コラム(10日)、国立市の新築マンション入居目前に解体へ、施工主は環境軽視のイメージダウン回避か
国立市の通称富士見通りに建設された10階建ての新築マンションが、購入者の入居を目前にして解体されることになった。先週末公になったこのニュースにメディアが敏感に反応した。今朝の「めざまし8」、「どうして」、「何があったの」、テレビ局らしい視聴率稼ぎの番組構成でこのニュースを伝えた。現場は通称富士見通りと呼ばれている。道を挟んだ両側に商店街などが並び、その先に富士山が丸ごとど真ん中にドンと見える。富士山を売り物にした名物通りでもある。その通りに10階建ての高級マンションを建設する計画が持ち上がった。2021年ごろのことらしい。施工主は積水ハウス。高さ36メートルの10階建て。マンション建設計画を作って住民への説明を始める。国立市への建設許可証の申請など手続き的な瑕疵はない。住民との対話を重ね、計画の修正も行なった。法的には何ら問題がない物件だった。
個人的な推測だが積水ハウスは、反対派住民と誠意を持って対話を進めたのだろう。マンションの高さも最終的には30メートルまで譲歩した。販売戸数は18個。完売ではないようだが、一部は成約済み。販売価格は7000万円〜8000万円。最上階は富士山側が全面ガラス張り。周辺住民の眺望権を阻害しながら、この部屋の住人が“絶景”を独り占めする。それを気にしたかどうかはわからない。周辺住民の反対活動が沈静化しない中で、施工主は入居直前に「解体」の結論を出す。おそらく会社側は逡巡し躊躇し、ギリギリの段階で結論をだしたのだろう。「めざまし8」に出演していた建築コンサルタントによると、マンションというのは一定の期間が過ぎると、「倍返し」といって契約金などを倍にして返す必要があるのだそうだ。そんなことを総合的に勘案した結果、会社としては解体した方がコスト的に得と判断したのではないか。
コストの問題だけではない眺望権や環境権、長年にわたる周辺居住者の生活圏にある富士山、そうしたものを奪い取る権利は誰にもないだろう。今やそんなことは当たり前だ。積水ハウスともあろう大会社が、どうして建築を始める前に中止の結論を出せなかったのか。これが個人的な疑問その1。もうひとつは国立市だ。このマンションに建設許可を出している。市として環境権や眺望権への配慮はあったのか、なかったのか。建設反対派が多数存在すること自体、許認可行政を司る市の周辺住民への配慮が行き届いていなかったことの証明ではないのか。素人ながら色々な疑問が湧いてくる。個人的には今回の決断は、相場関係者がよく口にする「損切り」だという気がする。仮にそうだとしても、会社の決断は評価できる。時代は急激に変化している。だが、そうした変化に適応できない組織や人がいっぱいいる。これも現実だ。