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静岡1日2往復

新しい会社で、新しい仕事を覚えることに必死だ。
既に、2019年、今年の6月、希望に充ちて、看板サイン業の会社に転職したことが、遥か昔に感じられる。

その前職の看板サイン業社は、自転車で通勤できる距離になったので、前の会社の退職が決まった有給休暇中、新しい自転車で、毎朝、下の子供を保育園に送った後、その看板サイン業社に、試しに通ってみた。
もちろん、まだ就業前なので、会社には寄らず、素通りして、家に帰ってきた。

晴れた日に自転車をこぐのは、高校時代の自転車通学も思い出されて、爽快だった。

そして、その看板サイン業社に転職した。

早朝勤務、残業勤務に対して、全く残業代が出なかったのは、以前に書いた通りだ。

ある日、その日は、早朝出勤ではなく、普通に9時に出勤した。午後、先輩社員と二人で、静岡市の現場に、カッティングシートを張りに行く業務が、言い渡された。
会社から、静岡市まで、東名高速を使って、約2時間ちょっとだ。

昼までには、到着するように、とのことで、朝のメールチェックなどのこまごました業務を済ませて、朝10時には、出発した。

行きはボクが運転し、少し早めではあるが、そんなに無茶な運転をすることもなく、12時頃に静岡ICを降りて、大通り沿いの駐車場がある中華屋で昼食。
その後、午後1時まで、現場近くのコンビニで、仮眠。。。

午後1時に現場に連絡を入れる。
ボクはよくわかっていなかったが、誰もが知っている某大企業の新工場建設現場だった。

その日同行した先輩社員は、ボクより年下で、とても寡黙な性格だった。それでも、新築工場現場の足元が悪い中、大きな鉄骨にシートを貼っていく作業について、要点を、説明してくれて、ボクにも作業をさせてくれたりした。

何枚か張り終えて、この分だと3時までには全ておわるかな、と思っていた。

ところが!!!

先輩が一枚のシートを鉄骨にあてがった時、寡黙な先輩の顔色が、サッと青ざめるのがわかった。

無言のまま、何度もメジャーを当て、シートの現物も当ててみる。

ボクの目にも、鉄骨の長さに、シートが入り切っていないことがわかった。

先輩は、異常なほど寡黙な性格で、暫く何も、ボクに説明してくれなかった。
そのまま、無言で、工事現場事務所に向かって歩き始めた。ボクは、仕方なくついていくしかなかった。
ボクは、現場事務所の中には入らなかったので、何をどう話したのか、わからないが、現場事務所から出て来てやっと先輩がボクに口を開いた。

「鉄骨の寸法がもらった図面と違う」

それだけ言うと、無言で持ってきた道具を片付け始めた。ボクは空気を察して、片付けを手伝い、荷物を持った。

車に荷物を積むと、先輩は、一言、
「オレが運転する」
と、ハンドルを握り、現場を出発した。そして、また静岡ICから東名高速を東に戻る。

そういえば、2019年12月の道路交通法改正で、スマホ、携帯電話の「ながら運転」の罰則が強化されたが、この時、先輩は、東名高速を走りながら、ずっと会社に電話をし続けていた。
会社にいる、事務の女性に、今、寸法が違っていた画像ファイルの場所を説明し、実測した寸法に合わせて、作り直そうというのである。

電話をしながらも、先輩は容赦無く、アクセルを踏み込む。もちろん、100km/hを越えて、110km、120km、130km・・・
最も内側の追い越し車線から、ガンガン追い越していく。

そういえば、同じく先日の道路交通法改正で、「あおり運転」について厳罰化されたのだが、先輩は、スマホを握りしめたまま、追い越し車線に、遅い車があれば、容赦無く車間距離を詰めた。

先輩の電話指示は、何とか社内の女性社員に伝わったようだった。その後も先輩は、前の車を煽り続け、静岡から会社まで、所要時間約1時間30分、午後3時30分には、会社に着いた。

先輩は、何もボクに説明してくれなかったが、ボクも何となく察しはついていた。

会社に帰って、女性社員が制作したシートを受けとるやいなや、再び東名高速を140km/h以上でぶっ飛ばし、静岡に向かったのだ。

東名高速が箱根の山を越え、御殿場に差し掛かる辺り、急カーブが連続する。車体は大きく傾き、タイヤが軋む音が聞こえてきそうだった。
何故か先輩は、センターライン、側線をたまに踏んだ。
車を運転したことがある方ならわかると思うが、側線を踏むたび、「デデデデデデデ!!!」という不快な音が車内に響いた。

先輩は、何も言わせない、緊張感をたたえて、必死の形相で運転をしていた。ボクは、落ち着いたふりをして、タバコを吸ったりしながら、ぼんやり考えた。

嗚呼、ボクは死ぬかもしれないな。。。

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その後、何とか無事に、静岡インターチェンジで降りた後、午後5時前に、その工場新築工事現場に戻ってきた。

現場に戻ると、先輩は、何も言わず、作り直したシートを鉄骨に貼り付け、作業を再開した。
午後6時頃作業が終わり、帰りは、渋滞も始まっていたため、ボクが安全運転で帰った。

先輩は、助手席でウトウト居眠りを始めていた。

この作業を今日中に終わらせなければならなかったのか?
何故、「明日再度出直してきます!」と言えなかったのか?
結局先輩は、何も語らなかった。

午後8時過ぎ、ボクはヘトヘトになって、会社に帰ってきた。

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