祖母の長崎での被爆体験
私の母方の祖母は1945年8月9日に長崎に落とされた原子爆弾により被爆しています。
2019年4月に祖母に半生をインタビューしたのですが、その内、被爆体験と終戦体験を語ってもらった部分の書き起こしを抜粋して下記に載せます。
1945年に15歳だった祖母は、五島列島の中通島出身で、当時は長崎の寄宿舎に住む学生でした。
94歳になったいまでは福岡に暮らしています。
(インタビュー及び書き起こしには友人の西野奈那保さんに協力してもらいました。ありがとうございました)
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原爆が落ちたときはもう何も見えなかった。次から次にどんどん燃えていくの。広い通りはまるで人間の洪水だった。長崎市民全員が田舎の方に逃げて行くかと思うくらいに、道が人でいっぱいだった。私たちは寄宿舎の2階に居たの。原爆が落ちたのが11時2分。ちょうどそのとき寄宿舎では賄いさんがお昼ご飯を炊きよる途中だったのね。私たちもそこで出来損ないのおにぎりをもらって食べた記憶がある。それから、だんだん周りも燃えてきて、寄宿舎も燃えるかもわからんから、出た方がいいって言われて出ようとしたら、階段がよれよれになっててね。降りている間に壊れてしまうんじゃないか、落ちてケガするんじゃないかと思いながらそおっと降りた。私はそのときも救急袋を提げてたの。それは私が長崎に来るときに母が作ってくれた救急袋で、いつも身の近くに置いてあったの。このときは屋根の土が覆いかぶさって物がどこにあるかわからない状態だったけど、何となくこの辺りだなって、土をかき分けたら救急袋が見つかったの。その後、寄宿舎は壊れてしまった。
寄宿舎を出て諏訪神社に行ったの。みんな神社で守られようと、人がいっぱい集まってた。そしたら誰かが、「太陽が火の玉みたい!」って、言ったのが聞こえたのね。空を見たら、太陽が真っ赤になってた。そのときの声がいまだに耳から離れないね。
野宿してるとき、先生が農家の方から「天皇陛下のおことばがあるらしい」って教えてもらったみたいで、それを聞きに連れてってもらったの。だけど、電化製品なんかも壊れてるから、ラジオからはガーガー聞こえるだけで、天皇陛下のおことばは何言ってるか全然わかんないの。「終戦」って言ってたんだけど、そのときはわからなかった。
「ぼちぼち佐世保辺りから船が出るかもわからんから、佐世保に入っておこう」って先生に言われて、佐世保に向かったの。当時、長崎から五島に帰るには、佐世保回りが早かったのね。佐世保に着いた日は雨だった。駅の周りにはあちこちに警察が居て、警察の人が空いてる旅館に連れてってくれたの。旅館に入ったときに雷が鳴って、旅館に居た人たちが「爆弾が落ちたー!」って言って、みんなで床下の防空壕に入ったの。ほんとは戦争は終わってたんだけど、旅館の人も戦争が終わったっていうことを知らなかったのね。
それから五島に行く船に乗ったの。五島のどこかの島にさえ着けば、あとは何日かかってでも歩いて帰れるしね。乗った船は漁船だった。上空を飛行機が通るたびに船がジーっと止まって、「みんな、動いたらだめだ!」って言われてね。飛行機の音がしなくなったら進み出すの。船の上には木の枝を乗せて島に見せようとしてた。攻撃を免れようと、いろいろ工夫してたのね。
五島に着いたのは8月20日だった。1人の男の人が責任を持って役場に行ってくれて、どこどこの娘さんが来てますとか、ここでみんなで待ってますっていうのを伝えに行ってくれたの。ところが、伝える方が間違えたのか、聞く方が間違えたのか、誰も迎えに来なかった。私たちは一晩中砂浜のところで迎えが来るのを待ってた。船が沖を通るたびにみんなで「おーい」って呼ぶんだけど、私たちの声は届かなかった。翌朝になって、もう仕方ないから歩こうって、みんなで砂浜を歩いてたら、船を漕いでこっちに向かってくる私の父が見えたの。歩いてる途中で、「あ、私の父や、お父さーん!」って呼んでね。父は、昨日電話があったのに帰ってこなかったからって、私たちが待機してた場所まで船で迎えにきたの。そして、父の船に乗れるだけ乗せて帰ったの。終戦は船の上で父から聞いた。もう戦争は終わってるんだよって。それを聞いたときは、「ああ、良かった」って思ったのと、日本が負けたっていう悲しさとが入り混じってたね。終戦後、町の方は食糧難で大変だったんだけど、私たちのところは農家だから、米もイモもいくらでも作れたから、食べ物には不自由しなかった。
原爆が落ちたとき、長崎が真っ赤になってる光景が五島からも見えたらしいのね。だけど、原爆でやられて燃えてるとは思ってなかったから、真っ赤になってたのは電気の明かりだと思ってたんだって。当時は灯火管制で家庭でも明かりをつけたらいかんって言われてた時代なのに、あんなに煌々と明かりをつけてどうしたのかしらって、五島の人たちは言ってたらしいの。