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新規事業は「ユーザー目線」で勝つ!── 「共感マップ」実践ガイド・前編【フレームワーク#21】

1. はじめに

みなさんこんにちは 
新規事業コンサルタントの藤塚洋介です。

「市場調査をして、数字を眺めて、なんとなくターゲット層を定めて…。」
新規事業やサービス開発の現場で、こんなルーティンワークに陥っていませんか? もちろん、売上データやアクセス解析といった定量情報は大切です。しかし、それだけではユーザーの“本音”や“リアルな気持ち”までは見えてこない──というモヤモヤを抱えた経験はないでしょうか。

たとえば「製品のスペックは十分なはずなのに、ユーザーがイマイチ魅力を感じていないようだ」「アクセス数は伸びているのに、なぜか離脱率が高い」
など、定量データには表れないズレが散見されることがあります。

こんなときこそ、私たちが真っ先に向き合うべきなのは、ユーザーの深層心理です。ユーザーは日々の暮らしや仕事の中で、何を見て、誰の言葉を聞き、どんな不満や期待を抱えながら行動しているのか。まるでその人の背後から一挙一動を観察するように、頭の中を想像し、痛みや喜びのツボを探るアプローチが欠かせません。

そこで活躍するのが、共感マップ。言い換えれば、「ユーザーの頭の中に入り込むための地図」です。ユーザーの思考や感情、そして表には出にくい潜在的ニーズを可視化することで、メンバー全員が「こういう人のために、こういうサービスを作りたいんだ」と共有できるようになります。

この共感マップは、アメリカ・オランダ・スペインを拠点にコンサルティング事業を展開しているXPLANEのスコット・マシューズ氏が考案したもの。英語では「エンパシーマップ(Empathy Map)」とも呼ばれていて、日本語では「共感図」や「共感図法」なんて言い方をすることもあります。

実際に使ってみると、人の思考や感情を整理するのにとても便利なので、「相手が何を見て、何を聞いて、何を感じているか」を俯瞰したいときは試してみると良いでしょう。

本記事では、「共感マップってそもそも何?」という基礎から、「なぜ新規事業開発に必要なのか」「具体的な活用方法」「他のフレームワークとの相乗効果」だけでなく「使わなくて良いシーン」についても網羅的に解説していきます。ポイントは、データからは拾いきれない“気持ち”を整理するという姿勢。そこにこそ、あなたの事業が“ユーザーの共感”を獲得するためのヒントが隠れています。


本記事のゴール
共感マップの概要を理解し、必要性に納得する新規事業開発やアイデア創出の場面で、どう使えばいいのかがわかる他の有名フレームワーク(VPC、BMC、CJM、ペルソナなど)との使い分け・組み合わせを把握する明日から実践できる具体的な作成手順を身につける


それでは次章から、まずは「なぜ共感マップが必要なのか」という核心に迫っていきましょう。読み終えた頃には、あなたも「ユーザーの気持ち」を可視化することのインパクトを、存分に感じているに違いありません。さあ、一緒にエンパシーマップという共感の旅へ出かけましょう。


2. なぜ共感マップが必要なのか?

2-1. 定量データだけでは見えないユーザーの本音

新規事業ではまず市場規模や競合状況などの定量データを調べますが、数字だけではユーザーが「なぜ」その行動を取るのかまでは分かりません。

  • 「アクセスは伸びているけど、ユーザーは満足しているのか?」

  • 「なぜA機能よりB機能の方が使われるのか?」

これらの“気持ち”を捉えるには、ユーザーの思考や感情を深く理解する必要があります。共感マップを使えば、定量データで拾いきれない心理的背景を整理し、事業の核となる価値提案や重要な機能を明確化しやすくなるのです。

2-2. 新規事業開発における“早期の失敗回避”

新規事業の最大リスクは「ユーザーが求めていないプロダクト」にリソースを投下すること。予算も時間も限られるため、不必要な機能の開発は避けたいですよね。

共感マップを使い、インタビューや簡易テストでユーザーの痛み・期待を早めに把握することで、的外れな企画を減らせます。すると、

  • 小さなプロトタイプを早期に検証

  • 改善点を明確にしながら必要な機能を優先

  • 機会損失や開発コストの浪費を回避

といった良いサイクルが生まれます。ユーザー心理を可視化し、ニーズの高い企画に注力することが、新規事業の成功確率を高めるカギとなるのです。

2-3. チームの共通認識と連携強化

新規事業には、多様なバックグラウンドを持つメンバーが関わります。デザイナー、エンジニア、マーケター、経営層など、それぞれ視点や優先事項が異なるため、「ユーザー像」が一致していないと議論が噛み合わなくなることも。

共感マップでユーザーの思考や行動を一枚にまとめると、誰でも簡単に「どんな背景を持つ人なのか」を理解できます。

  • 「この改善は○○という痛みを解消するため」

  • 「あの不満の原因は△△への不安だった」

といった具体的な共通言語が生まれ、アイデアや施策の優先度をチームで素早く決定しやすくなります。結果として、新規事業に不可欠なスピード感と連携力を高められるでしょう。

次章では、そんな共感マップの構成要素や活用シーンを、もう少し具体的に見ていきましょう。

3. エンパシーマップ(共感マップ)とは

記載例(架空の人物です)

3-1. 基本概要

共感マップは、ユーザーの頭の中に入り込むように「Think & Feel」「Hear」「See」「Say & Do」「Pains」「Gains」を整理していくフレームワークです。

一般的な属性や行動データだけでなく、感情や心理的背景を可視化することで、「ユーザーはなぜ、その行動を取るのか?」という問いに迫りやすくなります。

新規事業開発においては、まだ不確定要素が多い分、「ユーザーってこういう価値観を持っているんじゃないか?」という仮説と、「実際に接してみてわかった意外な発見」を照らし合わせる作業が重要です。共感マップは、その“両方の情報をまとめあげる”格好のツールとして活用できます。

3-2. 各要素の解説

  1. Think & Feel

    • 何を考え、どんなことを感じているのか?

    • ユーザーの内面や価値観、悩みや喜びなど、“頭と心の声”を言葉にするパートです。

    • 例:「仕事と子育て以外で自分の人生も楽しみたい」「でも余剰時間を作るのは難しい…」

  2. Hear

    • ユーザーが周囲からどんな影響を受けているのか?

    • 家族や友人、SNS、メディアの意見など、ユーザーを取り巻く人や情報源を整理します。

    • 例:「友人に『3人の子育中の友人が起業して活躍しているらしい』と噂を聞いた」「Xで育休で子育てをやってくれる男性パートナーの話を読んだ」

  3. See

    • ユーザーは普段どんな環境で、何を見ているのか?

    • 物理的な環境(自宅・職場・通勤経路など)から、オンラインでの情報収集先まで含めて考えます。

    • 例:「子育てしながら人生を楽しんでいる女性のインスタ」「地域を良くするためのNPOの活動の情報収集」

  4. Say & Do

    • 実際にどんな言葉を発し、どんな行動を取っているのか?

    • インタビューやSNSでの発言、観察した行動を具体的に記入します。

    • 例:「SNSでついリア充のふりをしてしまう」「毎月占いとネイルだけは欠かさない」

  5. Pains & Gains

    • Pains(痛み・課題): ユーザーが抱えている問題や不満。

    • Gains(期待・理想): ユーザーが得たい成果や理想の状態。

    • ここで、前述の4つの視点で集めた情報をまとめ、「ユーザーはどんな点に困っているのか」「何を望んでいるのか」を明確化します。

    • 例:Pains → 「自分のことを考える1人の時間がない」
      Gains → 「料理のこだわりは残しつつ時間を節約したい」

共感マップを活用すれば、「ユーザーはなぜそんな行動を取るのか」という問いに対して、定量データでは見えてこない“感情”や“思考の背景”を含めて理解しやすくなります。新規事業の立ち上げ時ほど、こうした視点でユーザー像を描いておくことは、後々のプロダクト開発やマーケ戦略に大きく役立つはずです。


4. 新規事業での共感マップ活用メリット

ここでは、新規事業の現場でどんなシーンで共感マップを使うと効果的なのか、3つのポイントに分けてお伝えします。


4-1. ユーザー課題があいまいな初期フェーズ

新規事業を立ち上げる初期って、「そもそもユーザーって誰?」「何を困ってるんだろう?」という段階ですよね。
頭の中では何となく「こういう人が使ってくれるはず!」なんて仮説はあるものの、本当にその人は課題として自覚してるのかすらよくわからない。そこが初期フェーズの難しさです。

そんなとき、共感マップを使うと、ユーザーの潜在ニーズインサイトがスルスルと浮かび上がってくることがあります。ユーザーインタビューや観察で得た生の言葉をマップに落とし込むうちに、「あ、実はここがネックだったのか!」と気づいたり、「意外とこっちの機能に需要がある?」と発見できたりするんですね。

とくにまだ利用実績や具体的な定量データがない段階で、定性的な視点をしっかり押さえておくことは大事。後々の実装や施策を考えるうえで、ブレない“土台”を作ってくれます。


4-2. 新規ターゲット層・未知の市場への理解

既存事業の延長でない「まったく違うユーザー層」にアプローチしようとするとき、私たちはしばしば“思い込み”に振り回されます。

  • 「20代女性はこういうのが好きなんじゃない?」

  • 「いやいや、このアプリは企業の総務部が喜ぶはずでしょ?」

こんな発言がチーム内で飛び交うとき、共感マップは一種の“リトマス試験紙”になります。実際にユーザーに聞いて、観察して、マップ化してみると、「全然ちがうところで彼らは悩んでた!」みたいな衝撃が起こるかもしれません。

未知の市場に踏み込むときは、定量データも取りづらいもの。だからこそ、ユーザーの考え方・環境・周囲の影響など、定性的な情報をしっかりキャッチする必要があります。共感マップは、その情報を一枚の絵にまとめてくれる。新ターゲットのリアルを視覚化できるため、「この機能って実はピンとこないんじゃないか?」「こういう使い方を望んでるかも?」といったアイデアが湧いてくるんです。


4-3. チーム内の共通言語化とアイデア創出

新規事業のチームは、デザイナーにエンジニア、マーケ担当に営業…。バックグラウンドも専門領域もバラバラですよね。そんな多様性こそ新規事業の強みですが、同時に「ユーザー像」が共有されていないと、会議の方向性がバラバラになってしまう弱点でもあります。

共感マップは、そのバラバラになりがちな議論を“ユーザー目線”という軸で一気に整理する装置。

  • 「このサービスって○○な人の、こんな悩みに刺さるんだよね」

  • 「前にユーザーが『ここが苦痛』って言ってたから、この機能は必要だよ」

という具体的な言葉が生まれると、ふわふわしたアイデアも“実際に解決すべき問題”に落とし込みやすくなります。こうしてチーム内で“ユーザー像”や“痛み・期待”がクリアになると、ブレストも「それいいね!」「でも、こうしたらもっと良くなるかも?」と、アイデアの連鎖が起こりやすくなるんです。


共感マップは、「まだユーザーのことをよく知らない」「新しい層にアプローチしたい」「チームみんなでアイデアを練りたい」ときに、とても心強い味方になります。これまで抽象的に思えていた“ユーザー像”を可視化し、“共感”を中心に据えて議論できるようになる。何より、「なるほど、こういう理由で悩んでるのか!」と納得できる瞬間が増えるのが嬉しいところです。

次の章では、さらに踏み込んで“共感マップを使わなくてもいい場合”も含めた使い分けの話をしていきます。ツールはあくまで道具。シチュエーションを見極めつつ、最大限に活かしていきましょう。

5. 共感マップを使わなくてもよいシーン

資料の作りこみすぎにご注意

これまで、新規事業開発における共感マップのメリットをさまざまな角度から見てきました。

ただし、ここで忘れてはいけないのが「新規事業はスピード勝負になることが多い」という事実。ユーザーのあらゆる感情や行動を完璧に把握しようとすると膨大な調査が必要で、気がつけば時間もコストもかさんでしまう……なんて状況になりかねません。

そこで大事なのは、“本当に共感マップが必要な場面なのか?”を見極めること。以下では、むしろ使わなくてもいい(もしくは使う優先度が下がる)シーンをご紹介します。


5-1. ユーザー課題・要望がすでに具体化している場合

たとえば、既存サービスのユーザーから「ここを改善してほしい」「あの機能が足りない」と、すでに明確なリクエストが提示されているケース。こうした状況では「なぜ、その課題を抱えているのか?」を掘り下げるよりも、機能要件やロードマップの精査が先決です。

スピード重視の新規事業ならなおさら、時間をかけて心理分析するより「すぐに課題を潰す」アクションのほうが効果的な場合もあるのです。


5-2. 技術検証(PoC)などがメインのフェーズ

AIやブロックチェーン、IoTなど、まだ具体的なニーズやユースケースがはっきりしない先端技術をPoC(概念実証)で試す段階では、ユーザー心理よりも技術要件や市場適合性の検証が優先されます。

  • 「実装は可能なのか?」

  • 「法規制はクリアできるのか?」

  • 「コストに見合う市場があるか?」

こうした問いに答えが出る前に、共感マップで細部までユーザー感情を分析しても、無駄になってしまうかもしれません。スピードを重んじる新規事業なら、先に舞台装置となる技術基盤を整えつつ、後々ユーザー心理に迫るほうが効率的なこともあります。


5-3. BtoBの超限定領域で要件が固まっている場合

「〇〇社の××部署向けにシステムを導入する」「数社限定で専用ツールを作る」など、すでに導入先や要件がピンポイントで固まっているケースでは、エンパシーマップよりも要件定義が優先されることが多いです。具体的にヒアリングすれば、どんな機能が必要で、どこを改善すればいいかが明確にわかるからですね。

ただし、BtoBといえど、最終的に使うのは“人”です。要件が明確でも、現場レベルで運用し始めると「ここが使いづらい」「実際はこうした方がいい」といった、想定外の声が出てくるかもしれません。そうしたときに“もう少し深くユーザー心理を見たい”という場面が訪れれば、後から共感マップの出番が再度やってくる可能性もあるのです。


共感マップは素晴らしいツールですが、新規事業では「スピードの優先度」も見逃せません。完璧にユーザーを分析するために延々と調査を続けていたら、競合が先にリリースし、絶好のタイミングを逃してしまう──という“悲劇”も起こり得ます。

最終的には、今は本当に共感分析が必要か、あるいは要件定義やPoC検証を先に進めるべきなのか、状況を見極めることが重要です。必要なときに必要な深さで共感マップを使う。ある程度粗くても答えが出ているなら、さっさと進める。そのメリハリこそが、新規事業のダイナミックな成長ストーリーを加速させるポイントではないでしょうか。

後編へ続きます

ここまでで、「共感マップ」が新規事業でどのように役立つか、その基本的な考え方や失敗しがちなポイントを見てきました。
ユーザーの“本音”を掴むためのフレームワークとして、ときにはスピードを優先しながら、まずは必要最低限の情報を整理することが大切だとわかっていただけたかと思います。

ただし、共感マップを作っただけではまだ“入り口”にすぎません。重要なのは、それをどう使い、他のフレームワークやビジネス設計にどう活かすか。次のステップで初めて、新規事業を“ユーザーと共に成長させる”具体的な道筋が見えてくるはずです。

さあ、ここから先は後編にて。より実践的な作り方やチーム内での活用法、そして他フレームワークとの組み合わせなど、さらに一歩踏み込んだ内容をお届けします。お楽しみに!


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