
トート・タロットとは何なのか?
What is Thoth Tarot?
トート・タロットは、テレマ(Thelema)の創設者として知られ、20世紀初頭に影響力を持ったオカルティスト、アレイスター・クロウリーによってデザインされました。
クロウリーの下絵をもとに画家のフリーダ・ハリスが、クローリーの解釈と彼女のビジョンを再現し、イメージするというスタイルで、1938年から1943年にかけて制作が進みましたが、実は制作者の存命中には出版されることはありませんでした。しかしながら、クロウリーが執筆し、ハリスの絵で描かれたトート・タロットの解説書「The Book of Thoth」は出版されており、多神教の時代である Isis Aeon *と、キリスト教など一神教の時代である Osiris Aeon を経た後の、人間が神と化する(つまり「個人」の中に神性を見出す)時代 ・Horus Aeon における新たな時代のタロット(トート・タロット)の「ガイド書」として、「The Book of Thoth」は現代に至るまで広く読まれることになっていきます。
1969年にようやく初版が発行されたトート・タロットは、その美しさと、そしてクロウリーの生涯にわたる貴重な研究が色濃く反映されていることから、生前のクロウリーの悪評にも関わらず、非常に高い評価を得ているデッキなのではないかと思っています。私個人にとっては、タロットを起点として派生していく水紋のように、占星学や数秘術、カバラ、エジプト神話、錬金術など、多岐に及ぶ知的好奇心を煽るものであり、タロットの知識だけには収まることのない深い「恵み」を湛えるものという印象です。もしかしたら、こういった特徴はどのデッキにも見受けられるものなのかもしれませんが、トート・タロットにはそれがはっきりと、しかも美しく表現されているように感じられて、まさにそこがトート・タロットの魅力であるように思うのです。
トート・タロットはその構造上、占星学やエジプトのスピリチュアリティー、カバラなどと深く結びついているため、やや複雑で近寄り難いと感じられるかもしれませんが、その複雑さにも関わらず、と言いますか、その複雑さゆえに、私にとっては「抵抗なく」繋がることができたデッキでした。それぞれのカードには無数の元型的なシンボルが描かれていて、互いのカードに潜在的な意味を与えています。「個」と深い関連付け(縁起という「特殊性」)がありつつも、それ自体は非常に「普遍的」である、という在り方は、さながら人生の一場面を切り取ったような風景のようでもあります。トート・タロットのエッセンスを地道に抽出していく作業は、まさにFool’s Journy の道のり(魂への回帰とその霊的な旅)であり、単にカードの意味を解明することが目的なのではなくて、The Fool と一緒に歩きながら自分の「たましい」と再び繋がること、クロウリーの言葉を借りるならば、「真の意志」を発見することを「本質」とする、ということに気付かせてくれます。
クロウリーは「真の意志」を発見するための手段として魔法・魔術(Magick) を推奨していますが、その実践は非常に個人的で一般的な意味での「魔法」とは異なっているように思われます。Magick を実践する魔術師は Magus であり Hermit であって、まさに Fool’s Journy の登場人物、つまり「私たち」なのです。ここで描かれる彼らの姿は、個は宇宙(あるいは神)の小宇宙であるということを私たちに思い出させ、宇宙の意図は自分の内にある、という世界の本質と「精神の旅」の全体像を伝えるものです。そして、このことこそが、「魔術・魔法」つまり、マジックの仕組み(種)なのかもしれません。
魔術とは、自分自身と自分の状態を理解する科学である。それはその理解を行動に移す術である。
Magick is the Science of understanding one’s self and one’s own situation. It is the art of applying this knowledge in action.
その「魔法」の種を、自分の心の庭に植え付けて育てていったなら、私たちが存在するこの「空間」の「仕組み」のようなものがいつの日にか一つの大きな「絵」となって立ち現れてくるのかもしれない、などと想像を膨らませたりします。
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トート・タロットは、もしかしたらすべての人にとって魅力的なものではないかもしれませんが、今ちょっとでも興味が惹かれているならばいつかぜひコレクションに加えていただきたいな、と思います。きっと、既にお持ちのタロットデッキに関する知識や使い方も向上させてくれるはずですし、理解を深めるのに一役買ってくれることでしょう。
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* Aeon
クロウリーの思想においては、
多神教の時代を Isis Aeon
キリスト教など一神教の時代を Osiris Aeon
人間が神と化する人神教の時代を Horus Aeon としている