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「社内プレゼンを制覇せよ!」その1資料編〜苦手を乗り越える実践テクニック〜
「また落とされた…」
深夜まで頑張って作り上げた新規事業の提案資料。
チームメンバーと何度も推敲を重ね、自信を持って臨んだ役員会。
しかし結果は厳しいものでした。
「うちの役員は既存事業に忙しくて新規事業をわかってないのではないか?」
そんなネガティブな言葉が頭をよぎります。
でも、本当にそうでしょうか?
私は新規事業開発コンサルタントとして、これまで70以上のプロジェクトに携わってきました。
その経験から、社内説明の成否を分ける重要なポイントがいくつかあることに気づきました。
今回は、失敗談も交えながら、社内説明を成功させるための資料作成のコツについてお話しします。
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審議する側の立場に立つと?
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まず、最初に視点を変えて役員の方々の立場に立って考えてみましょう。
1.知らない事業についてわずか10分程度のプレゼンで理解する必要
2.専門用語や新しいテクノロジーの説明を短時間で消化する必要
3.既存事業のエビデンス思考から、新規事業の未来思考に切り替えが必要
4.限られたデータでその場で判断を求められる
どうでしょうか?
こんなことができるのはまるでスーパーマンのようだと思いませんか?
経営者だから当たり前なのでしょうか?
いえいえ、同じ人間です。
例えば、ビッグデータを活用した新しい生産管理システムの提案を行った時
「なぜ既存のシステムでは対応できないのか」
「投資対効果は具体的にどれくらいなのか」
という質問が相次ぎ、承認を得られませんでした。
かつて大手企業の新規事業部門にいた頃、この状況を理解せずに何度も失敗しました。
「我々の努力を理解してくれない」と思い込み、建設的な対話ができなかったのです。
しかし、本当はプレゼンの内容が伝わってないから否定せざるを得なかったと知った時に、この認識を改め、承認率が大幅に向上しました。
以下に、私が長年の経験から得た具体的なテクニックをご紹介します。
効果的な資料作成で改善する5つのポイント
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1. 各ページの最上部で核心を伝える
【失敗例】
以前、IoT関連の新規事業を提案した際、技術的な詳細を前面に出した資料が提出され延々と技術説明が続きました。
結果、役員の方々の目が次第に 「glazed over」(退屈して目に生気が無くなる )していくのが分かりました。
【改善策】
各ページの最上部1〜2行に最も伝えたいことを凝縮します。
「本事業により、当社の顧客満足度を30%向上させ、新規顧客を20%獲得する」
ページで何が言いたいかがわかれば、その後技術の話が続いても、技術系の人は聞くし、そうでない人は深く理解しなくていい部分とわかるわけです。
例えば、あるメーカーで植物性代替肉の新製品ラインを提案する際、各ページの冒頭に「2025年までに当社の売上の15%を植物性製品で占める」というメッセージをなんと全ページに一貫して掲載しました。
これにより、役員の注目を集めることに成功しました。
2. メインメッセージの一貫性を保つ
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【ポイント】 各ページのメインメッセージだけを読んでも、資料全体の意味が通じるようにします。
【実践例】
P1:「独自調査により隠れたニーズを発見」
P2:「このニーズにIoTを使った解決策を提供」
P3:「市場規模は2025年に1000億円を超える見込み」
P4:「この市場は当社の強みを活かした競争力のある参入が可能」
P5:「3年で黒字化、5年で売上200億円、シェア20%の計画を立案」
どうでしょうか?P1~5までストーリーになっていますね。
これにより、複雑な技術説明に入る前に、役員たちに事業の全体像を把握してもらうことができました。
3. 数字で語る
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経営者、役員にとって、数字は最大のエビデンスです。
当たり前のようですが、新規事業になると予測がつきにくいものを避けて通る傾向もあります。
フェルミ推定※などを用いて、極力数値で語ることをお勧めします。
【改善例】
Before:「市場は拡大傾向にあります」
After:「市場規模は年率15%で成長し、2025年には1000億円規模に」
例えば、ある小売チェーンでオンラインとオフラインを融合させた新しい店舗形態を提案する際、
「このエリアは推定X千人の往来が見込めます。従来型店舗と比較して、顧客単価が23%向上、在庫回転率が1.5倍に改善」
という具体的な数字を示しました。
これにより、役員の関心を大きく引くことができました。
4. 業界用語の扱いに注意する
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【失敗例】
DX関連の事業提案時、「DoT(Deep Learning of Things)」「スクラム」など、IT業界では当たり前の用語を説明なしに使用。
役員から「何を言っているのかわからない」と指摘されなかったのでわかっていたと勘違い。
実際はわからないまま聞き流されていたのでした。
【改善策】
重要な業界用語は丁寧に説明し、資料全体を通して繰り返し使用します。
例えば、ある製薬会社の新規事業担当Eさんは、AI創薬プロジェクトを提案する際、「インシリコスクリーニング」という専門用語を使用する前に、「コンピュータ上で薬の候補物質を高速で選別する技術」と平易な言葉で説明しつつ、使用したページ全てに注釈を入れたのです。
全ページに?と思った方もいるでしょう。
やりすぎでしょうか?
しかしこれにより、非専門家の役員にも理解しやすい資料となりました。
時にこのようなエキセントリックな方法も使って目を引くのも、新鮮味があっていいかもしれません。
5. 新しいワードを社内で流行らせてしまう
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あなたの新事業で当たり前の業界用語を皆の当たり前にする。
先ほどの4の事例を逆手に取ってしまうパターンです。
あなたが当たり前に使っている、または「これくらい知ってほしい」という業界用語をさらっと流して説明すると、そこだけ「?」が頭の中に残りずっと気になるものです。
気になってまともに審議できない方もいるでしょう。
【改善策】
まずは見つけ方として、別業界の方に練習台になってもらい聞いてもらえると発見しやすい。
社内審議会とはいえ「別業界の素人との人たちに話す」くらいの感覚で準備するのです。
そして重要度の高い業界用語は、1ページ使ってでも、最初にしっかり説明し、資料内にタイトルから巻末までに何度も、何度も繰り返し入れて、社内で流行らせてしまうのです。
社内で別の人たちが、あなたの新規事業の専門用語を使っていたらシメたものですよ。
6. リスクを隠さない
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役員の方々はビジネスの厳しさを知っています。
新規事業が何のリスクもなく進むと思っていないわけです。
順風満帆にいっているように見えたプロジェクトで、ある日突然、海外パートナー企業の問題で知財が使えなくなり、クローズをせざるを得なかった経験があります。
ひょっとして、本人たちが気づいて言えなかっとしたら?
事前に話せば、海外の人脈が多い役員から別の企業を紹介されていたかもしれないし、開発をやめていたかもしれない。
【改善策】
あるメーカーの新規事業チームでは、過去の失敗から学び、新規事業の提案テンプレートに「技術的課題」「法規制の不確実性」「社会受容性」といったリスクを明確に示し、それぞれに対する具体的な対策案を提示するためのスライドが事前に用意されていました。
この誠実な姿勢が評価され、役員から「リスクを理解した上で挑戦する姿勢が評価できる」とコメントをいただき、承認につながりました。
リスクはOPENにし、ともに解決策を議論するくらいの気持ちで提案する方が信頼を得やすいのです。
最新トレンドとの関連付けでレベルアップ
2024年現在、新規事業開発において無視できないトレンドがあります。
【2024トレンドの例】
1.サステナビリティ
2.DX(デジタルトランスフォーメーション)
3.オープンイノベーション
4.イマーシブ(没入体験)
5.五感テクノロジー
6.リユース消費
7.宇宙テクノロジー
8.ウェルビーイング
これらのキーワードを適切に盛り込むことで、時代の潮流を押さえた提案だと印象付けられます。
重要なのは、これらのワードは経営課題に近いことも多いのです。
新規事業と経営課題とつながりを感じ、あなたのビジョンが共有できるのです。
例えば、ある重工業メーカーで、再生可能エネルギー事業への参入を提案する際、「サステナビリティ」「DX」「オープンイノベーション」の3つの観点から事業の意義を説明しました。
具体的には、環境負荷低減効果、IoTを活用した効率的な運用、スタートアップとの協業によるイノベーション加速などを盛り込み、時代に即した提案であることをアピールしたことで経営陣の共感を得れたのです。
読者が即実践できるアクションステップ
各ページ最上部にキーメッセージを追加し、ストーリーになるように繋ぐ
業界用語リストを作成し、説明が必要な用語を洗い出す
数値化できる部分を特定し、具体的な数字に置き換える
数値難しくてもフェルミ推定など用いて数値化を検討する
リスクはオープンにし、対策のセクションを追加する
最新トレンドとの関連性をチェックし経営課題と紐づける
上記のステップを実践し、提案資料を一新したところ。その結果、以前は「面白いが実現性が不明」と評価されていた案件が、「具体的で説得力がある」と高い評価を得て承認される可能性が上がります
よくある質問(Q&A)
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Q1: プレゼン時間が短い場合、どこを重視すべきですか?
A1: 各ページのトップメッセージと、最終的なビジネスインパクト(市場規模、収益見込みなど)に焦点を当てましょう。
例えば、ある商社の新規事業担当Iさんは、5分間のショートプレゼンを求められた際、各スライドはキーメッセージのみ。
要点を1分で説明し、残り4分使ってしっかり市場規模と5年後の収益予測にフォーカスしました。
この簡潔な説明が役員の興味を引き、後日詳細な説明の機会を得ることができました。
Q2: 技術的に複雑な内容を説明する際のコツは?
A2: 身近な例えを使うことが効果的です。例えば、ブロックチェーンを説明する際に「電子版の通帳」という表現を使うなど、イメージしやすい言葉で伝えましょう。
例えば、量子コンピューティング事業への参入を提案する際、
「従来のコンピュータは、本のページをめくるように動作します。」
「一方、量子コンピュータは、全てのページを同時に読むことができるイメージです。」
と、並列作業のイメージを本を用いて説明しました。
この分かりやすい例えにより、非技術系の役員の理解を促すことができました。ポイントは「この分野を初めて聞く一般人」と思って資料を作ることです。できるだけ関連の薄い社内の部署の人に一度聞いてもらうのもおすすめです。
Q3: 役員からの厳しい質問にどう対応すべきか?
A3: 質問の背景にある懸念を理解し、それに対応する形で回答します。また、「ご指摘ありがとうございます。その点については〜」と、建設的な姿勢を示すことが重要です。
例えば、ある金融機関の新規事業担当Kさんは、ブロックチェーンを活用した新サービスの提案時に「セキュリティリスクは大丈夫か」という厳しい質問を受けました。
Kさんは「ご指摘ありがとうございます。セキュリティは最重要課題の一つです」と謝意を示した上で、具体的な対策と業界最高水準のセキュリティ専門家との協業計画を説明しました。
この対応により、役員の懸念を払拭することができました。
役員からの意見は大抵2分されます。
一つ目は自身の責任範囲の部分で実現性や事業性を厳しく問うもの。
この場合は最終的に巻き込む必要があるので相手の立場に立ってどうすべきか考えるのがポイントです。
二つ目は、自身の責任範囲ではないが知見として知っていることをベースにアドバイスの意味で厳しい質問がくるパターンです。
これは非常にばらつきがあるのですが、現場で起きている事実やユーザーインタビュー結果をしっかりつけたエビデンスの説明をすることで、乗り越えましょう。
大丈夫です、既存事業と違い、あなたよりその事業に詳しい人はいないのですから、自分が専門家で第一人者という認識が大事です。
まとめ:社内説明は「翻訳力」が鍵
効果的な社内説明の本質は、専門知識を持たない人にも理解できるよう「翻訳」することです。
これは単なるスキルではなく、相手の立場に立って考える姿勢から生まれます。
私が運営するMOONSHOT WORKS株式会社では、「スキルCUBE」というサービスを通じて、この「翻訳力」を含む新規事業開発に必要なスキルをトータルでサポートしています。
↓スキルCUBEの詳しい説明はこちら↓
MOONSHOT WORKSの「スキルCUBE」で支援できること
実際のプロジェクト伴走支援
役員提案に向けての資料テンプレートとロールプレイング研修
例えば、実際のプロジェクト伴走支援の中で、参加者の方々は自社の資料を持ち寄り、相互にフィードバックを行います。
これにより、自社の「当たり前」が他社の人には通じないことに気づき、より分かりやすい資料作成のコツを体得していきます。
また、役員提案を想定したロールプレイング研修も行っています。
ある参加者さんは、この研修前は「うちの役員は新規事業に否定的だ」と思っていたのが、実は役員が事業化するための「収益モデルにするための当たり前の質問」をしていたことに気づき、自身の提案資料を大幅に改善。
その結果、長年承認されなかったプロジェクトがたった1ヶ月で通過したという成果を挙げています。
新規事業の成功は、優れたアイデアだけでなく、それを組織内で「翻訳」し、理解を得る力にかかっています。
この記事で紹介したテクニックを活用し、ぜひ社内説明力を磨いてください。
次回は<コミュニケーション編>として、プレゼンテーションやQ&Aセッションでの具体的なテクニックについてお話しします。
皆さんの挑戦が、未来を変える大きな一歩となることを願っています。
用語解説
フェルミ推定とは
新規事業の立ち上げ時に役立つ「フェルミ推定」。
これ、ビジネスの現場でも超重要なスキルです。
実際、初めからデータがそろってることなんてまずないし、ざっくりとした見積もりを立てて、それをもとに戦略を考えるのが新規事業の基本です。
たとえば、「東京に新しいカフェを出したい」って考えてるとしましょう。
でも、東京のカフェ市場ってどれくらい大きいか見当がつきませんよね?
そんな時こそ、フェルミ推定の出番です。
まず、東京の人口は約1400万人。
ざっくりでいいから、1日にカフェを利用する人が何人くらいいるか想像してみます。
たとえば、働いてる人や学生を含めると、1日に10%くらい、つまり140万人がカフェに行くんじゃないかって仮定する。
次に、その人たちが1日にいくらくらいカフェに使うか考える。
ここもざっくりでいいから、1人あたり500円くらいかなと仮定します。
そうすると、1日のカフェ市場は140万人 × 500円で7億円になる。
で、これを1年にすると7億円 × 365日だから、年間の市場規模は約2500億円って推定できる。
もちろん、ざっくりした推定だけど、これで市場の大きさが見えてきますね。
フェルミ推定って、こうやって数字がすべて揃ってなくても、まずは仮説を立てて、次に進むかどうかの判断材料にできる。これが新規事業のスピード感にすごくマッチしているのです。