月命日前夜に|04.16

なんだか胸騒ぎがして自然と泣きたくなる、そんな日はきまって16日の夜。母の月命日前夜で。

大好きだった母はかけがえのない日常と引き換えに、もう二度と会えないという大きな大きな呪いを残していなくなった。それは日が経つごとに大きく膨らみ、母はいつまでも私の中に残り続けている。存在そのものは失っても失いきれないものが多すぎて、私は今月の今夜も同じ哀しさと共にある。


会いたいな、本当に会いたい。もう顔も声も朧げで、何故か思い出すのは風邪をひいた時すりおろしてくれたりんごや、消せずにいるホワイトボードの"買い物リスト"の文字や、綺麗に切りそろえられたショートカットの後ろ姿で。だからこそ確かめたい、もう一度会ってちゃんとお母さんという存在を確かめて、お母さんの声で私を呼んで欲しい。たった一度でいいから、覚悟を整えたお別れがしたい。

もう2ヶ月もすれば2年が経つのに。私はいつまで同じ所に留まり続けるのだろう。

そう思って自己嫌悪に陥ることもあるけれど、2年前の私からはたしかに色々と変わった。お葬式を終えた私は、心身ともに衰弱しなにもかもがどうでも良くなり、朝に寝て夜に起きる生活を送っていた。母の知らせを受けたのが明け方で、だから夜がとてつもなく怖い。自分の意識のない間にまた何か恐ろしいことが起こるんじゃないか、そう思うと眠れなかった。大学もバイトも休みがちで、やる気がないと思われるのが辛かった。そんなこと思うならみんな大切な人を亡くしてみればいいよ、なんて酷いことも考えた。母の日という言葉を聞くだけで胸が痛むし、セールスの電話で言われる"親御さんは…?"でさえ腹立たしい。一度本当に気が病んでいた時、大学の手続きのための電話で何度も親御さんに確認をと言われるから、"亡くなったんです、もう会えないんです" と言ったきり大泣きしてしまった。今思うと恥ずかしいし情けないしだけど、当時はそれくらい過敏になっていてちょっとしたことで我慢が効かなくなっていた。

そんな時を経て、今はものすごく回復したように思う。大学もバイトも休まず行けるようになってきたし、母のことを尋ねられてもはぐらかしてにこにこしてられるし、大切な人には胸の内を素直に明かせるようになった。一人でも夜に眠れるようになったし、得体の知れない不安からも解放された。


母との別れがあってから、人間関係における悩みがごっそりと減った。

会いたいと思う人には会いたいと言うし、あなたの〇〇なところが好きと素直に伝える、苦手な人に対してもそれはあくまで自分が見ることができている相手の一側面だと捉えるようになった。

もしこれがこの人と関わる最後の瞬間でも、交わす最後の言葉でも後悔のないように、そんな気持ちを抱くようになった。

だけどそう簡単に最後はやってこない。それどころか最後を意識することが重荷になって、次第に焦りへと姿を変えてしまった。もしかしたら最後かも知れないのに、本当にこれでいいの?絶対後悔しないって言い切れる?そんなプレッシャーで自他ともに雁字搦めにしてしまっていた。最後はたしかに必ず訪れる、だけどそれが絶対に今だとは言い切れない。ある本でずっと親の介護をしてきたけれど最後の最後に看取れなかったことが今でも大きな後悔となっている、と語った人に対して「看取りは最後の瞬間で決まるんじゃない、最後の時が来るまでにどれだけその相手と向き合い寄り添うことが出来たかだ。あなたはちゃんと看取った、それはもう誰よりも大切にね。」といった返答をしている人がいた。それを目にした時思わず涙が込み上げてきて、私まで救われたような気持ちになった。

きっと人との関わりだってそう、死別以外にも別れの形はいくつもある。だけどそれに怯えて今を大切にできなかったら意味がないのだ。今この瞬間相手とどれだけ向き合えたか、寄り添おうと努めたか、そういう行いが後の自分を必ず肯定してくれる。そしてどんなに酷い最後だったとしても、そういう事実だけは相手の中にもずっと残り続ける。最後の瞬間にどれだけ幸せに過ごすか、素敵な言葉を残すかじゃない、最後が来るまでにどれだけの幸せに気づけるか、相手に言葉を尽くせるかだと思った。小さい頃によく、今日が地球最後の日だったら何を食べたい?みたいな質問をされたけど、いつもうまく答えられなくてとりあえずその時思い浮かぶ一番の好物を答えていた。だけど今ならわかる、最後の最後に選び取ったなにかよりも最後の日までに食べた日常のごはんの方が大切だってこと。今ならきっと、最後の日のご馳走は望まないだろうな。



思いつくままにダラダラと綴っていたらもう寝る時間が来てしまった。最近は夜寝る前にジャズを聴いている。眠れなくなりそうなくらい陽気なやつ。それに合わせてストレッチすると、とても快適に眠れる気がするのでこれはぜひおすすめしたい。

こういう取り留めのない日記を書いていると、自分がより素直になれていいな。また、これからも色々と綴っていこうと思う。

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