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プロポーズは甘くない

「やっぱ、ビール最高に旨いわ」

隣で呑気に生ビールのジョッキを飲み干してる男に無性に苛立ってる自分がいる。

「なぁ天音。今日、無口やけど何かあった?とりあえずコレ旨いから食べてみ?」

不機嫌丸出しの私に自分の食べてた串焼きをスッと差し出してきた。

「何これ?」

「ちょっと食べてみ?」

「うまっ。げっ。舌びりびりしてきた!山葵めっちゃ入ってるやん。」

鶏ももにたっぷり山葵を塗って海苔で巻いて焼いた物みたいだ。

「けど旨いやろ?」

「うん。何か癖になる味やな。」

「天音が黙って辛気くさい顔してるからマスターがこれ食べさせろってさ。まだ、メニューにはのせてない試作品らしいぞ」

「マスター有り難う。これめっちゃ美味しいし気に入ったから、二本追加で焼いて。それと生中も…」

「天音ちゃんが気に入ってくれたなら、明日からメニューに入れようかな?」

「わぁーっ。メニューに入れてくれるなら毎回注文するよ?山葵の刺激の後に、ジューシーで甘みのあるもも肉が感じられて…それを秘伝のタレが全部包み込んでる感じが最高!もう生ビールに合いすぎてヤバいってマスターの焼き鳥は最高なんだわ」

「天音ちゃんに、そこまで言われると何かサービスしたくなっちゃうなぁ。いい浸かり具合のぬか漬け胡瓜と茄子食べるかい?」

「やったぁ、食べる!」

「マスター分かってるやん!俺、ぬか漬けは胡瓜と茄子派なんだよ」

「ちょっと…これは私がマスターにサービスされたぬか漬けだから!あんたは食べないで?」

「何だよ…天音、何か今日俺に冷たくない?」

「そうかな?私はいつも通りだよ?あんたは優しくすると調子こくから、ちょっと厳しい位でいいの!突っかかってこないでよね…ビール不味くなるから…」

何かイライラしてるのもアホらしくなったし、焼き鳥もビールも最高に美味しいから、隣にいるよくわからん男は適当にスルーして…今夜は楽しもう。

はぁ。生ビールしみるわ。

てか、私何でイライラしてたんやろ?

「なぁ。俺が転勤になったらお前もついてくる?」

「えっ?何で?」

「何でってそろそろ結婚考えてもよくないか?」

「結婚の事は前から考えてるけど、いちいちあんたに言う必要ないでしょ?」

「あるよ!大アリだ!」

おかしい‥話が噛み合わない‥

そもそも私たち付き合ってないし、何で結婚する、しないって話になるの?

説明して欲しいんだけど…

「何かさ。気づいたら俺の周りにいる身近な女ってお前だけやし、長い付き合いやから色々知ってるから問題ないと思うんやけど駄目か?」 

何か勝手にまとめにかかってるけど、こいつ正気かな?

「駄目じゃないけどさ。結婚ってやっぱ愛がないと無理じゃないかな?ちょっと考え直したら?」

よしっ。言ったぞ。

「愛ならあるけど?無かったらお前みたいにいっつも機嫌悪い女と飲みに来たりするわけないし…」

あのー。めっちゃ失礼なんですけど‥何ですかね…この男は‥

「ねぇ…めっちゃムカつくんやけど…」

「何でムカついたん?俺ららしくない?全然甘くない辺りがさ」

「確かにね。まぁ結婚してあげてもいいけど、後悔しないでよ?」

「サンキュー。じゃあ明後日お前の実家に挨拶行くしよろしく!あと‥マスター生中二つ追加で」

「公開プロポーズ見せてくれたから、生中はサービスにしとくよ。常連の二人が結婚するなんて感慨深いわ…」

おかしいなぁ。

もう結婚する事になってる。

まぁいいか。

こんなんが自分らには合ってるのかもな。

隣でビール飲みながら笑ってる男を見ながらいつの間にか笑顔になってる自分に気づいた。

何やかんやいっても、不機嫌な私の機嫌を直してくれて、愛してくれるヤツは他にはいないのかもな。

そう思いながらビールを飲み干した。

幼馴染みであり、長年の飲み仲間である男が婚約者になった夜。

生中が最高に美味しいと思える夜。

これから二人がどうなるのか、道筋はまだ見えてこないけれど…

ふたりならきっと、美味しいお酒を一緒に楽しむように人生もやり過ごして行けそうかも…

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