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新規事業開発のハイプサイクル攻略法:失敗を恐れない技術投資の秘訣【フレームワーク#03】

はじめに:技術の進化と新規事業開発の課題

テクノロジーは常に進化し、私たちの生活を豊かにする新しい技術が次々と登場します。

しかし、革新的な技術であっても、すべてが成功するとは限りません。
未来を予測し、新しい技術とどのように向き合っていくべきか、悩んだことはありませんか?

私が見てきたケースでも、「技術的な参入タイミング」を見誤ったがために失敗したケースはかなり多く見られました。

皆さん、こんにちは。MOONSHOT WORKS株式会社代表の藤塚洋介です。
私は新規事業開発コンサルタントとして、これまで70以上のプロジェクトに携わってきた経験から、皆さんに新規事業で使えるフレームワークの基本と実践時のポイントをご紹介しています。

今回は新しい技術とどのように向き合っていくべきか?
そのヒントとなる「ハイプサイクル」をご紹介したいと思います。

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新規事業開発に携わる方々にとって、技術トレンドを正確に把握し、適切なタイミングで投資や事業化を行うことは非常に重要です。しかし、多くの企業が以下のような課題に直面しています:

  • 新技術の導入タイミングを逃し、競合に後れを取ってしまう

  • 過剰な期待に惑わされ、実用化には程遠い技術に多額の投資をしてしまう

  • 技術の成熟度を見誤り、市場投入のタイミングを失敗する

これらの課題に対して、ハイプサイクルは非常に有効なツールとなります。本記事では、ハイプサイクルの基本から応用、そして失敗事例から学べることまで、徹底的に解説していきます。


ハイプサイクルとは?

ハイプサイクルのイメージ図

ガートナーによるハイプサイクルの歴史

ハイプサイクルは、IT分野のリサーチ・アドバイザリー企業であるガートナー社が1995年に提唱した概念です。

現在では様々な分野で活用されており、ガートナーは毎年、各分野のハイプサイクルレポートを発表し、企業の技術戦略策定を支援しています。

ハイプサイクルの定義と基本概念

ハイプサイクルは、新技術の成熟度と社会への浸透度を視覚的に理解するためのフレームワークです。

生まれたばかりの技術は、多くの期待を集め、「過剰な期待」を生み出します。

しかし、期待通りの成果が出ないと、「幻滅」され、人々の関心は薄れていきます。その後、技術が成熟し、真の価値が理解されると、「啓蒙」され、再び注目を集めます。

そして最終的には、技術が社会に定着し、「生産性の高いもの」として広く利用されるようになります。
ハイプサイクルは、これらの過程を5つの段階で表しています:

  1. 黎明期(Technology Trigger)

  2. 過剰期待期(Peak of Inflated Expectations)

  3. 幻滅期(Trough of Disillusionment)

  4. 啓蒙期(Slope of Enlightenment)

  5. 生産性安定期(Plateau of Productivity)

ハイプサイクルの5つの段階:詳細解説と事例

1. 黎明期(Technology Trigger)

技術的なブレークスルーが起こり、新たな可能性が示される段階です。メディアで話題になり、初期の導入が始まります。

事例: 量子コンピューティング、ブロックチェーン、メタバース

2. 過剰期待期(Peak of Inflated Expectations)

メディア報道が過熱し、期待がピークに達する段階です。パイロットプロジェクトや初期導入事例が増えますが、成功事例よりも、将来の可能性が強調される傾向があります。

事例: NFT、AIアシスタント、自動運転

3. 幻滅期(Trough of Disillusionment)

期待通りの成果が出ず、幻滅が広がる段階です。メディア報道は減少し、投資も冷え込みます。技術的な課題や実装の難しさが明らかになります。

事例: 3Dプリンティング、ウェアラブルデバイス

4. 啓蒙期(Slope of Enlightenment)

技術の真の価値が理解され、実用的なアプリケーションが登場する段階です。ベストプラクティスや標準化が進み、導入事例が増加します。

事例: クラウドコンピューティング、ビッグデータ分析

5. 生産性安定期(Plateau of Productivity)

技術が成熟し、市場に広く普及する段階です。ビジネスプロセスに組み込まれ、安定した収益を生み出すようになります。

事例: インターネット、スマートフォン、eコマース

ハイプサイクルの実用例:ビジネスへの活用

ハイプサイクルによるビジネス支援

ハイプサイクルは、新技術の導入時期や投資判断の材料として活用できます。
また、技術トレンドの把握や競合他社の動向分析にも役立ちます。
さらに、新規事業開発やイノベーション戦略策定にも活用できます。

企業にとっての活用メリット

ハイプサイクルを活用することで、技術投資のリスク削減や意思決定の精度向上につながります。

また、市場機会の早期発見や競争優位性の確保にも役立ちます。最終的には、イノベーションの促進と企業成長の原動力となります。

ハイプサイクルとマーケティング:技術の採用促進

テスラやセールスフォースの事例

マーケティングの基本と技術の採用促進

マーケティングの基本は、ターゲット顧客のニーズを理解し、適切なメッセージを届けることです。

ハイプサイクルの各段階で、顧客の心理状態を把握し、それに応じたマーケティング戦略を展開することが重要です。

ハイプサイクル毎の基本マーケティング戦略

黎明期: アーリーアダプターへの訴求、認知度向上

過剰期待期: 期待感を高めるマーケティング、差別化

幻滅期: 真の価値を伝える、信頼回復

啓蒙期: 成功事例をアピール、導入メリットを明確化

生産性安定期: 市場シェア拡大、顧客維持

成功事例

  • テスラ(電気自動車): 黎明期から過剰期待期へのマーケティング戦略

  • Salesforce(クラウドCRM): 啓蒙期における導入事例の積極的な公開

ハイプサイクルはこう使う。失敗事例からの学び

新規事業をやっていると、様々なトレンド情報や分析に出会い、読み違えてしまうことがあります。

例えば、ハイプサイクルの幻滅期の落ち込みは、イノベーション理論のキャズムと混同してしまいがちです。

似ているこの2つ、違いを見ていきましょう

「ハイプサイクル」は技術視点で市場にどう浸透していくか
「キャズム」は技術だけでなく総合的に市場にどう浸透していくかで、似ていて非なるものなのです。

特にマジョリティ層が受け入れるためには、技術だけでなく、サービス・モノ・技術の需要と成熟度、信頼・安心などの要素が必要になるため「キャズム」が起きやすいのです。

筆者が見た新規事業のリーダーの失敗談から学べることをみていきましょう

成功の甘い罠:AI事業で学んだキャズムと幻滅期の真実

とある新規事業のリーダーとして、我々は海外から入ってきた新しいAI技術を日本で展開することに挑戦していました。

当時、市場の動向や技術トレンドに基づき、どのタイミングで市場に投入すべきかをイノベータ理論で分析し、チーム内で議論を重ねました。

結果として、我々はこのAI技術が「アーリーアダプター層」に差し掛かったと判断しました。

そして、その層に向けた戦略として、ニッチな顧客に刺さる尖ったサービスを提供し、特定のユーザーをターゲットにして展開を進めていったのです。

成功の兆しと拡大の決断
この戦略は功を奏しました。
ニッチ市場で徐々にポジションを確立し、売り上げも上昇、メディアにも取り上げられ、まさに「これからが本番だ」と感じた瞬間が訪れました。

そして、その時、市場全体に目を向けると、同様のAI技術が流行の兆しを見せ、「猫も杓子も」と言えるほど、他社も次々と類似サービスを展開し始めていたのです。

「これはキャズムを突破しかけている!」と確信した我々は、ターゲット層を一気に広げる決断を下しました。

ニッチ向けの戦略を改め大規模なマジョリティ層向けの展開に踏み切ったのです。

商品ラインナップを拡充し、専任営業から全国展開の営業組織へと体制を大きくシフト。リソースを大量投入して、市場全体を席巻しようとしました。

落とし穴:キャズムの突破か、幻滅期か
しかし、予想とは裏腹に、売り上げは思ったように伸びませんでした。

それどころか、元々強みを持っていたニッチ市場への対応が手薄になり、サービスの質も低下してしまいました。

拡大を急いだ結果、労力を分散させすぎたのです。

そこで、イベントで顧客の声をじっくり聞いたり、SNSでの口コミを改めて調べたところ、このジャンルに関する驚くべき反応が浮かび上がってきました。

「〇〇AI導入したけど、思ったより効果が出ない」
「海外で流行っているけど日本の企業には合わない。導入は見送るべきだ」
「簡単に使えると期待していたが、実際はエンジニアでないと使いこなせない」

これらの声を聞いて、私は愕然としました。
期待値が高すぎた結果、ユーザーが「期待に裏切られた」と感じ、まさに幻滅期に突入していたのです。

キャズムを越えられなかった真実
我々はこのサービスはキャズムを越えたと思い込んでいました。
しかし、実際にはアーリーアダプターの段階で市場全体が【幻滅期】に入っているのかもしれないと気付いたのです。

市場の熱狂に押されて、早計にマジョリティ市場への展開を進めたことが大きな誤りでした。

「キャズムを越える」とは、単に市場に広がりを見せたということではありません。
顧客のフィードバックを無視せず、その反応を慎重に見極めることが必要だったのです。

ここで問題になるのは、大企業において拡大した戦略は、引っ込めにくい、後戻りは難しいという現実です。

あとで気づいても、増やしたサービスラインナップ、作った組織など簡単に後戻りはできません。

効率が悪いリソース配分になり、当初の勢いは失ってしまってもすぐには戻せなかったのです。

得た教訓と未来への展望

この経験から学んだ最も重要な教訓は、「ハイプサイクル」と「キャズム突破」を多面的に分析することに加え、第3社のデータだけでなく、顧客の声をしっかり聞き、市場の動向を自分の肌感覚でも分析することです。

また、急激な戦略変更によるリソースの分散は、既存の強みを失わせる危険性があるという点も痛感しました。

しかし、失敗を恐れていてはイノベーションは生まれません。
今回の経験は、次の挑戦に活かされる大きな財産となりました。


まとめ:ハイプサイクルを活用するためのポイント

戦略的な技術採用の重要性:
ハイプサイクルを参考に、自社のビジネスに適した技術を採用しましょう。技術導入のタイミングや投資戦略を慎重に検討することが重要です。

新技術の評価基準:
技術の成熟度、市場の需要、競合状況、自社の戦略との整合性など、様々な観点から新技術を評価する必要があります。
ハイプサイクルだけでなく、多角的な視点を持つことが重要です。

継続的な学習と柔軟な適応:
技術は常に進化しており、ハイプサイクルも変化します。最新情報収集、継続的な学習、変化への対応が不可欠です。

社内の理解と協力:
新技術の導入には、経営陣から現場までの幅広い理解と協力が必要です。ハイプサイクルの概念を社内で共有し、イノベーション文化を醸成することが重要です。

失敗を恐れない姿勢:
ハイプサイクルは予測ツールであり、完璧な判断基準ではありません。失敗を恐れず、試行錯誤を繰り返しながら、最適な技術採用戦略を見出していくことが大切です。

(参考)合わせて使うことでより効果が出るフレームワーク

▶️イノベーション理論
▶️キャズム理論
▶️ハイプサイクル

最後に

ハイプサイクルは、新規事業開発や技術戦略立案において非常に有用なツールですが、その活用には専門的な知識と経験が必要です。

MOONSHOT WORKSでは、ハイプサイクルを含む様々なフレームワークと、豊富な実務経験を組み合わせた「スキルCUBE」サービスを通じて、企業の新規事業開発をサポートしています。

詳しく聞いてみたい方はお問合せくださいね。
それではまた別の記事でお会いしましょう。


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