、完全に黒く
焼け焦げてしまったわけではない。

カミナリ⚡一族という種族には
なりたくないという信念が
オレを踏み留まらせていた。


   カミナリ⚡一族の支配

カミナリ⚡一族は、
カミナリ⚡を落とすという恐怖で
クラスを支配してきた。

ゆえにカミナリ⚡一族のクラスは
一見、落ち着いて見える。

しかし、それは仮の姿だ。

クラスが、一族の手から離れた瞬間
クラスは崩壊する。 

今まで押さえつけられていたものが、
一気に爆発するからだ。

これには、オレも随分悩まされた。

カミナリ⚡先生が休みの日には
必ずといっていいほど、
子どもたちの荒れた姿に
直面するのだ。

泣いてグズる。甘える。
些細なことでイライラし手を出す。
トラブルが後を絶たない。

こういう時に、闇落ち寸前フォルテは
カミナリ⚡を落としたくなる。

実際に落としたこともある。

実に後味が悪い。

もう二度とやるまい、と後悔する。

しかし、カミナリ⚡によって
まとまっている風に見えるクラスは
カミナリ⚡によってしか
まとめられないと、錯覚してしまうのだ。

だから、再び同じカミナリ⚡を
繰り返してしまう。


まさに、負の連鎖だ。


オレは、1年目を終える年度末、
この負のルーティンから
抜け出せずにいた。


    保護者からの言葉

年度末の3月は、次年度に向けて
最後の懇談会がある。

カミナリ⚡先生は言葉巧みに
自分のしてきた事を正当化し、
1年間で子どもたちが
どれだけ成長したか、アピールしている。


『1年間でたくさんの事が身についたんですよ〜😁おうちでも、保育園で身につけたこと、
どうですか〜?役にたってますか〜?』


何言ってるんだ。
全部、カミナリ⚡落として
やらせてただけじゃないか。

でも、オレはもはや何も言えない。
ただ、黙って、うなずいて聞いているだけだ。
この、虚無感は言葉にできない。


保護者はカミナリ⚡先生の正体に
うすうす感づいている。

でも、不用意な発言はしてこない。

カミナリ⚡先生の機嫌をそこねて
翌日、それが子どもにブーメランとなって
返ってくることを危惧しているからだ。


しかし、ある保護者が口火を切る。


「今年になってから、急に保育園に
行き渋るようになったんですけど…」


………あっ、やばい…カミナリ⚡先生の機嫌が…

こんな時にも
カミナリ⚡先生の顔色を
うかがってしまうほど
オレは追い込まれていた。


「でも、保育園ではフォルテ先生が
いつも声をかけてきてくれて、
一緒にいてくれるんだって…息子は言うんです。」


不本意ながらカミナリ⚡一族に
染まりつつあったオレは、
この言葉がとても苦しかった。

だって、オレも…
カミナリ⚡を…落としてしまったから…

保護者からのこの言葉に、
カミナリ⚡先生は、こう答えた。


『はい😁一応、クラス運営として
私が少し厳し目に生活面を指導して、
フォルテ先生が優しく受け止めるっていう
バランスを保てるようにしてきたんです〜😆』


その保護者はニコリともせずに、
ただ黙って聞いていた。

全てを見透かしているかのように、
ただ黙って、カミナリ⚡先生の顔を見ていた。

そして、ひとつため息をついた後、
視線をオレに向けてこう言った。


「フォルテ先生。
息子は先生が唯一、心の拠り所だったんです。
だから、いくら行き渋っていても、
毎日通うことができたんです。

本当に、ありがとうございました。

…………私は、先生が……先生のまま……
変わらずにいて欲しいと思っています。

息子は、フォルテ先生と一緒に年中クラスに
進級したいそうですよ。」


 


オレは…カミナリ⚡を落とすようになってから


絶対に…


……………………絶対に、嫌われたと思ってた。

……子どもたちの心が、離れたと思ってた。

子どもたちを守る立場なのに
いつの間にか、先輩保育士の目を気にして
同じようにしてしまったから。


何度も自分を責めた。

何度も心の中で謝った。

繰り返し。繰り返し。ゴメンねって。

でも、それすら言えない自分が本当に嫌だった。

カミナリ⚡を落としてしまう
自分への嫌悪感で一杯だった。

悔しくて…悔しくて…たまらなかった。


だから、保護者が子どもの気持ちを
教えてくれた時…



気がつくと、声を出すほど泣いていた。



懇談会の場が静まり返る。

泣きながら
言葉にならないごめんなさいを

何度も
何度も
繰り返した。


明日の朝、その子が登園してきたら
ギューっと抱きしめて伝えたい。

「きてくれて ありがとう!」


次回、新米保育士編は完結します。

ここまで読んで下さりありがとうございました🙇


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