第2章 [第3話]《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》
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だって子供でしょ。
子供時代の自分を、
子供扱いしてあげてよね。
※ ※ ※
通勤途中、最寄り駅までのいつもの田舎道。ここの風景が僕は大好きだ。
特に夏は、真っ青な空に浮かぶ動物みたいな雲を数えながら歩くと、揺れる青い稲が目の前一面に広がって、そこを抜けると大きな向日葵が僕を待っていてくれる。小さかったあの頃、僕を勇気付けてくれたあの道のあの風景みたいだからだ......
幼稚園に入園した日僕は、母と離れるのが不安で1日中泣いていたのを今でも何故か覚えてる。幼稚園でポツンと泣いている僕を上から眺めるように、よく思い出すんだ。そんな僕はいつも、男の子に泣かされて、女の子に慰めてもらう。そんな毎日だった。その構図は小学生に上がっても、ずっと同じだった。
今で言うなら発達障害があった僕は、その頃から学校では集中力がなく、授業なんてまったく聞いていなかった。僕を癒してくれるのはいつも、窓から見る空と雲と田んぼたちで、いつも窓の外を眺めては、空想の世界に浸っていた。そしてなぜか小学生の頃の記憶は、窓際の席の記憶しかない。
授業が終わって休憩時間になるといつも、男子達がいじめに来て、僕はいつも泣いていた。そんな僕を守ってくれるのはいつも、クラスの人気者の女子だった。小学3年生の頃、男子達のいじめがエスカレートしていった。ばい菌扱いされた僕は結局、クラスメート中から無視をされるようになった。そんな僕を助けてくれたのもまた、その頃クラスから一目置かれていた、気の強い女子2人だった。先生に言って学級会を開いてくれたのだ。まだ低学年の子供の事。結局それがきっかけで、いじめはなくなった。
そんな僕も家に帰ればやんちゃなガキんちょで。近所の男子達とは兄弟みたいに毎日毎日、基地づくりやヒーローごっこなんかをやって遊んでいた。いつも輪の中心にいた僕は、近所では「おとこおんな」そう言われて一目置かれていた。
近所には一人だけ女の子がいて、そう、しずかちゃんみたいな子だったっけ。その子と2人でおままごとやお人形遊びをするのが大好きだった。その時だけは男子に邪魔されることなく、女の子になって遊んでいた。
そう。思えばその頃から僕には、男女2種類の性と、泣き虫いじめられっ子とやんちゃながきんちょと、それぞれの性格があった。
4人の僕。それが僕だった。
※ ※ ※
「そっかぁ。4人いたんだね。でもどの子もかわいいじゃない?うん、かわいかったでしょうねぇ、ユウの子供の頃...」
カオリは僕の話を一通り聴くと、少し遠い眼をしてそう言った。
「だってこの前話してくれた、着ぐるみの話だってさぁ...」
「うん?カオリ、ニヤニヤしてるよ??」
「え、だって。わたしならすぐ脱がしちゃうのに!って。思うじゃない?うふふ」
「・・・。」
カオリのはアバタもエクボ、ってやつじゃないのかな。それにカオリはパンセクシャルだから、そもそも男女に区別がないんだよな。僕はそんな人、初めて出会ったんだよ。どっちでもいい、じゃなくって「どっちもいい」とかさ。君はとっても、貴重な人なんだよ。僕ら考えたら、マイノリティ中のマイノリティ、なカップルなのかもしれないね。
うん。そこは良いとして...
「僕は嫌だよ。ヤンチャなガキんちょでずっといたかったよ」
そう。そうすりゃ虐められることもなかったし、女子に頼るなんて弱い自分にならずに済んだんだ。仮面ライダーだってウルトラマンだって、女子を守るじゃないか。そうすりゃ、女子にももてるんだよ。男子とだって遊べたんだよ。強くてかっこいい方が、友達もできたんだよ。
20代の頃、男子っぽく振舞えばもてたんだ。友達もたくさんできたよ。好きな女子も寄ってきてくれたんだよ。着ぐるみ、ほどけてきて中が見えたから、女子な部分も見えたから、振られたんだよ。アイツに迷惑かけたのも、あそこを辞めることになったのも、僕の弱さからだ。そしてそんな自分は、子供の頃の僕が作ったんだ。
「思えば、アイツに依存体質だ、なんて言われたのも、その頃からの癖なのかもしれないな。弱かったあの頃から。子供の頃から頼る癖がついてるんだ」
そう僕がボソッと呟くと、カオリはびっくりしてこう言った。
「え。だって子供でしょ!?何歳だったと思ってんのよ?今ここに同じくらいの虐められてる子供がいたとして、同じこと言える?......学校に行ったらひどい目にあう。まだ小さい子供がさ。そりゃ誰かに寄りかからないと、生きていけないじゃない。当り前じゃない?」
そう、カオリは少し語気を強めながら僕に言った。
そうだ。僕は子供だったんだ。まだ小さく幼い、子供だった。親にも言えず、だけどそばにいる誰かに寄りかかりながらも、一生懸命に生きていた。
「そうだね、僕、子供だったんだよね」
ハッとして呟いた僕にカオリは言った。
「子供時代の自分を、ちゃんと子供扱いしてあげてよね」
僕の視界は大きく広がった。
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