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イノベーター理論で解き明かす、失敗しない参入戦略とは? 【フレームワーク#01】

社内起業家の皆さんこんにちは。
新規事業に特化したコンサルティングを提供しているMOONSHOT WORKSの藤塚洋介です。

私の会社では、プロジェクトの伴走支援と共に、様々なフレームワークを使ってアイデアの可視化と活用、再利用できるデータとして保存できるように社内起業家の育成をしています。

フレームワークを使いますが、全てのプロジェクトが同じやり方でうまくいくわけではなく、取り組む新記事業によって使い方も違ってくるのです。

この記事では有名な「イノベータ理論」の基本と、それを実際にどう活用するか?について数々の事業に関わってきた経験から書いていきたいと思います。

「基本的なことは知っているよ!」という方は目次の【実践編】 以降をご覧ください。


【基本編】イノベーター理論の概要

ビジネスの戦場で勝利を収めるために、我々は常に「顧客」という存在と向き合わねばなりません。

そこで、顧客を理解し、効果的な戦略を立案するための羅針盤となるのがイノベーター理論です。

また、イノベーター理論は、新しい製品やアイデアが社会に普及していく過程を説明する社会学的理論で、人々は新しいものを受け入れる速度によって5つのグループに分類されます。

イノベーター理論とは何か: 顧客の革新性に着目した市場分析

イノベーター理論は、1962年にエベレット・ロジャースによって提唱されました。

市場に存在する顧客を、新技術やアイデアに対する受容性によって5つのタイプに分類し、それぞれの特性に合わせた戦略の必要性を示唆しています。

イノベーター理論における5つのタイプ

イノベーター理論における5つのタイプ

1. イノベーター (Innovators)

好奇心でリスクを恐れないパイオニア

特徴: 常に新しいもの好きで、リスクを恐れずに試す冒険家タイプ。
テクノロジーへの深い理解と関心を持ち、製品の仕組みや開発背景にも強い興味を示す。

新しい情報収集に貪欲で、専門誌や業界ニュース、学会発表、オンラインコミュニティなどを常にチェックしている。

製品が高価であっても、入手困難であっても、ためらうことなく購入する。
製品に問題があれば、自ら解決策を見つけ出そうとし、開発者にフィードバックを提供することも厭わない。

割合:
市場全体の約2.5%と、非常にニッチな存在。

重要性:
彼らは、市場に存在しない全く新しい製品やサービスを最初に試す、「最初の顧客」としての役割を担います。

心理学:
新しい経験や知識への強い欲求 (内的動機) に突き動かされ、他者の評価を気にせずに行動する (低い社会的承認欲求) 傾向がある。(Rogers, 1995)

経済学:
経済合理性を超えて、新製品を試すことから得られる満足感 (効用) を重視する (行動経済学)。

マーケティングへの示唆:
イノベーターは、製品開発の初期段階における貴重なフィードバックを提供してくれる存在です。彼らを巻き込み、共創を通じて製品をブラッシュアップしていくことが重要です。

事例: テスラの電気自動車初期採用者 - 彼らは高価格と未知のリスクにもかかわらず、革新的な電気自動車技術を積極的に採用しました。

2. アーリーアダプター (Early Adopters)

オピニオンリーダー

特徴:
流行に敏感で、オピニオンリーダーとしての影響力を持つ。
新しい技術やサービスに対して、強い興味と好奇心を持ちながらも、イノベーターほどリスクテイクではなく、客観的な視点も持ち合わせている。
製品やサービスのメリットを理解し、自身の経験に基づいた意見や評価を、ブログ、SNS、口コミサイトなどを通じて積極的に発信する。

割合:
市場全体の約13.5%と、イノベーターに比べると大きな割合を占める。

重要性: アーリーアダプターは、イノベーターの意見を参考に、早期に製品を採用します。

心理学: 社会的な影響力を行使することに喜びを感じ (社会的承認欲求)、自身の専門性を高めることで、集団における地位を確立しようとする (自己効力感)。(Rogers, 2010)

マーケティングへの示唆:
アーリーアダプターは、他の顧客層に対して、強い影響力を持つオピニオンリーダーであるため、彼らに支持されることは、製品の成功に大きく貢献します。彼らをターゲットとした、体験型マーケティングやインフルエンサーマーケティングが有効です。

事例:
スマートホーム技術の初期採用者 - Amazon EchoやGoogle Homeなどのスマートスピーカーの初期採用者は、この層に多く見られました。彼らの口コミや社会的影響力が、後の普及に貢献したと考えられています。

3. アーリーマジョリティ(Early Majority)

慎重、合理的で市場を動かす

特徴:
慎重派で、平均的な人よりも早く製品を採用する。
新しいもの好きだが、イノベーターやアーリーアダプターほどではない。
周囲で評判が良く、信頼できる情報源から得た情報に基づいて購入を検討する。
製品やサービスの機能や価格、使いやすさなどを総合的に判断し、納得してから購入する。

割合:
市場全体の約34%と、市場の主流派を形成する重要なセグメント。

重要性:
アーリーマジョリティは、市場で大きな割合を占めるため、製品の成功を左右する重要な存在です。

心理学:
多数派に従うことで安心感を得る (同調効果)、失敗のリスクを最小限に抑えたいという心理 (損失回避) が働く。(Cialdini, 2009)

マーケティングへの示唆:
アーリーマジョリティを獲得するためには、製品の使いやすさ、信頼性、価格競争力などを訴求する必要があります。また、口コミやレビュー、専門家の評価などを積極的に活用することで、彼らの購買意欲を高めることが重要です。

事例:
スマートフォンの普及 - iPhoneが登場した後、数年経ってからスマートフォンを採用した人々がこの層に該当すると考えられます。

4. レイトマジョリティ (Late Majority)

周囲の意見が安心材料

特徴:
懐疑的で、周囲の多くが採用してから購入する。
新しいものに対しては、慎重で、変化を好まない傾向がある。
周囲の多くの人が利用し始め、安心感を得てから購入を検討する。
製品やサービスが普及し、価格が低下してから購入することが多い。

割合:
市場全体の約34%と、アーリーマジョリティに匹敵する大きな割合を占める。

重要性:
市場の安定化に貢献する。

心理学:
新しい技術やサービスに対して、不安や抵抗感を抱きやすく (新奇恐怖症)、変化によって現在の生活が損なわれることを恐れる (現状維持バイアス) 傾向がある。(Kahneman, 2011)

マーケティングへの示唆:
レイトマジョリティに対しては、製品の安定性、使いやすさ、サポート体制などを強調し、安心して購入できることをアピールする必要があります。

事例:
オンラインバンキングの普及 - セキュリティへの懸念から、オンラインバンキングの採用を躊躇していた層がこれに該当すると考えられます。

5. 遅延者のラガード (Laggards)

変化を嫌い、最後に追随

特徴:
伝統主義で、変化を嫌い、なかなか新しいものを受け入れない。
新しい技術や製品に対して、懐疑的で、抵抗感を示す。
従来の製品やサービスに固執し、なかなか乗り換えようとしない。
周囲の意見やトレンドに影響されにくい。

割合:
市場全体の約16%。

重要性:
市場の最終段階での採用者。

心理学:
過去の経験や伝統的な価値観を重視し (保守主義)、新しいものを受け入れることに対して心理的な抵抗感を示す (変化への抵抗)。(Sheth, 1981)

ーケティングへの示唆:

ラガードに対しては、無理に新製品を訴求するのではなく、既存製品の継続利用を促す戦略も有効です。しかし、将来的に市場が縮小することを考慮すると、新たな顧客層の開拓が必要となる場合もあります。

事例:
デジタル放送への移行 - アナログテレビ放送が終了する直前まで、デジタルテレビやチューナーへの移行を遅らせていた層やガラケー利用者がこれに該当すると考えられます。

イノベーター理論は、当初は農業分野における新技術の普及を研究するために開発されましたが、その後、医療、IT、教育など、さまざまな分野に適用され、その普遍性が証明されてきました。

例えば、テスラの電気自動車の普及過程を見てみましょう。
革新的なイノベーター: テスラの初期モデルであるRoadsterは、高価格で未知のリスクも多かったにもかかわらず、革新的な電気自動車技術に魅力を感じたイノベーター層に支持されました。

彼らは、環境問題に関心の高いアーリーアダプター層にも影響を与えたのです。

【実践編】いまさら聞けない?イノベーション理論の使い方

基本的なイノベータ理論を知っても、我々社内起業家はいつ、どうやって、何のために使えばいいのでしょうか?

実践編では最も意味のある利用シーンをお伝えしたいと思います。
それはズバリ、「新規事業の参入戦略」の方針決定です。

もしも、あなたの新規事業が「イノベータ向け」だけに特化できていると確信をもてていたらこの先読むのは不要かもしれません。

ウチには「イノベータ向け」もあれば「アーリーアダプター向け」もある。というマネージャや新規事業運営事務局の方や、
そもそも「そんなの意識していない」という方はこの先を読んだ方がいいかもしれません。

【フェーズを見極める】


あなたの参入市場は?

以外にも、「自社にとっての新規事業」と「社会にとっての新規事業」を混ぜている人が多いのですが、あなたの会社は大丈夫でしょうか?

自社にとって新しくても、社会にとって新しくなければ戦い方が変わります。
まずは社会にとってイノベータ理論のどこに位置するか、調べてみてください。

以下にデスクトップ調査でもできる、簡単な見極め方を記しておきますね。

1. イノベーター (Innovators)
この課題を解決するスタートアップは1社も見当たらない

2.アーリーアダプター(Early Adopters)
数社のスタートアップが存在する

3.アーリーマジョリティ (Early Majority)
複数社の参入かつ、大企業が参入し、広告がばら撒かれている

4.レイトマジョリティ (Late Majority)
 ラガード (Laggards)
 徐々に市場が淘汰されメイン数社で市場の7割以上占めている。

あなたの新規事業はどこに位置しましたか?
4.5は将来性がなく、後発ではなかなか儲かりにくいフェーズの事業です。
自社にとって新しくても考え直した方がいいかもしれませんね。

1.2.3はそれぞれ同じ戦略ではいけない、ということを知って戦うといいでしょう。以下に基本戦略をまとめました。

【フェーズに合わせた新規事業の参入戦略】

1. イノベーター (Innovators)
基本方針:「一人の尖った顧客課題の深い理解」
開発方針:課題の特定が最優先で解決策は絞りすぎない
マーケティング:しない(伏せる)

2.アーリーアダプター(Early Adopters)
前期基本方針:「できるだけニッチな市場でシェアno1」
後期基本方針:「ニッチなシェアNo1市場をいくつも拡大していく」
開発方針:必須体験(MVP)に絞って開発する
マーケティング:ニッチターゲットへの口コミ

MOONSHOTWORKS スキルCUBE資料より抜粋


3.アーリーマジョリティ (Early Majority)
基本方針:
市場リーダーなら「後発参入社への完全マウント戦略」
市場追従者なら「リーダーの徹底的模倣」
開発方針:
市場リーダーなら「競合にあって自社にない機能は即追加」
市場追従者なら「リーダーを徹底的模倣」
マーケティング:
市場リーダーなら「追従者の全市場を網羅」
市場追従者なら「模倣及び価格勝負」

どういった事業に参入するかで戦い方が大きく変わることが理解できたでしょうか?

素早い移り変わりの中で、気づいたらレッドオーシャンに埋もれないように、半年、できれば3ヶ月に一度は調べる。自身の分野のニュースは常に意識するようにするのが賢明です。

イノベーター理論から見る成功・失敗事例

新製品のマーケティング戦略: 顧客理解の深耕が成功の鍵

任天堂「Wii」の例

成功事例:任天堂「Wii」

2006年に発売された家庭用ゲーム機「Wii」は、それまでのゲーム業界の常識を覆す、全く新しいコンセプトの製品でした。

任天堂は、従来のゲーマー層だけでなく、ゲームに馴染みのない家族層を取り込むことを狙い、イノベーター理論を巧みに活用した戦略で、世界的な大ヒットを記録しました。

1. イノベーター/アーリーアダプター: 「触れる」「感じる」という新しいゲーム体験を提供することで、ゲーム愛好家やテクノロジーに敏感な層を取り込みました。
- 革新的なコントローラー: 直感的な操作を可能にするWiiリモコンは、従来のコントローラーの概念を覆すものでした。
- 今までにないゲーム体験: 体を動かして遊ぶゲームは、従来のゲームとは一線を画すものでした。

2. アーリーマジョリティ: 家族みんなで楽しめるゲーム機というポジショニングで、ゲームに馴染みのない層を取り込みました。

- 分かりやすいゲーム: 誰でも簡単に楽しめるシンプルなゲームを多数用意。
- 手頃な価格: 従来のゲーム機よりも低価格を実現することで、購入障壁を下げました。
- 健康面のアピール: 「Wii Fit」など、健康を意識したゲームソフトを発売することで、従来のゲームにはない価値を提供。

Wii は、イノベーター理論に基づき、各セグメントに最適化された戦略を実行することで、キャズムを突破し、世界中で1億台を超える販売台数を記録する大ヒット商品となりました。

失敗事例:Google Glass

2013年に発売されたウェアラブルデバイス「Google Glass」は、革新的な製品として注目を集めましたが、商業的には失敗に終わりました。

1. ターゲット顧客の誤認: Google Glass は、当初、イノベーターやアーリーアダプターをターゲットに開発されました。
しかし、高価格やデザインの奇抜さから、アーリーマジョリティの心を掴むことができませんでした。

- 高価格: 1500ドルという高価格は、一般消費者にとって、容易に購入できるものではありませんでした。
- デザイン: スタイリッシュとは言えないデザインは、日常的に身につけるには抵抗があったと言われています。
- プライバシー: 常にカメラで撮影されているという不安感がありました。

2. キャズムを超えられなかった理由:
- 明確な価値提案の欠如: Google Glass が提供する価値が、一般消費者には理解されませんでした。

- 高価格: アーリーマジョリティにとって、価格に見合った価値を感じられませんでした。
- 未成熟な技術: バッテリーの短さや機能の制限など、技術的な課題が多く残されていました。

Google Glass の失敗は、革新的な製品であっても、ターゲット顧客を明確化し、彼らのニーズを満たすことが重要であることを示唆しています。

イノベーター理論の批判と限界

時代遅れの側面も?

現代社会における情報拡散のスピードの変化

現代社会では、インターネットやソーシャルメディアの発達により、情報拡散のスピードが飛躍的に向上しており、イノベーター理論で想定されているような、段階的な普及プロセスは、必ずしも当てはまらないケースも増えています。

さらに、フィンテックやAIなど技術系のサービス分野ではこのフェーズが進むスピードが以前より加速しています。
新しいサービスが現れたと思ったら、あっという間にものすごい戦いになって、数社だけが残る。

アーリーアダプターからラガードもどこかわからない、または「無い」うちに、新しいサービスに切り替わってしまうのです。

イメージ的には、アーリーマジョリティが終わったら、レイトマジョリティはあっという間に終わり、ラガードなし。といったイメージです。

まとめ

イノベーター理論は、新製品やサービスの普及プロセスを理解し、効果的なマーケティング戦略を立案するための強力なツールです。

しかし、イノベーター理論は、あくまでも「理論」であり、現実の市場は常に変化していることを忘れてはなりません。

次回はキャズム理論です。イノベータ理論と合わせてよく語られますね。それでは、また次の記事でお会いしましょう。



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