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よくある『PEST分析』の間違い:社内起業家のための成功法」【フレームワーク#05】
はじめに
ビジネスの世界では、周りの環境が刻一刻と変化していく中で、適切な戦略を立てることが非常に重要です。
PEST分析は、そんな外部環境を分析するための人気フレームワークです。
政治・経済・社会・技術という4つの視点から分析することで、ビジネスチャンスを見つけたり、リスクを事前に察知したりすることができます。
皆さん、こんにちは。MOONSHOT WORKS株式会社代表の藤塚洋介です。
私は新規事業開発コンサルタントとして、これまで70以上のプロジェクトに携わってきた経験から、PEST分析の基本から具体的な事例、そして分析結果を戦略に活かす実践的な方法まで、わかりやすく解説していきます。
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<基本編>PEST分析とは?
PEST分析の目的と意義:外部環境を把握し戦略策定に活かす
PEST分析の目的は、企業を取り巻く外部環境を深く理解し、事業にどのような影響を与えるかを分析することです。
現代社会は、技術革新やグローバル化などにより、かつてないほど変化が激しくなっています。
PEST分析によって外部環境の変化を常に把握することで、企業は変化に柔軟に対応し、競争優位性を維持することができます。
PEST分析の準備:分析対象と範囲を明確にする
PEST分析を行う前に、まず分析対象を明確にする必要があります。
例えば、新規事業を検討している場合はその事業を、既存事業の改善を考える場合はその事業を分析対象とします。
さらに、分析の範囲(時間軸や地域など)を定めることで、より効果的な分析を行うことができます。
PEST分析のやり方:4つのステップで外部環境を分析
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ステップ1:情報収集:信頼できる情報源から多角的に情報を集める
まずは、分析対象に関する情報を様々な角度から集めます。
政府機関の統計データ、業界団体レポート、ニュース記事、市場調査レポートなど、信頼できる情報源を活用しましょう。
ステップ2:要因の分類:PESTの4つの視点で要因を整理
集めた情報を、PESTの4つの視点(政治、経済、社会、技術)に分類していきます。
例えば、「消費税増税」は経済要因、「少子高齢化」は社会要因、「AI技術の発展」は技術要因に分類されます。
ステップ3:事実と解釈に分ける:客観的な分析と主観的な解釈を区別
情報を分類する際には、事実と解釈を明確に区別することが重要です。
例えば、「人口減少」は事実ですが、「人口減少によって市場が縮小する」は解釈です。
客観的な事実と主観的な解釈を分けて整理することで、より正確な分析が可能になります。
ステップ4:機会と脅威に分ける:事業への影響を評価
それぞれの要因が、分析対象となる事業にどのような影響を与えるかを評価し、「機会」と「脅威」に分類します。
例えば、新規事業にとって「規制緩和」は機会、「競合企業の参入」は脅威となるでしょう。
PEST分析の活用メリット:戦略策定とリスク管理に役立つ
長期戦略の策定:将来を見据えた事業計画
PEST分析によって将来の外部環境変化を予測することで、長期的な視点に立った事業計画を策定することができます。
リスク管理:潜在的なリスクを特定し対策
PEST分析によって潜在的なリスクを事前に特定し、適切な対策を講じることで、リスクを最小限に抑えることができます。
競争優位性の確立:外部環境変化への対応で優位に立つ
外部環境変化をいち早く察知し、適切な戦略を実行することで、競合他社に対して優位に立つことができます。
具体的なPEST分析の事例:業界別×分析結果に基づく戦略例
事例1:スターバックスの中国市場進出におけるPEST分析
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PEST分析
政治: 中国政府の政策(外資規制緩和、食品安全規制強化など)、貿易摩擦
経済: 中国経済の成長、中間層の増加、コーヒー消費量の増加、可処分所得の上昇
社会: 中国の文化(茶文化の影響)、ライフスタイルの変化(都市化、西洋文化への関心の高まり)、コーヒーに対する認識(高級品から日常的な飲料へ)
技術: モバイル決済の普及、Eコマースの発展、デリバリーサービスの普及
分析結果に基づく戦略
中国の文化に合わせた商品開発(お茶を取り入れたドリンクメニュー、中国の伝統的な祝日をテーマにした限定商品など)
モバイル決済導入による利便性向上(Alipay、WeChat Payとの連携)
オンライン販売チャネルの強化(スターバックス公式アプリ、Tmall、JD.comなどでの販売)
デリバリーサービスとの連携(Ele.me、Meituanなど)
店舗デザインのローカライズ(中国の伝統的な要素を取り入れる)
事例2:Netflixの日本市場におけるPEST分析
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PEST分析
政治: 著作権法、放送法、ネット neutralityに関する議論
経済: 日本経済の状況(低成長)、可処分所得の減少、エンタメ市場の動向(動画配信サービスの競争激化)
社会: 日本の文化(アニメ・漫画人気)、ライフスタイルの変化(動画視聴時間の増加)、コンテンツ消費の傾向(字幕・吹き替えの需要)
技術: インターネット普及率の高さ、モバイルデバイスの普及、ストリーミング技術の進化
分析結果に基づく戦略
日本語字幕・吹き替えの充実(海外作品だけでなく、日本作品にも対応)
日本のアニメやドラマの配信(独占配信コンテンツの 확보)
ローカルコンテンツ制作への投資(日本市場向けのオリジナル作品制作)
モバイルアプリの使いやすさ向上
多様な料金プランの設定
事例:地方都市における観光振興のためのPEST分析
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PEST分析
政治: 地方創生政策、観光振興政策、インバウンド誘致政策
経済: 地域経済の低迷、人口減少、若者の流出
社会: 地域の魅力不足(観光資源の認知度不足)、高齢化、過疎化
技術: インターネットによる情報発信、交通インフラ整備、AIを活用した観光案内
分析結果に基づく戦略
地域資源を活用した観光コンテンツ開発(歴史的建造物、自然景観、温泉、地元の祭りなどを活用)
インターネットを活用した情報発信強化(多言語対応の観光ウェブサイト、SNSでの情報発信)
交通アクセスの改善(空港・駅からのアクセス向上、周遊バスの運行)
地域住民参加型の観光イベント開催
体験型観光プログラムの開発
AIを活用した観光案内システムの導入
<実践編>新規事業で環境分析をする場合のポイント
新規事業におけるPEST分析
新規事業開発においても、外部環境の変化を理解するためにPEST分析(政治的要因、経済的要因、社会的要因、技術的要因)は非常に有効なツールです。
実践編では、PEST分析を新規事業に特化して活用する方法と、各要素をどのように調査・評価するべきかを解説します。
技術から予測の軸を立てる
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昨今、VUCA時代と言われるように社会、経済、政治の3要素は非常に不確定な要素が多く、パンデミックや戦争でこれまでの常識が一夜にして変わってしまうことも珍しくありません。
しかし、技術に関しては他の要因よりもある程度の予測が可能です。
技術の進化は通常、特定のパターンに従って進展しており、現在進行中の研究や既存の技術トレンドから未来の展望を推測できます。
研究開発もしていないのに、なんの前触れもなくいきなり飛躍してしまうことはまずあり得ないでしょう。
たとえば、AIや量子コンピュータ、バイオテクノロジーなどの分野は、既に多くの研究が進んでおり、その商業化や実用化のタイミングも比較的見通しやすいです。
技術予測の理由
技術開発のロードマップ
多くの企業や研究機関は技術開発に向けたロードマップを公開しています。
例えば、半導体業界のムーアの法則や、AI分野でのディープラーニングの進化などは、技術がどのように発展していくかを指し示しています。
このような既存の技術的進展のペースから、5〜10年先にどの技術が成熟しているかをある程度予測できます。
研究開発の動向
現在の研究トレンドを追い、特許の動向や新技術の発表をチェックすることで、技術の商用化が見込まれるタイミングを把握できます。
たとえば、バッテリー技術や次世代通信技術(5Gから6Gへ)の進展は、研究が加速するにつれ市場に与える影響も見えやすくなります。
技術のライフサイクル
新技術の導入から普及、成熟までのライフサイクルを考慮すると、技術の普及時期や成長段階が見えやすくなります。
ガートナーのハイプサイクルのようなモデルを用いて、技術のピークや衰退期を見極めることができます。これは、長期的な視点でどの技術が競争力を持つかを予測する際に役立ちます。
不確定要素への対応
もちろん、技術分野にも不確定要素は存在します。技術革新は予期せぬブレークスルーが突然起こることもあり、その影響力やタイミングを正確に予測することは難しい部分もあります。
特に、社会的受容度や法規制の影響で技術の普及が遅れることもあります。
しかし、技術は比較的他の要因に比べて進展の道筋が見えやすく、予測可能性が高いため、新規事業を立ち上げる際には将来の技術トレンドを考慮した戦略立案が効果的です。
このため、技術動向に基づいて新たな事業機会を捉えることが、特に長期のビジネス開発において強力な武器となります。
新規事業におけるPEST分析の活用法とポイント
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PEST分析の失敗事例と注意点
新規事業におけるPEST分析は、外部環境の変化を把握する上で強力なツールですが、効果的に活用できていない場合も少なくありません。ここでは、よく見られる2つの失敗事例について説明します。
1. 時間軸がずれている(今の分析をして未来のビジネスを作る)
新規事業においては、現在の環境を分析することが重要である一方で、未来の環境変化に目を向けないことは大きなリスクとなります。
例えば、現在の政治や経済の状況にばかり目を向け、数年後に予定されている規制強化や技術革新に対する準備を怠ると、いざ新事業を立ち上げた時に予期せぬ障害に直面する可能性があります。
PEST分析は、現在と未来を両方見据えることが重要です。
短期的なリスクと同時に、5年後、10年後の市場や技術動向も見極め、未来に適応できる事業計画を立てることで、長期的な競争力を確保できます。
2. 分析だけして打ち手を考えていない
もう一つの失敗事例は、分析をするだけで具体的な打ち手を考えないことです。PEST分析で得られる情報は、あくまで外部環境の理解を深めるためのものです。
しかし、それをもとに具体的な戦略やアクションプランを立てなければ、ただの情報収集に終わってしまいます。
例えば、技術的な進化を分析しても、それを事業にどのように活用するかを考えないと、競争優位を築くことはできません。
分析結果をもとに、具体的な新製品開発や市場参入戦略を策定し、実際に行動に移すことが、新規事業成功のカギです。
これらの失敗を避けるためには、時間軸を意識した長期的な視点と、分析結果を行動に反映する実行力が不可欠です。
PEST分析を通じて得られた洞察を戦略的な意思決定に活かし、具体的な行動に結びつけることで、新規事業の成功確率を大幅に高めることができるでしょう。
1. 政治的要因 (Political)
政治的要因は、政府の政策や規制が新規事業にどう影響するかを分析するものです。短期的な事業計画では、既存の法規制や税制に焦点を当てますが、長期的には将来の政策変化や規制強化を予測する必要があります。
長期的なポイント
長期的な視野で事業を展開する際は、政府の長期ビジョンや政策がどう変わるか、特に持続可能性に関する規制や労働法の改正、社会的責任に関する法改正の可能性を考慮する必要があります。
例えば、環境規制の強化が予測される場合、これに対応できる持続可能な事業モデルを早期に確立することが求められます。
2. 経済的要因 (Economic)
経済的要因では、マクロ経済の動向が新規事業に与える影響を評価します。経済成長率、金利、為替レート、消費者の購買力などを考慮し、事業がどのような環境で展開されるかを予測します。
長期的なポイント
長期的には、より広範な経済環境の変化を見越して事業を計画します。
特に、技術の進化によって産業構造がどのように変わるか、消費者の購買行動がどうシフトするかを予測することが重要です。
例えば、自動車業界では、電気自動車の普及とそれに伴うインフラの変化が大きな影響を与えるため、長期的な経済動向を読みながら戦略を立てる必要があります。
3. 社会的要因 (Social)
社会的要因では、人口動態や文化、価値観の変化が事業にどう影響するかを分析します。特に消費者ニーズの変化や、ライフスタイルの変遷を理解することが新規事業にとって重要です。
長期的なポイント
長期的には、社会の価値観や人口動態の変化を予測する必要があります。
特に、高齢化社会の進行やジェンダー平等の推進といった長期的なトレンドに対する準備が重要です。
例えば、10年後には現在とは異なる社会課題が浮上している可能性が高いため、それに対応する製品やサービスを事前に計画することが競争優位を確保するカギとなります。
4. 技術的要因 (Technological)
技術的要因は、先に記載したように他の要素に比べてある程度の予測が可能です。技術の進化は、ロードマップや研究開発のトレンドから未来を見通すことができ、新規事業における重要な成長ドライバーとなります。
長期的なポイント
長期的には、まだ成熟していない技術や、研究開発中の技術が将来的にどのように発展するかを予測します。
例えば、現在注目されている量子コンピューティングやバイオテクノロジーは、5〜10年後には市場に大きな変革をもたらす可能性があります。これらの技術を見据えた事業計画は、競争優位を確保するために非常に重要です。
まとめ
PEST分析を新規事業に活用する際、短期的なリスクと長期的な成長機会の両方を考慮することが成功の鍵です。
特に、政治的・経済的要因は短期的な変動に敏感ですが、技術的要因は比較的予測が可能であり、事業戦略の策定において重要な役割を果たします。
未来を見据え、動的な環境に柔軟に対応しながら、PEST分析を通じて新規事業の成功に繋げることができれば、長期的な競争力を持続的に確保することができるでしょう。