[小説・ユウとカオリの物語] 傷つく覚悟 │ユウ目線8話
勇気ってね、
傷つく覚悟のことよ。
カオリ先生とはあれからレッスンの予約連絡の為に交換したLINEで、他愛もないやりとりを時々するようになった。先生は仕事でSNSやブログなんかもやっていて、僕はそれらを毎日チェックするのが楽しみだった。もちろん僕の事だ。過去の投稿も全部読んださ。この前「全部読みましたよ!」って言った時のカオリ先生、びっくりしてたけどなんだか嬉しそうだったよな。
「えーっ!?全部読んだの!?そんな人初めてよ(笑)びっくりするじゃないの」
「え、そんな驚くことですか~?(笑)だって興味あるじゃないですか?知りたかったんですもん、カオリ先生のこと。それに先生のブログ、オモシロイですよ!」
「えぇ、ありがとう......だってここに来る人達なんてねぇ、わたしの事なんて興味ないのよ。みんな自分の勉強しに来てるだけよ。だからびっくりよ」
びっくりよ、なんて言いながらカオリ先生は確かに嬉しそうだった。僕に知ってもらうことが嬉しいのかな。それなら僕も嬉しいけどな。カオリ先生とは趣味が合う。最初に話した時も共通点がいくつか出てきて、僕はいつの間にか、カオリ先生との共通点探しをするようになってた。特に嬉しかったのは、僕と同じ「詩」を書く趣味があったことだ。この歳でさ、こんなナリをしていて男っぽく振舞ってもいるのにさ、詩を書くだなんて、人にはあんまり話せることじゃないよなぁ。だからうれしかったんだよ。でも今は書いていないみたいだけれど、もう書かないのかなぁ。ブログの過去の投稿には時々、詩が載ってたよな。良い詩なんだよ。さすがなんだよ。だけどあの、昔の詩にでてくる「あなた」って、誰なんだろう。情熱的な恋愛詩が多かったよな。気になるなぁ。でも聞けないよなぁ、さすがに。今は詩、書かないんだろうか。
そんなことを考えながら、僕はカオリ先生のブログをまた過去から読み直していた。
過去の投稿を見たら、一時は二人で教室やってた時期があったんだよな。ユウカさんって、書いてたな。僕と名前が似てるじゃないか(笑)でもなんだかその人の事を書く時の文字が躍ってたんだよな。何て言うんだろう。大好きな人の事を書く時の文字だよ。あれは。僕は昔から、文章から人の感情を読める特技がある。だからわかるんだ。あの「あなた」はユウカさんのことなんだろうか。だったらカオリ先生も……?いやいや。人には色んな「大好き」があるんだよ。良い風に考えるのはやめよう。
そうして僕は、カオリ先生のブログにいつしか、カオリ先生の過去を探しに行くようになっていた。......そんなある日......
「あれ?久しぶりに詩が書いてある!あれ?このあなたって誰だろう......」
それから時々、詩が載るようになっていた。励ますような詩、温かい詩...とても優しい、カオリ先生そのものが、言葉から溢れていた。
「これ、もしかして......僕の事......かな?いや、そんなワケはないか」
そしてある日の仕事帰り。仕事でクタクタになった帰り路のこと。田舎道になぜか、人がまばらに立っていた。
ドン!ドドドドーン!ヒュードドドドーン!
突然、夜空に花火があがった。僕は思わず立ち止まって、その夜空に上がった花火に見とれていた。
「カオリ先生、見てるかな......きっと見てるよな、同じ市内だもん、見てるよな。一緒にみたかったけど、今きっと同じ花火、見てるんだよな」
花火が終わって家に着いて、晩御飯を食べながら僕は、ウイスキーをグラスについだ。もちろん、ロックだ。
「ウイスキーの美味しさ、カオリ先生から教わったんだもんな。カオリ先生も今頃飲んでる時間かなぁ。あ、そだ、ブログのチェックをしなきゃ!」
そうして僕はカオリ先生のブログをあけて......思わず鳥肌がたった。
……そう、タイトルは「花火」。
この音が
あなたを励ますといい
この花が
あなたを包むといい
「僕だ。このあなたは僕なんだ。最近の詩のあなたは......僕なんだ!」
涙が溢れた。止まらなかった。なぜだかはわからない。だけど僕には確信が出来た。言葉から、僕への愛情が伝わってきた。それはどんな色の愛情なのかはわからない。だけどいつも不安ばかりを口にする僕に、先生はこんなにも愛情をくれていたということに、僕はやっと気が付いた。
だけど僕の不安癖がまた、その愛情の邪魔をした。
違うに決まってんだろ。
お前なんて愛情はもらえないんだ。
お前は先生にふさわしくないんだよ。
お前が先生に愛情をもらうだと?図々しいんだよ。
もう一人の僕がずっとそう、僕に言い聞かせていた。自問自答に悩んだ末に、僕はカオリ先生にLINEでその葛藤の想いをぶつけてみた。そして思い切って聞いてみた。
「あれは、僕ですか?カオリ先生の中には、僕がいますか?」
「えぇ、そうよ。ユウよ」
そしてカオリ先生はこんな言葉を送ってくれた。
「わたしを知りたければ、わたしを見ることよ。
勝手に自分の中にわたしを探さないで。
傷つくのを恐れて、
自分の中で勝手に自分を値引いて納得するのは、
相手を見ていないわね。
相手のほんとのことを知りたければ・・・
傷つく覚悟は必要よ。
この場合の勇気って、
傷つく覚悟のことよ」
僕の心の奥底にしまい込んでいた勇気の種が、大地へと芽を出す瞬間だった。