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自分が貰ったものを分け合うドラマ

ー去年の秋の或る日

THA BLUE HERBの「路上」を聴いて、すげーって思ったんですけど、何から聴いたら良いですか?
ある日の問いかけ(大意ですが)にずっと考えていて。
3曲くらい選ぼうと思い、
でもやっぱりずっと聴いてしまう。

「路上」って、BOSSのストーリーテラーの側面がめちゃくちゃ出てる曲で、
じゃあってことで1曲は、
「UP THAT HILL」かな。
THA BLUE HERB、セルフタイトル2枚組収録。
この1曲前の、「HEARTBREAK TRAIN」と対になってるんだけど、
結婚し、子供ができた若い夫婦が、
別れていく、別れてからのそのあとを描いてる。「UP THAT HILL」はシングルマザーから見た視線で。

「路上」の収録されたSELL OUR SOULからなら、「SMILE WITH TEARS」。「サイの角のようにただ独り歩め」の、Mr.アブストラクトって呼び名ははずれたな、気張ったな、残念ながらまだ甘い、ばっさり、お前には心の闇がない って件のライムスター、Dさんとのビーフの曲、このアルバムを終える最後のふたことにもやられるんだけど、
当時BOSSか、それかライターさんかは忘れたけれど、SELL OUR SOULで希望を描いてる唯一の曲と書いていた、
「SMILE WITH TEARS」。
地球の最後まで俺達は仲間で、呼び名も待ち合わせ場所も変わらねえ、パーティーはそのままで、もっと暖まって酔いどれた涙で、生きた今日を皆笑え。

ついで、やっぱり「未来は俺等の手の中」になるかな。音の間で出会った俺等は、何時になっても帰らない、増えることはあってももう減らない、多分ずっと一緒に年を取って笑う。朝方のまばらなフロアーは、誰も何一つ疑問を問わない、自分が貰ったものを分け合うドラマ。この曲だって、ずっと苦しい生活のなかで、微かに見えた希望の歌で。

で、「UP THAT HILL」は子供を連れて家出した母親が車の中で聴いてるのが、「未来は俺等の手の中」。あなたと一緒に呑むお酒が目指すゴールだって決めていた…そこからいつかその子供が自分の手元から羽ばたいていく日を想像している様が描かれているんだけど、「SMILE WITH TEARS」の、静かに消えない希望を外に待たせ、悲しみをかみ砕きその苦みを笑え。と呼応しているのは邪推かもね。

もう本気でTHA BLUE HERB好きなもので、配信にないはずの、DJ KRUSHとの追悼歌、「CANDLE CHANT」だったり、コンピレーションのONLY FOR THE MINDSTRONGの最後の「ANNUI DUB THANK  YOU VERY MUCH MY FRIEND」(これは配信にある)からCD盤にシークレットで入っているライブかな?。

ー昨日

八王子MATCH VOXのチケットが取れて!、ライブに行ってきた。
キャパシティは250人となっているけれど、100人?150人?で、制限されていたはず。こんなに間近でTHA BLUE HERBのライブが見れるんだ!と思いながら、ミネラルウォーターを買う。そうそう、
去年の年末のリキッドルームでのワンマンでは、バス停に「人種差別なんかいらない」とタギングされている文字をカメラに映したあとで、BOSSとすれ違ったのだけれど、今回はライブ前に入場で並んでいる時、
たぶんではあるけれど、レインコートに身を包んだBOSSが目の前を歩いていた。背の高さ、あの獰猛な目で、BOSSだと分かる。当然、話しかけたりはしない。目が合い、それからまたすれ違う。

僕は最前列、右端に陣取る。俯けば、ソーシャルディスタンスを守るための白いテープがひかれている。ちょっとゆがみながら。スピーカーからはアンビエントの入ったテクノかな?マニュエル・ゲッチングっぽい、ギターがメインのめちゃくちゃチルな曲が流れている。誰だろう、でもシャザムをする気にはなれない。フロアには学生さんや若い男の子の、二組くらいの声が響いている。

19:00過ぎにはDYEさんが入ってきて、それからBOSS。21:00には終わる、あっという間の2時間(3時間はやると思っていた)。とにかく踊る、踊る!。
狭いテープで囲まれた足元をちょっと踏み出しながら。言葉がやっぱり、あのビートの上で鳴ると(いやBOSSがMCで喋るだけでもリズムが取れて、踊ってしまうんだけど)、がつんと入ってくる。身体に。

俺を乗り越えて行くのは俺だけ

1番良いのはまだ来てない

「THE BEST IS YET TO COME」

泣きそうになる。
それからたくさん笑う。
日本語を扱う表現者の中でも、やっぱり最高峰だと思う。

BOSSがMCで、THA BLUE HERBが日々のサウンドトラックになればいい、というようなことを語る。本当にそうなってるよな、と思う。この20年、ずっとやられっぱなしだ。
それから、ラップだけじゃなくて、ロックンロール好きなやつ、というような主語のことも何度か語る。たまたま小豆色のロカビリーシャツを着ていた僕の事か?と勝手に喜ぶ。

GOOD VIBES ONLY!。
あっという間の2時間は、最後にBOSSが僕の方を指差して終わる。それは勘違いなんだけど、
だけど、ふと思い出す。
パンクバンドのヴォーカリストに、あんたが踊ってると、周りが上がるんや、と関西弁で言われた事を。
こめかみに、右手で拳銃を作ってあてる。頭を、心を撃ち抜いてくれ!と思う。音楽でね。あれ、めちゃ上がるんやわ、ステージから見ると。
他の友達にも、あんたの叫びって良い意味で通るし、響くから、上がるなぁって言われていた事を。

高みがあるなら、それが音楽でなくとも、登りたいと思う。それでしか見えない景色があるなら。少なくともそこへ向かいたいと思う。それは決して、平坦な道のりではない。先駆者なんて、誰もいない。だって、僕の見てる世界は僕にしか見えない、あなたの見てる世界はあなたにしか見えない。感じ方だって違う。表し方だって違う。ただ、分け合うことはできる。分かち合うことはできる。そんな時に、THA BLUE HERBが流れていたら。そんなふうに、「俺を乗り越えて行くのは俺だけ」と言ってるし、だから、「自分が貰ったものを分け合うドラマ」と言っている。

いつか、フルで「ANNUI DUB THANK YOU VERY MUCH MY FRIEND」「未来は俺等の手の中」が見れたら!。

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