焚木
知ってましたか。焚き木をすると、きゅううん、と音がするんです。ぱちぱち弾ける音に混ざって、苦しめられているような、締め付けられているような、そんな声がするんですよ。木に含まれた水蒸気が原因のようですが、自然の音とは不思議なもので、誰かがそこにいるような気になるんです。火とは恐ろしいもののはずなのに、なくてはならないエネルギー、常に私たちと隣り合わせ、だからこそなのかもしれませんね。
焚き木、と聞いて思い出される話があります。戦争時代を生きた祖父から聞いた話です。若い頃、祖父は死んだ人を焼く、焼却場の見張り番をしていたことがあったそうです。火の中で焼けていく人間は、まるであたたかいご飯の上に乗った鰹節のように自然と起き上がってきて、とつぜん生き返ったんじゃないかと、こわくなったそうですよ。それでも見張り番としてその場を離れられなかったそうで、ぱちぱち、きゅうん、そんな音のなかで、そんな声の中で、人間が焼ける音をきっと静かに聞いていたんだと思います。それは、果たしてどんな音がしていたのでしょうか。どんな匂いがしていたでしょうか。
そういえば、燃えていく薪たちを見ながら身の上話を語った夜は、やけに隣にいる誰かと言葉を交わしたくなりました。けれど時々訪れる沈黙の中、ぱちぱち、きゅうん、静かになると聞こえるその音たちは、思いの外、心地よいものだった気がします。夏の終わり、秋の夜の話です。
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