同じ歩幅
帰宅途中、星空がきれいだなと見上げながら、信号待ちをしていた。
『お兄さん、向こうへ渡る?』
御高齢の女性から声をかけられた。
『渡りますよ、どうかされましたか?』
『一緒に渡ってくれますか?』
杖を突いていた。
暗い夜、顔は見えない。
とっさに体調が悪いのか、
はたまた目に不自由があるのではとそばに寄り、
『どこか具合でも…』
そういうと、
『いえいえ、歩くのが遅いもので…』
師走の駅前では人も車両も少しばかり急いでいる。
自分がそのスピードに付いて行けず、
迷惑をかけてしまうことを気にかけている様子だった。
信号が青に変わる。
『行こうか!』
赤いスウェードっぽい靴を履いていた。
ゆっくりと交互に、横断歩道のゼブラを靴の歩幅で歩く。
寄り添いながら、同じ歩幅でゆっくりと歩いた。
渡りきると同時に、待ちかねたように車がスピードを上げ去っていった。
彼女は左へ向きを変え駅を目指しているようだった。
『ごめんね、私は右へ行くのだけれど、一緒に駅まで行こうか?』
『いいよ、付き合ってくれて本当にありがとう。』
小さな後姿をしばし見つめながら見送った。
ただ、それだけのことがうれしかった。
ただ、それだけで笑顔になっていた自分がいた。
同じ歩幅で歩くこと。
大切なことを教わった気がした。