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放課後こっそり教えます!新規事業で使う「クロスSWOT実践編」【フレームワーク#12】
みなさんこんにちは、新規事業コンサルタントの藤塚洋介です。
前回の記事「いまさら聞けないクロスSWOT分析の基本」は読んでいただけましたか?
フレームワークに詳しい人なら、知ってることが多かったと思います。
初めての人はひょっとして、
「わかるけど調査から分析、戦略の立案までやることが多すぎて大変」
と思った方も多いのではないでしょうか?
分析してるうちに、どうしてもどこかで聞いたような戦略になってしまう。また、元々みなさんの頭にあったものが言語化されただけで新しいアイデアが出ない、ということがよく聞かれます。
今回の記事では、その”時間がかかった割に一般的になりがち”なSWOT分析の従来の落とし穴を克服する考え方を書いていきます。
それは、「強み×機会」”だけ”に集中する方法と、「脅威や弱みをすべてチャンスに変える」という視点です。
いつもクロスSWOT分析を使ってるけど、あまり効果が出ない方、時間をかけずにいいアイデアを出したい方。
基本は抑えたので実践的に使いたい人はぜひ読み進めてみてください。
クロスSWOT分析の落とし穴
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通常のSWOT分析では、4つの要素(強み・弱み・機会・脅威)を個別に洗い出し、クロスSWOT分析ではそれらを掛け合わせて4つの領域で具体的な戦略を立てます。
「強み×機会」「強み×脅威」「弱み×機会」「弱み×脅威」
本来、新規事業は市場のチャンスに、自社の得意分野をかけて挑戦していきたいのに、みなさんは「弱み」や「脅威」のような前向きな戦略でないことに多くの時間を割いていませんか?
これはPPTのテンプレートなどを使って作業する際、どのマスも同じサイズであることが原因だと思っています。
テンプレートに惑わされて、つい同じようにそのマスを埋めようという意識が働いてしまうのです。
我々はこれを「フレームワークの試験問題化」現象と呼んでいます。
受験のテストのように、「マスの大きさに意味」を感じてしまうのです。
この大きさならきっと何文字くらいの答えに違いない。と感じるのです。
しかし新規事業に決まった答えはありません。マスの大きさに「全く意味なんてない」のです。
そんなことわかっているはずが、何度も検討会を繰り返し、4マスとも綺麗に埋める。完璧な資料を完成させようとするのは、目的を間違えています。
目的は新規事業の戦略を立てることのはずです。最高の1つがあればいいのです。たくさんのありきたりな文章で埋まった(でも美しい分析資料を)だれかに見せるためではありませんよね。
こうして時間をかけすぎている間に、一般的な戦略に落ち着いてしまいがちなのです。
実践1「強み×機会だけに集中する」
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なぜ強みと機会だけに集中するのか?
実践その1は、4つの戦略に時間をかけている暇があったら、全てを「機会を見つけて強みを生かす」ことに集中するやり方です。それ以外はやらないと決めるのです。シンプルかつ実践的なアプローチです。
それだけ?と思うかもしれませんが、案外できていない方が多いように思います。
精度の高い情報収集をしたみなさんなら、機会と強みだけでもかなりの情報量があるはずです。
具体的な手法「検討順」と「機会の選択」
では早速具体的な手法を見ていきましょう。
まず、意外と忘れがちなのが、「検討の順番」です。
おすすめは、「市場の機会」を検討してから「そこに合う強み」を見つけていくやり方です。ニーズから考える順番の方が、プロダクトアウトになりすぎる危険を防げるのです。
次に、機会の優先順位を見ていきましょう。
皆さんは優先順位をどう決めていますか?
クロスSWOT分析で重要なポイントは、「市場規模が大きいから」「成長するから」という理由で安易に機会の項目を選ばないことです。
どういうことでしょうか?
普通に考えると市場は大きければ良さそうですよね。
一緒に考えてみましょう。
みなさんの新規事業の売上目標が10億円だったとします。
参入市場の機会を探ってみると同じような成長率の2つの市場がありました。
A:市場規模が50億円の市場に参入する。
B:市場規模が1000億円の市場に参入する。
どちらを選択しますか?
そろそろ答えが出たでしょうか?
直感的には市場規模が大きい1000億円の市場に魅力を感じたかもしれません。評価する経営層の方も喜びそうです。
しかし、それぞれの市場で目標を達成したときの結果を比較してみると、大きな違いがあることがわかります。
機会の選択結果を比較すると?
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A:市場規模1000億円に参入した場合
・目標の10億円を達成してもマーケットシェアは1%には過ぎない。
・1%では存在感を出せません。お客様に自社の名前を覚えてもらうことはないでしょうしSNSで話題になることもないでしょう。
・ブランディングや存在感を確立するには、一歩踏み込んだ投資が必要になるでしょう。
B:市場規模50億円に参入した場合
・同様に10億円を達成すれば、シェアは20%になり、トップシェアを目指せるのではないでしょうか。
・顧客から「○○といえばABC社」と認識され、ブランディングが自然と強化されます。
・トップシェアがあるニッチ市場には他社は参入しにくいため、防御的な強みも得られます。
さらに、小さな市場でシェアを獲得し、ブランド力を高めてから次の市場へ進むことが可能です。
50億円の市場は、目標達成だけでなく、次の成長に向けた「足がかり」とする作戦です。
以前に書いたこちらの記事が参考になるでしょう。
「強み」×「機会」に集中することは、複数の良いアイデアを考慮するための最適なアプローチです。
情報の中から「どれが一番熱いテーマか」を絞り込み、そのテーマに集中そうすることで、アイデアの質も量も向上します。
市場の機会の選定、優先順位が決まったら、その市場に合う強みを見つけてアイデアを沢山出していきましょう。
実践2「ピンチも弱みもを全てポジティブ変換」
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目指す市場が大きく数十億〜100億以上になると、機会と強みに集中しても一般的なアイデアしか出ないこともあるでしょう。
一般的ということは、すでにレッドオーシャンになっているか、すぐになってしまうことが考えられます。
大きな市場を目指す人や、実践1でいいアイデアが出なかった方向けのもう一つの方法は、「ピンチも弱みもを全てチャンスに変える」方法です。
4マスの「強み×脅威」「弱み×機会」「弱み×脅威」の内容を全て「強み×機会」にしてしまう、1マス化するのです。
どういうことでしょうか?
自転車競技選手で当てはめてみる
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例えば、平均年齢より高齢になっってしまった自転車競技の選手で脅威と弱みが気になっている選手がいたとしましょう。どんな戦略を取るべきでしょうか?
脅威:近年選手の体の発達が目覚ましく、ライバル選手には身体能力が高く手足が長い大柄な選手が多くなっている。
弱み:体が小さく、身体能力も他の選手と比較すると劣っている。
一見、そろそろ引退して監督やコーチになって若い人を育てるような「撤退」を考えるかもしれません。
この選手の強みを見てみましょう
強み:趣味で将棋が得意。戦略や作戦を考える先読み能力に優れた戦略士
機会:最近さまざまな新しい競技が盛り上がり市場が拡大している
それなら、ベテランの頭脳を生かして頭脳を使う競技に出てはいかがでしょうか?
戦略家であることが、強みになり身体能力をカバーできる可能性があります。
自転車版の競技としては具体的には「バイク・オリエンテーリング」や「MTBO(マウンテンバイク・オリエンテーリング)」と呼ばれるものがあります。
この競技では、地図を使いながら自由なルート選択でチェックポイントを通過し、最速でゴールを目指すのが特徴です。
小柄なことを生かして全走者の後ろで風邪を防いで早く走る、スリップストリームの作戦も使えそうです。
「自転車ならそうかもしれないけど、自分の市場ではそんな都合よく新しい競技なんかないよ!」
と思う方もいるでしょう。
実はそれこそ、最大のチャンスです。
自分のマーケットで新しいルールを作れないか?ルールを作る側に裏返してみるのです。自分の有利なマーケットを自分で作ってしまうのです。
時間をかけて法制度に働きかけるという方法もあるかもしれませんが
(自社都合だけではだめですよ)
比較的やりやすいのは
「新しいカテゴリ・ジャンルを作る」ということです。
新しいカテゴリ・ジャンルを作った事例
「新しいカテゴリ・ジャンルを作る」過去の事例を見てみましょう。
・単なる「もやし」:30円〜50円
・ビタミンサプリ:300円〜1500円
この時代に
・「ビタミンが取れるもやし」70円〜
お肌に良くて、高血圧に効いて、骨も強くなる商品が現れるとどうなるでしょうか?
そう、今では当たり前の「機能性食品」という新しいジャンルですね。
金額も単なるもやしより30〜40%高く売れるのです。
「ちょっと高いけど、普通に食事を取ればビタミンを摂れてお肌にいいかも」「だんなも血圧高いし」と主婦に大ウケしそうですね。
いまさらもやしで差別化するなんて、だれが考えたでしょうか?
(業界の方すいません。)
最初に始めた企業は栄養価が高くなるように実験を繰り返したり、ブランディングしたりきっと得意分野を活かしたのでしょう。
「新しいカテゴリ・ジャンルを作る」ということで自社の強みを活かす市場を作ってしまう。いかがでしょうか?
それではここで、脅威を機会に、弱みを強みに強制発想するパターンを書いておきますね。
製造業における市場の脅威・弱みをポジティブ変換事例 7選
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1.脅威:原材料価格の向上が続いている
→機会:リサイクル材や代替材料の活用を進めることで、コスト削減や環境意識の高い市場へのアピールにつなげる。
2.脅威:短期労働者の高齢化が進行し、人材不足が顕在化している
→機会:これまで情に熱くリストラが難しかったがこの機に自動化やAIを活用したスマートファクトリー化を推進し、生産効率を向上させるきっかけとする。
3,脅威:国内需要が減少し、既存製品の売上が落ち込んでいる
→機会:控え国市場向けに価格競争力のある簡易モデルを展開し、グローバル市場でのシェアを拡大する。
4.脅威:世界的サプライチェーンの混乱により納期が遅延しやすい状況になっている
→機会:国内生産を増やして地産地消モデルを構築し、納期の安定性を武器に顧客を獲得する。
5.脅威:物流コストが節約し、配送コストが利益を圧迫している
→機会:地域ごとに分散生産拠点を分散することで、配送コストを削減しつつ、地域ニーズに寄り添った対応を可能にする。
6.脅威:市場の消費者ニーズが多様化している
→機会:パーソナライズされた商品やサービスの提供を進めることで、ギャンブルとの差別化が実現しやすくなります。
7.脅威:厳しい環境規制が導入され、生産工程の見直しが求められている
→機会:規制をクリアした「低エネルギー消費型製品」や「排出ゼロ工場」を競合に先んじて構築し、環境志向の選択に選ばれるメーカーになる。
自社の弱みを強みに変える事例 7選
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1.弱み:小規模な工場で生産能力が限られている
→強み:生産規模が小さい分、顧客の特注品や試作モデルに柔軟に対応できる。
2.弱み:人材不足でスキルの多様性が乏しい
→強み:競争が参入しにくい専門領域で競争優位を築く。
3.弱み:研究開発のリソースが限られている
→強み:競合のない技術を活用した「オープン革新」を推進。コラボレーションで新製品開発をスピーディに進む。
4.弱み:顧客層が薄く、一社依存度が高い
→強み:顧客と密接な関係を築けていることで、カスタマイズ用途や長期契約を獲得しやすい。
5.弱み:従業員が少ない、大量生産が難しい
→強み:人員が少ない割に、意思決定が迅速。市場の変化に瞬時に対応できる「小回りの効く工場」として価値を発揮。
6.弱み:資金が少なく広告宣伝ができない
→強み:広告に頼らず、口コミや信頼関係を重視した営業スタイルで、コストを抑えながら忠実な顧客基盤を作る。
7.弱み:製品ラインナップが少ない
→強み:限られた製品に集中することで、品質の高さを追求します。特化型メーカーとして市場での理解を得る。
いかがでしたか?
これらは企業を特定していないので少々一般的かもしれませんね。
実際にはみなさんの市場を出来るだけに絞って、もっと業界独自の脅威を、ぜひ機会に強制発想ワークをしてみてください。
最後に「筆者が弱みを強みに変換しているケース」
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最後に、新規事業コンサルタントとしての私の弱みを逆手にとっている例を書きましょう。今回はさらけ出してしまおうと思います。
弱み:著名なコンサルタントと比べて数百億規模の目立ったビッグビジネスを創った大成功の経験がない。
確かに、皆さんもどうせコンサルタントに支援してもらうならビッグビジネスを成功させている有名人に支援して欲しいかもしれません。
私の経験は売上規模数千万〜数億くらいがメインです。
そして、これまで80プロジェクト以上の新規事業に関わっていること、事業化こだわっているので45%以上をマネタイズしています。
と言われてもこれが高いのか、低いのかよくわかりませんよね。
実際にマネタイズできているものでも小額規模なものもあります。
この弱みを逆手にとるとどんなことが言えるでしょうか?
大成功はしていないけど自信がプレイヤーとして関わった経験数は比較的多いくマネタイズのプロセスまで踏んでいる。
→その裏返しは失敗/クローズの経験も多いこと。
実は私は失敗の原因データをしっかり溜めており、失敗法則を体系立ててアーカイブしています。
そうすると、こんな強みが見えてきました。
強み:多くの失敗経験から「新規事業で失敗しないためのノウハウ」を提供できる。
このように強みの仮説をおいてみたのです。
そうすると、わかってきたことがあります。
有名人とはいえ新規事業を狙った通りにゼロから大成功させた人は少ないので、再現性があるアドバイスをできる人は少ない(というか見たことない。)そう、コンサルタントは「こうしたら必ず成功する」とはアドバイスしにくいのです。
ところが逆に失敗の法則はかなりの精度でわかるということに気づきました。
私は「こうしたら必ず失敗する。」「遠回りになる」とクライアントに断言することがよくあります。
成功の近道はないけど、こっちに行ったら迷ってしまう、戻ることになる。というのは精度高くアドバイスできるのです。
これが、お客様にすごく価値があることがわかりました。
なぜかというと、新規事業開発において最大の敵は「時間の経過により鮮度が落ちること」だからです。
・不要なタイミングで調査ばかりして時間が過ぎる。
・浅い仮説でプロト開発し、何度もピボットを繰り返す。
・実験をせずに長期開発をして無駄に捨てる。
これにより数ヶ月が簡単に過ぎ去っていき、気づけば1年が経過してしまうのです。
時間がかかると、市場はどんどん競合が増えていき、メンバーのモチベーションは下がり、資金も底をつくかもしれません。
大企業の方は期が変われば異動や部署ごとなくなってしまう危険もあるでしょう。新規事業では人が引き継いで成功することをあまり見たことがありません。
つまり新規事業の成功確率を上げるには、遠回りを避け、失敗を避けつつ高速で実験することが超重要なのです。
さらに弱みと思っていた「売上規模数千万〜数億くらいがメイン」ですが、どんな大きな新規事業も最初は小さく、数億まで立ち上がればその先も考えられるわけです。弱みでもなんでもないことに気づきました。
自分の経験を「強み」にした私は、自社のホームページのTOPページに失敗経験を「CLOSE数」としてオープンにし掲載しています。
〜トップページの下のあたり「新規プロジェクトの経験」〜
これは失敗経験から学んでいることをみなさんにわかってもらう為に表示させました。今の所、同じように失敗をOPENにしているコンサルタントは見たことがありません。
クライアントにはさらに詳細な失敗にまつわる事例、アドバイスをしています。このように、脅威や弱みに気づいたら裏返してみることでユニークな戦略を作りやすくなるのです。
クロスSWOT分析になれた方は是非チャレンジしてみてくださいね。
皆さんの事業開発が成功せることを祈っております。
それでは次の記事でお会いしましょう。