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「競争に負けない為のファイブフォース分析」:評価リスト付き 【フレームワーク#06】

はじめに

新規事業を立ち上げたけど、あっという間に競合が増えて太刀打ちできなくなった。顧客に価格交渉で強気に出られて思ったように利益が出せない。強豪と思っていなかった製品に代替えされた。

新規事業において、このような悔しい経験された方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?私も何度かこのような経験をして悔やんだものです。

ビジネスにおいて競争に勝つには外部環境を知ることが何より大事です。
そのスタートラインは、自社を取り巻く競争環境を深く理解することから始まるのです。

今回は競争環境を理解する強力なツール「ファイブフォース分析」について書きたいと思います。

皆さん、こんにちは。MOONSHOT WORKS株式会社代表の藤塚洋介です。
私は新規事業開発コンサルタントとして、これまで70以上のプロジェクトに携わってきた経験から、この記事では、ファイブフォース分析の基礎から実践的な活用方法まで、豊富な例と具体的なデータを用いて、分かりやすく解説します。

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1. ファイブフォース分析の概要

ファイブフォースモデルの基本構成

ファイブフォース分析は、業界の競争構造を5つの主要な要因から分析するフレームワークです。

5つの要因、すなわち「競合他社の力」「新規参入の脅威」「代替製品の脅威」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」を分析することで、業界の魅力度や自社の競争優位性を評価できます。

5つの要因をそれぞれ分析し、外側からの圧力が弱ければその業界は高収益性と言え、強ければ低収益性ということが言えるのです。

以下の図を用いて、各要因の関係性と業界への影響を視覚的に理解しましょう。

5FORCE分析

ポーターの理論的背景

ファイブフォース分析は、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授によって提唱されました。

ポーター教授の競争戦略論の中核を成す概念であり、競争優位を築き、持続的な成長を実現するための分析ツールとして、世界中の企業で活用されています。

業界分析への適用方法

ファイブフォース分析は、特定の業界における競争の激しさや収益性を見極めるために用いられます。

分析結果に基づいて、新規事業参入の判断、既存事業の戦略見直し、競争優位性の構築など、様々な経営判断に役立てることができます。

2. ファイブフォース分析の詳細な要素:各フォースの評価方法とポイント

各フォースを評価するための具体的な質問項目、点数化による評価方法(5点満点)、そして各業界の事例を提示することで、より実践的な理解を促します。

競合他社の力

評価ポイント:
競合企業の数、市場シェアの集中度、製品/サービスの差別化、価格競争の激しさ、顧客のブランドロイヤルティ、退出障壁

質問例:
主要な競合企業は誰か?
市場シェアはどの程度か?
製品/サービスに独自の強みはあるか?
価格競争は激しいか?
顧客は特定のブランドに忠誠心を持っているか?
退出に際し、コストや法的制約はあるか?

事例
(カフェ業界): スターバックス、ドトール、タリーズなど競合多数。
市場シェアは分散傾向。
価格帯やメニューの差別化は限定的。
価格競争が激化しやすい。
顧客のブランドロイヤルティは中程度。
退出障壁は低い。
競合他社の力:強い (4/5点)
→ 戦略:ニッチ市場(スペシャルティコーヒーなど)への特化、顧客体験の向上、独自のロイヤリティプログラム

新規参入の脅威

評価ポイント:
参入障壁 (規模の経済、ブランド力、政府規制、技術/ノウハウ、流通チャネル)、既存企業の報復の可能性

質問例:
新規参入に必要な初期投資はどの程度か?
既存企業は強いブランド力を持っているか?
参入にあたり規制や認可は必要か?特別な技術やノウハウは必要か?
既存企業からの報復(価格競争など)は想定されるか?

事例
(航空業界): 航空機の購入・リース、空港使用料など巨額の初期投資が必要。既存企業(ANA、JALなど)は強いブランド力を持つ。
厳しい安全規制、航空免許取得の必要性。高度な運航技術/ノウハウが必要。 → 新規参入の脅威:弱い (2/5点)
→ 戦略:新規参入阻止のためのロビー活動、ブランド力の強化

代替製品の脅威

評価ポイント:
代替製品/サービスの価格/性能、顧客の切り替えコスト、代替製品/サービスの普及率

質問例:
顧客ニーズを満たす他の製品/サービスは存在するか?
代替製品/サービスは自社製品より安価/高性能か?
顧客が代替製品/サービスに切り替えるのは容易か?
代替製品/サービスの利用は増加傾向にあるか?

事例
(タクシー業界): ライドシェアサービス(Uber、Lyftなど)の台頭。タクシーより安価で、アプリによる利便性も高い。
顧客の切り替えコストは低い。ライドシェアの利用は増加傾向。
→ 代替製品の脅威:強い (4/5点)
→ 戦略:サービス向上、顧客体験の差別化、AI活用による配車効率向上

買い手の交渉力

評価ポイント:
買い手の規模/集中度、買い手の価格感度、製品/サービスの標準化、買い手の切り替えコスト

質問例:
主要な顧客は誰か?
顧客は価格に敏感か?
製品/サービスは標準化されているか?
顧客が別のサプライヤーに切り替えるのは容易か?
顧客は大口注文を行うか?

事例
(スーパーマーケット業界): イオン、セブン&アイなど大規模小売業者の存在。価格競争激化。商品は標準化されているものが多い。顧客の切り替えコストは低い。
→ 買い手の交渉力:強い (4/5点)
→ 戦略:プライベートブランド開発、サプライチェーン最適化、独自のサービス提供

売り手の交渉力

評価ポイント:
売り手の規模/集中度、代替となる供給元の有無、製品/サービスの差別化、買い手にとっての供給元切り替えコスト

質問例:
主要なサプライヤーは誰か?
代替となるサプライヤーは存在するか?
サプライヤーの製品/サービスは独自性が高いか?
サプライヤーを切り替えるのは容易か?

事例
(PC業界): Intel、Microsoftなど一部部品(CPU、OS)のサプライヤーが寡占状態。
代替となる供給元は限られる。
これらの部品は製品差別化に大きく影響。供給元を切り替えるには、互換性などを考慮する必要があり、コストもかかる。
→ 売り手の交渉力:強い (3/5点)
→ 戦略:複数サプライヤーの確保、代替部品の開発、オープンソースソフトウェアの活用

3. ファイブフォース分析を実践するタイミング

どのタイミングで使うべきか?


戦略立案の場面での活用

新規事業への参入、事業拡大、M&Aなどを検討する際には、ファイブフォース分析を行うことで、自社観点になりがちな初期の戦略ミスを減らす効果があり、失敗の可能性を低くすることができます。

業界変動時の必要性
技術革新、規制緩和、市場のグローバル化といった変化が起きた際には、業界構造が大きく変わる可能性があります。
以前は1年ごとにはやった方がいいと言われていましたが、近年のテックマーケットは成熟スピードが早く、1年も立てば業界や顧客との関係は変わります。

定期的ではなく、顧客との関係が急に変わってきたと現場で感じた時は、立ち止まってこファイブフォース分析で対応した戦略を立てる必要があります。

現代のビジネスでは、ファイブフォース分析を行うべき頻度は高まっていると言えるでしょう。

4. ファイブフォース分析の応用事例

ここでは、多様な業界の事例を、具体的なデータと戦略の示唆とともに示します。BtoB、BtoC、NPO、大企業、中小企業など、様々なビジネスモデルの事例を含め、各事例で5つの力のレーダーチャートと分析結果に基づいた戦略を示します。

スマートフォン業界 (大企業、BtoC)


スマートフォン業界の分析チャート

競合他社の力:4
強い Apple、Samsungなどの巨大企業が市場を寡占。
激しい価格競争と技術革新競争。ブランドロイヤルティは高いものの、乗り換えも比較的容易。

新規参入の脅威:2
やや弱い 高額な開発費、ブランド構築の難しさ、既存OSへの依存などが参入障壁。ただし、新興国メーカーの台頭も見られる。

代替製品の脅威:3
やや強い タブレット、スマートウォッチ、折りたたみ式スマホなど、新たなデバイスが登場。顧客ニーズの多様化により、従来型スマートフォンの市場は飽和状態。

買い手の交渉力:4
強い 製品情報へのアクセスが容易で、価格比較も容易。消費者には多くの選択肢があり、ブランドスイッチも容易。

売り手の交渉力:4
強い 主要部品(CPU、ディスプレイなど)のサプライヤーは限られており、交渉力を持つ。OS提供企業の影響力も大きい。

戦略の示唆:
技術革新による差別化、ブランドロイヤルティの強化、エコシステム構築、新興国市場への展開、部品サプライヤーとの戦略的提携

EC業界 (中小企業、BtoC)


EC業界の分析チャート

競合他社の力:5
非常に強い Amazon、楽天など巨大プラットフォーマーの存在。中小EC事業者は激しい価格競争に晒されている。

新規参入の脅威:4
強い 初期投資は比較的少額で、参入障壁は低い。しかし、競合多数のため、差別化が困難。

代替製品の脅威:2
やや弱い 実店舗は依然として代替手段として存在するが、利便性の面でECに劣る。

買い手の交渉力:4
強い 価格比較サイトの利用が容易で、消費者は価格に敏感。
売り手の交渉力:やや弱い 商品供給元は多様であり、売り手の交渉力は限定的。

戦略の示唆:
ニッチ市場への特化、独自の商品開発、顧客体験の向上、コミュニティ形成、プラットフォーマーとの連携

NPO (環境保護団体)

NPO (環境保護団体)の分析チャート

競合他社の力:3
やや強い 類似の活動を行うNPOは多数存在する。寄付金獲得競争が生じる。

新規参入の脅威:3
やや強い NPO設立のハードルは比較的低い。しかし、知名度向上、活動資金の確保が課題。

代替製品の脅威:1
弱い 環境保護活動の代替手段は限定的。

買い手の交渉力:2.5
中程度 寄付者は活動内容、実績、透明性などを重視して寄付先を選択する。

売り手の交渉力:1
弱い NPOは物品購入において、一般消費者と同様の立場。

戦略の示唆:
明確なビジョンとミッションの設定、活動実績のアピール、透明性の確保、寄付者との関係構築、広報活動の強化

BtoB SaaS (大企業)

BtoB SaaSの分析チャート

競合他社の力:4
強い 大手SaaS企業が市場を席巻。機能、価格、サポートなどで激しい競争。

新規参入の脅威:2
やや弱い 開発コスト、営業力、顧客獲得コストなどが参入障壁。

代替製品の脅威:3
やや強い オンプレミス型ソフトウェア、オープンソースソフトウェアなどが代替として存在。

買い手の交渉力
やや弱い 企業は特定のSaaSにシステムを依存させるため、切り替えコストが高い。

売り手の交渉力
弱い 開発プラットフォーム、クラウドサービスなどは標準化されているため、売り手の交渉力は限定的。

戦略の示唆:
ニッチ市場への特化、高度な機能開発、カスタマーサクセスの重視、エコシステム構築、API連携


これらの事例以外にも、様々な業界・ビジネスモデルでのファイブフォース分析が可能です. 重要なのは、各フォースに影響を与える要因を具体的に特定し、業界特有の状況を考慮しながら分析を行うことです。

最後に提供するチェックリストと質問集を活用し、ぜひ自社のビジネスにファイブフォース分析を適用してみてください.

5. 付録

各フォース評価のためのチェックリストと質問集

各フォースについて、評価の際に考慮すべき項目をリスト化し、具体的な質問を添えました。これらのチェックリストと質問集を活用することで、より
体系的にファイブフォース分析を進めることができます。

競合他社の力

競合企業の数(多いか少ないか、寡占か競争的か):
業界には何社の競合企業が存在するか?主要な競合企業は?

業界の成長率
業界の成長率はどのくらいか?市場は拡大しているか、縮小しているか?

製品/サービスの差別化(差別化容易か困難か):
製品/サービスに独自の強みはあるか?他社と差別化できる要素は何か?顧客はブランドに忠実か?

価格競争の激しさ(激しいか穏やかか):
価格競争は激しいか?利益率はどの程度か?

退出障壁(高いか低いか):
業界からの撤退は容易か?撤退コストはどの程度か?

新規参入の脅威

参入障壁の高さ(高いか低いか):
新規参入に必要な初期投資額は?必要な許認可は?

規模の経済(重要か否か):
大量生産によるコスト削減効果は大きいか?

ブランド力(強いか弱いか):
既存企業は強いブランド力を持っているか?

政府規制(厳しいか緩やかか):
参入にあたり、規制や認可は必要か?

既存企業の報復の可能性(高いか低いか):
既存企業からの報復(価格競争、マーケティング攻勢など)は想定されるか?

代替製品の脅威

代替製品/サービスの価格/性能(自社製品と比較してどうか):
顧客ニーズを満たす他の製品/サービスは存在するか?
代替製品/サービスは自社製品より安価/高性能か?

顧客の切り替えコスト(高いか低いか):
顧客が代替製品/サービスに切り替えるのは容易か?

代替製品/サービスの普及率(高いか低いか):
代替製品/サービスの利用は増加傾向にあるか?

買い手の交渉力

買い手の規模/集中度(大規模か小規模か、集中しているか分散しているか):
主要な顧客は誰か?
顧客は大口注文を行うか?

買い手の価格感度(高いか低いか):
顧客は価格に敏感か?
価格が購買決定の重要な要素となっているか?

製品/サービスの標準化(標準化されているか差別化されているか):
製品/サービスは標準化されているか?
他社製品と容易に比較できるか?

買い手の切り替えコスト(高いか低いか):
顧客が別のサプライヤーに切り替えるのは容易か?

売り手の交渉力

売り手の規模/集中度(大規模か小規模か、集中しているか分散しているか):
主要なサプライヤーは誰か?
サプライヤーは寡占状態か?

代替となる供給元の有無(あるか/ないか):
代替となるサプライヤーは存在するか?
容易に見つけることができるか?

製品/サービスの差別化(差別化容易か困難か):
サプライヤーの製品/サービスは独自性が高いか?
他社製品との差別化要素は?

買い手にとっての供給元切り替えコスト(高いか低いか)
: サプライヤーを切り替えるのは容易か?
コストや時間はどの程度かかるか?

FAQ

Q: 5つの力のうち、どれが一番重要ですか?
A: すべての力が重要ですが、業界によって重点的に分析すべき力は異なります。例えば、成熟市場では「競合他社の力」が、成長市場では「新規参入の脅威」が重要になる傾向があります。
イノベーター理論を踏まえて考えると良いでしょう。

Q: 分析結果をどのように戦略に反映させるべきですか?
A: ファイブフォース分析の結果は、業界の魅力度と自社の競争優位性を理解するために用います。例えば、競合他社の力が強い業界では、差別化戦略やニッチ戦略が有効です。買い手の交渉力が強い業界では、顧客ロイヤリティプログラムを強化する、付加価値の高いサービスを提供するなどの戦略が考えられます。

Q: ファイブフォース分析を行う頻度は?
A: 少なくとも年に一度は見直し、必要に応じて更新することをお勧めします。業界環境の変化に応じて、より頻繁に分析を行う必要がある場合もあります。

Q: ファイブフォース分析の限界は?
A: ファイブフォース分析は静的な分析であり、将来の予測はできません。また、業界全体の分析であり、個々の企業の戦略分析には不向きです。他の分析ツールと組み合わせて使用することで、より効果的な戦略立案が可能になります。

いかがでしたか?
この記事を読んだ社内起業家の皆様にとってファイブフォース分析をより深く理解し、実践的に活用する上で役立つことを願っています。

それではまた別の記事でお会いしましょう!


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