chelmico『Fishing』
2019年8月21日リリース、chelmicoのメジャー2ndアルバム。
"チェルミコ"と読む。女性MC2人組のヒップホップグループで、RachelとMamikoで結成。名前を組み合わせて"chelmico"となる。
僕は長らく日本語ラップが好きだけど、コアに楽しむタイプではなくライトに楽しむ方で、メジャー、アンダーグラウンドといった線引きは特になく、"良いものが良い"というだけだ。
それなのに「今日はラップを聴こう」という気分になるといつも、"ラッパ我リヤ"とか"餓鬼レンジャー"の古いアルバムを聴いてしまったり‥。
ロックバンドなら新しいグループを見つけようとたくさん聴くけど、ヒップホップに関しては何故かいつも踏み出さない。このアルバムも、随分前にレンタルしてまだ未聴だった。
chelmicoは誰かにおすすめされて1曲だけPVを観ただけだった。けど、今回このアルバムを通して聴いてみるとガツンと来る1枚だったのでレビューしてみる。
M1.「EXIT」ヒップホップのアルバムの1曲目はインストから始まる印象があったけど、この作品では1曲目からしっかり1曲披露。始まりのテーマが"出口"となっているのは、現状から一旦逃避してこっちへおいでと言ってくれているようにも思える。
速いBPMのトラックの上で巧みにラップする。個人的にかなり巧いと思う。ラップをしながらトラックがBメロっぽく転調する所も良い。RIP SLYMEの「熱帯夜」みたいな感じ。
M2.「爽健美茶のラップ」実際にCMソングとして書き下ろしているらしい。まあそうだと思う、"ハトムギ 玄米 月見草〜"のフレーズは、国内で生活していて知らない方が難しい。トラックの構成はシンプルだけど、ビートがしっかりしているし、骨太い仕上がりとなっている。
フックで"いろんな事があるけれど 私は今日も生きていく"と歌う。キャンペーンソングとして上出来だと思う、購買意欲も刺激される。ラップも巧い。
M3.「ひみつ」2番のヴァースが好み。深夜の鳥貴族の中で聞こえてくる会話に耳を済ませる。
"「どっから浮気?」マジどうでもいい 「手繋ぎ?キス?」そういうことじゃない ただ君に言えないようなことはしないって それが答え" 何となくだけど、若干のスチャダラパーのテイストも感じられて面白い。日常から切り取って材料にする感じ。
M4.「Navy Love」初っ端からスピーディーな楽曲が続いたけれど、ここで夏休みにトリップ出来るゆったりした楽曲が来る。スローに脱力したラップを披露、トラックもしっかり蒸し暑さを表現するような低音が響く。
M5.「Balloon」いきなりフックから始まるが、歌メロがとにかく良いし、クールに心情をラップしていく中、途中歌うようなフロウに代わる所がある。ラッパーだけど歌唱力もあるので、これは武器になる。
15年ぐらい前に流行していたBENNIE Kという2人組女性グループの場合はシンガーとラッパーで役割が別れていたけど、chelmicoの場合は両者がどちらもこなせる器量を持ち合わせているのかなと感じた。
M6.「Fishing(Interlude)」アルバムの中によくあるブレイクタイム。「なんでFishingなの?」と聞かれて「釣りがしたいと思って‥」とテキトーに応えるような会話が聞こえる。その後はしばらくインスト。小鳥のさえずりや魚が川で跳ねる音も聞こえる。
M7.「BEER BEAR」いつも飲んでるメンバーと今日も楽しく飲もうぜというパーティーチューン。いつもの場所に向かうまでの自身をベアーと見立て森を闊歩する。
M8.「12:37」この曲の後半のリリックは英詞になる部分があって、そこの比喩がなかなか面白かった。ホテルでひたすら待っていま女の子だけど、最終的に"領収書Can you take the garbage out? There is an elephant in the room"という表現が秀逸。
M9.「Summer day」M4.に続き再び夏の曲。男を誘惑する曲だけど、曲調は真逆。BPMは高く早口のラップで畳み掛ける。フックの乗り方は今のトレンドを取り入れたような、まさに若者の乗れる音楽のよう。
こういったテーマの曲、ナンパとかどうこうっていうのは女性目線からのリリックは珍しいと思う。
M10.「仲直り村」前トラックの曲とは一変して"仲直り"とは可愛らしい。笑 トラックや歌メロが良いのはもちろん、純粋に良い曲だ。"ずっと続くものはないよ 誰かが言ってたことの受け売りでも この雨は止む"
誰かの受け売りだけど言うよ、って素直過ぎて良いなと思ってしまう。自分の考えだけで全て解決しないよね。歌い終えた後、浄化される感じがかなり良い。
M11.「switch」前トラックが終わった瞬間に凄い勢いで始まる。煌びやかでポップなフックが最高の1曲。ラップもこれまでの曲よりももっと速い。トラックがもうこれはバンドの生演奏かな?と思ってしまうぐらい色んな音が詰め込まれていて、超楽しい!以上。笑
M12.「Bye」このアルバムの最後を飾るのにふさわしいメロウな楽曲。リリック全体を何度も噛み締めると、愛着が湧いてくる。
"少し爪が伸びてきたな 僕も生き物なんだなって"や、"どうでも良いとか慣れとかちょっと怖えよ"とか、日常の中でふと誰もが一瞬考えるような事を代弁してくれる。些細な事に敏感に察知しながらも皆生きている、自分だけじゃないと少し思わされる曲だった。
かなり良いアルバムだった。全く聴かなかったグループを聴き始めるというのは、意外と集中力がいると思っているけれど、それが好みだった時のハマり具合は大きい。
女性2組のラップグループといえば、僕の世代ではHALCALI。このグループも好きだった人にもchelmicoはオススメ。
むしろヒップホップ自体が時代と共に進化しているので、彼女たちの方がよりスキルフルにラップをしていると思う。
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