恋ダンスと少年バスケットボール大会とボク
星野源さんと新垣結衣さんが婚約を発表した。
ボクは、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」は一切見ていないのだが、星野源さんの「恋」の曲と、恋ダンスは、何なら振り付け付きで踊れるくらい、記憶に残っている。
星野源さんといえば、「ターラ タラリラ ターラ タラリラ ターラ ララリラ~~~」という「恋」のイントロと共に、今でも夢に出てくる、以前の仕事の思い出を書き記しておく。
今から約4年前、大音量で広い体育館に繰り返し響き渡る、星野源さんの「恋」を全身で聞きながら、目を輝かせて楽しそうに踊る、小学生バスケットボールチームの少年少女を、ボクは複雑な思いで眺めていた。
ボクは今から約7年前、横浜から、東京西部の市域をエリアとする局に異動した。移動先の局の局長は、会社の地域貢献に大変熱心であった。
「地域密着企業を全面的にアピールしよう!!地域貢献、青少年の健全育成をサポートすべく、小学生のスポーツ大会を主催するのだ!!」
野球やサッカーは、既に各地区から東京、全国に繋がる大会が定期的に開催されており、当社の社名を冠する大会を新たに開催する余裕はなかった。
(しかしながらその後、全国を統括する本部が、少年野球の伝統的大会に無理やり介入し、社名を冠する大会にしてしまうのだが・・・)
そこで目をつけたのが、野球やサッカーと比較すれば、まだ歴史も浅く、参加人数も小規模な「バスケットボール」の大会だった。
「社名を冠するバスケットボール大会を開催しよう!!」
ボクはその頃、営業事務業務に従事していたため、主要メンバーにはならなかったが、コミュニティ番組制作部署を中心とした社内プロジェクトチームが発足し、地域の小学生バスケットボール連盟の理事や役員と折衝を開始し、約1年をかけて、毎年小学6年生が卒業間近に開催する、市全域の対抗戦を、社名を冠した主催大会にすることに成功したのだ!
第1回目の大会は、全局員総動員、大会の賞品も大盤振る舞い、もちろんコミュニティチャンネルで番組化し、そのために移動、固定含めて、カメラも総動員、リアルタイムでスイッチング、バスケットボール中継が得意なフリーアナウンサーを呼んで実況中継まで行った。
もちろん、この試みは、地域のバスケットボール連盟から歓迎された。小学生の選手も、本格的な雰囲気の中でプレーすることができて、番組として小学生時代の思い出が残ることは、その親御さんからも大変喜ばれた。
その後も、約3年間、その社名を冠し、局総動員のバスケットボール大会は続いた。担当になった局員は、半年以上をかけて地域の少年バスケットボールの各チームと折衝し、賞品や優勝カップ等も準備した。
バスケットボール連盟の方でも、地域のプロバスケットボールプレイヤーを呼んだり、ハーフタイムショーのように、休憩時間に小学生によるダンスや、チアリーディングショーを開催するなど、イベントとして盛り上がるものになっていった。
しかし、ところが、である。
全国を統括する本部が、さらに大きな組織になるべく、合併をすることになった。そして、当時の局長は、人事異動によりあっけなく他の組織に異動することになった。
新たな統括本部の方針としては、「地域密着企業」としての体裁は残しながらも、提供するサービスや業務内容、特に費用面=金の使い方については、全国統一の方針に基づくことを重要視した。
そんな中で、この地域局独自で開催していた「バスケットボール大会」が、統括本部から問題視された。
「交渉を重ねて、当社の冠をつけた大会として、地域でやっと盛り上がってきた大切なバスケットボール大会です!!小学生たちとその父兄も楽しみにしてくれています!!」
主担当だった課長は、新たに赴任した局長に熱く訴えた。
「それにしても、予算が多すぎる割に、収益につながるものが何もない。今後徐々に予算を削減してくことと、増収につながる施策を考えるように」
新たに全国統括本部から赴任した局長は、冷たく言い放った。
課長は、うなだれて帰ってきて、頭を抱えていた。
実はそんな渦中、ボクは営業部署の業務に限界を感じ、その課長のいる、地域番組と地域イベント担当部署に異動することになったのだ。
その年のバスケットボール大会は、例年通り開催されることになったが、課長の苦肉の策として、バスケットボール理事会と再度折衝を重ねて、大会を番組化したものに、小学6年生一人ひとりのメッセージを収録した、得点DVDを希望する父兄に販売することになった。
どのように交渉したのか、ボクはその場にはいなかったので、知らない。しかし、小学校卒業前の記念という事もあり、こちらの状況も汲み取っていただいたのか、かなりの数、販売した。売上として、30万円以上になっただろうか。
ボクは、異動して間もなく、事情はよくわからないまま、その年のバスケットボール大会開催についての稟議書を、その課長に事務的に頼まれて、全く事務的に、書いた。
すると、ボクは、局長に呼ばれた。
「ムーニーくん、この稟議書だけれども、バスケットボール大会の収支は、どうなってるか、知っているか?」
ボクは、「事務的に書いたんだけどなー(詳しいこと知らないから呼ぶなら課長を呼べよ)」と、思いながら、知る限りで答えた。
「はい、賞品は社に提供されたノベルティグッズを活用して、予算は抑えています。賞状や優勝カップ等は昨年からの在庫品です。従って、DVDの売上で、30万円の利益が・・・」
「違うだろ!!!!馬鹿モン!!!!番組制作費が50万円くらいかかってんだよ!!20万円以上の赤字だよ!ア・カ・ジ!!キミには、そういう予算感を持ってもらわんと!!!」
その後、ボクはこの局長に、何度も怒鳴られることになる。
知らんがな。
局長の怒りは、これだけでは収まらなかった。
その数日後、地域担当課長が、バスケットボール大会への参加スケジュールを局長に伺った時だ。
「当社の冠をつけた大会ですので、是非とも局長に優勝カップと賞状の授与を・・・」
すると、また局長は怒鳴った。
「知らん!!なんでバスケットボール大会に、オレが行かなきゃいけないんだ!!そんなのお前らで勝手にやっとけ!!!!その日は他のスケジュールがある!絶対行かんぞ!!」
課長は、何も言えず、うなだれて戻ってきた。
局長は、立ち上がって我々のところに来て、念押しした。
「来年は、会社の冠を外せ!!あと、来年は、番組放送も無いからな!そう向こうに伝えとけ!!」
課長は、さらに頭を抱えた。
そして、その後、バスケットボール大会の直前、その地域担当課長の他の部署への異動が発表された。
地域番組、イベント担当ではなく、顧客営業担当で、しかも、課長の自宅からは遠く離れた局に飛ばされてしまうことになったのだ。
バスケットボール大会当日、その担当課長は、ボンヤリ放心状態で、心ここに在らずだった。
「オレ、異動だってさ!!局長、そんなにオレのこと嫌いなのかな~!!ムーニーくん、どうしよう?来年からこの大会、主催も番組放送もできないよ。バスケットボール連盟にどう伝えようか・・・」
知らんがな。
体育館には、ちょうどその年に大ヒットした、星野源さんの「恋」が大音響で流れていた。
小学生たちは、生き生きと、笑顔で「恋ダンス」を踊っていた。
番組のカメラマンが何人も体育館のフロアで小学生の生き生きとした姿をとらえ、小学生たちは、カメラに気付くと、おどけたり、手を振ったりしていた。
営利目的の民間企業が、地域密着、地域貢献に下手に手を出した顛末である。その後、どのように伝えたのか詳細はボクのいないところで行われたのだが、課長は異動する前に、バスケットボール連盟に事の詳細を伝えてくれたようで、翌年、ボクは頭を下げて、大会の主催を退き、番組の放送もできないことを伝えるに至った。
いや、もしかしたら、同族経営のワンマン社長の企業であれば、逆に深入りし過ぎて、手をひこうにも引けなくなることもあるのかもしれない。そんなこともあるかもしれない。
しかし、星野源さんの「恋」を聴く度に、悲しい思い出を思い出してしまうのである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?