どうでも良い理由で担降りした話

顔の良いアイドルが推しだった。自分の推し遍歴の中で使った金額もかけた時間もずば抜けていた思う。デビュー前のときからずっと。
デビューが決まった時は涙が出た。やっと報われたと思った。美しいのに少し抜けているところが好きだった。偶像なのに自分に近い存在な気がしたから。沼にはまるのは一瞬だった。
かけれる限りのお金と時間をかけて推している時間は幸せだった。でもちょっと違和感はあった。彼のまわりがそつのない人間ばかりだからと誤魔化し続けていたけど、それは少しずつ大きくなって、あるときはじけた。「なんでそんなに抜けてるの?」
「他メン見習ってよ」
醜い感情ばかり浮かんだ。推しなのに。
極めつけは芸能人の対応を見比べるという趣旨の番組でのことだった。その頃にはグッズは買うけど忙しいのを言い訳にあまり追いかけることをやめていなかった。けど、TVの設定はそのままで。
推しの出る番組を録画していた。何気なく見たあとに後悔した。

なんで見たんだろうと。

推しと同じくらいの歳で、推しよりも芸能界入りするのはずっと遅かった俳優がみせた対応は完璧だった。その俳優のイメージを崩すことなく、世間の想像するその人の俳優像を型通りに辿っていた。そしてなにより自分の意思で行動していた。
推しは最悪だった。推しの後にその俳優の対応があったから、最初は鈍感だなーくらいにしか見ていなかったのに、俳優の対応を見たあとに最悪だと思ってしまった。
仮にも成人しているのに、何年アイドルやってるの?社会人とは思えない対応だった。道化を演じているわけでもなくただ素であの有様だった。失望した。
親切心を見せれない推しに。
そう思い始めると、あの時ああやって言われたのってもしかしたら、と思うことが沢山あった。推しに棘のある発言をした俳優に当時は憤りを感じたのにその時はああ、と思ってしまった。
偶像を覆う金箔が剥がれて中身のメッキを見たような気分になった。


それからは坂を転がり落ちるように担降りしていった。持ってるグッズは全部売ったりあげたりしたし、ファンクラブは抜けた。推しの録画も消したし、ヲタ垢も消した。


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