大山阿夫利神社火祭薪能 狂言「呼声」能「井筒」
毎年恒例大山火祭薪能!今年もこの日を楽しみにしておりました!!
今年は、猛暑というより酷暑の夏から、9月になっても気温が下がりませんでした。
恒例10月第1週、毎年秋を感じる「薪能」でしたが、今年は天気にも恵まれ、半袖で鑑賞となりました(さすがに少し肌寒くなりましたが・・・)。
毎年、ボクがこの薪能観覧にかける熱意と、ボクと能狂言との歴史については、以前の記事を是非お読みただきたい。
今年、10月1日初日の演目は、人間国宝、山本東次郎さんの狂言「呼声」と、観世清和さんによる能「井筒」。
堪能させていただきました!
形式美とミニマルな笑い、狂言「呼声」
無断で仕事を休んだ太郎冠者を叱ろうと、主人と次郎冠者が、太郎冠者の家を訪ねる。
「太郎冠者どの内にござるか。内にござらばお目にかかろう」
主人と次郎冠者、代わる代わるの呼びかけに対して、
「太郎冠者どの留守でござる。ご用ござらば仰せおかれ」
太郎冠者は、叱られるのが嫌なので、居留守を使う。
この後、声色を変えて、「平家節」、「小歌節」、「踊り節」などの節をつけて、ひたすらに、同じ問答が繰り返され、次第に、太郎冠者、次郎冠者、主人は盛り上がって舞台を踊り歩く。
ホント、ただひたすら同じ問答を繰り返すだけなのだが、これが本当に面白い。
題材と、台詞をミニマルにそぎ落とした、洗練の笑いとでも申し上げたらよいのか。
そして、形式美。
「平家節」、「小歌節」、「踊り節」等は、この狂言ができた中世の日本で流行っていた曲の数々だそうである。
もちろん、当時、それぞれの独特な節回しを、洗練された芸能としてた人もいたはずである。
いわばこの狂言「呼声」は、そんな狂言以外の、異種の芸能の形式を取り込んで、笑いに昇華してしまうのである。
おそらく当時、真面目に歌っていた人もいたであろう独特の節回しを、いわば「パロディ」にした笑いなのである。
そして、この狂言「呼声」が現代に受け継がれ、演じられることで、その中に「平家節」、「小歌節」、「踊り節」等の当時の流行の片鱗を見ることができる・・・何だか、化石になった琥珀の中に閉じ込められた、小さな昆虫の化石を見つけるような、何ともロマン溢れる「風俗文化の化石」ともいえるのではないだろうか!!
世阿弥の自信作!?能「井筒」・・・しかし、地味!!
能を少し勉強してみると、世阿弥が最上級の作品!「上花也!」と自画自賛していたというこの能「井筒」と、
という、劇中に詠われる有名な歌は、必ず耳にする。
ボク自身も、能の代表作!という「井筒」を楽しみに意気込んで鑑賞した。
能舞台の中央に、ススキの穂をつけた「井筒」(井戸の木枠)が置かれる。秋の風情も感じられ気持ちも昂る!
旅の僧が、在原業平建立とされる寺に立ち寄ると、里の女が現れる。
里の女は、思い出ばなしとして、在原業平とその妻との深い恋のものがたりを、僧に語る。
だがしかし!?
この里の女(実は業平の妻の霊)が僧に語る前半約30分、長い!
その中で、有名な歌も歌われるので、聞き逃さないように、がんばった!
しかし、その間、特に舞も無く、シテ(妻の霊)とワキ(僧)の立ち位置は、ほぼ変わらない!!
地味だなー!!
・・・って、読み返してみると、ボクは、昨年、能「清経」を観た後にも、「地味だなー」という感想を漏らしております・・・。
そういえば、「清経」も世阿弥自信作・・・どんだけ自信作があるんだ!というか、世阿弥自信作!であるほど「地味」なのか・・・嗚呼、能の奥深さよ・・・。
正に「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」ですものね・・・恐れ入りました・・・。
うーん、その前の「高砂」や、「土蜘蛛」が比較的派手な演目だったので、入門編としては、そちらの方がわかりやすいかもしれませんね。
しかし、「井筒」後半、寝入ってしまった僧の夢として、業平の妻が舞う姿が描かれます。
なんと、業平の妻は、業平を恋い慕うあまり、業平の衣装を纏って、いわば、業平と一心同体になるのです!
能は、男性である観世清和さんが、業平の妻に女装しているわけです。
その男性の女装である業平の妻が、業平の衣装を纏って、男装する!?
ある意味、現代の性の多様性にも通じる、性別を超越する芸能である「能の醍醐味」ともいうべき演出だと思います!
決して派手な舞ではありませんが、その性を超越し、男装した業平の妻が、最後にしずしずと舞台の中央にある、井筒を覗き込む姿!!
薪能ならではなのですが、その独特な衣装が、アップライトで下から炎にぼんやり照らされる姿は圧巻!!
ここは正に「幽玄の美」を観たと思いました!
うーん、ボクももっと「地味」な能の中に、幽玄を見出せるようになりたい!!
・・・ということで、毎年恒例の薪能、いつも、もっと能狂言を観たいなぁ・・・と思うのですが、最近、祝日恒例だったNHK教育(現Eテレ)での能狂言放送も無くなってしまいました・・・涙
また来年も大山阿夫利神社火祭薪能を楽しみに、この辺りで筆を置きます。
ムーニーカネトシは、写真を撮っています!
日々考えたことを元にして、「ムーニー劇場」という作品を制作しておりますので、ご興味ございましたらこちらをご覧ください!
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