夢を叶えた場所で会いましょう

その子と出会ったのは、コロナ渦の前はほぼほぼ毎日夕飯を食べるために通っていたバーで、4年前の夏で、彼女はまだ20歳の美容系の学生で、僕はもう40手前の初老のおじさんだった。友達にいわれた。お兄ちゃんって感じがしますもんね。だから割となつかれやすいですよね。いちばんなついてるのはあなただ!と笑いながら突っ込む。なぜ4年前の夏とはっきり言い切れるかというと、彼女と出会ってから、会う日は必ず1枚は写真を撮っていたから、携帯の出会った日の写真がメモリーにある。凄くフォトジェニックだった。

最初に彼女がそのバーにアルバイトで出社してきた時、一番最初のお客さんが僕で、ビールを初めてついで貰った。大体、そのお店の一番最初にいるお客さんは僕で、たまたま彼女と二人きりや、バーの店長と三人で話すことが多かった。

不意に彼女がいう。私はGさんから、もうたくさんのものを貰ってます。それが何なのか確認するすべもないけれど。Gさん、Gさん、私、Gさんの前だと素の、自然な私でいられます。突然のプレゼントが投げ渡されるから、生きてるってことが満更じゃない、そう思う。ときには見失ってしまうけれど。マッ喰いたい、なんていったら、じゃあ一緒に買いに行きましょう、なんて二人で夜道を歩く。初めてGさんと歩きますね。スカジャンを欲しがっていると、じゃあ私のをあげます!といって、実際、くれた。小さくてすみません。謝ることなんかないのに。Gさん、Gさん、私が50歳になっても私が一人だったら結婚してください!って彼女がいう。久しぶりにいわれた、と僕は思う。大丈夫、いままで僕にそういってきた女の子はみんな結婚してるから。だいいち、僕、きみが50歳になるときには70歳を超えてますから。死んでます!と笑う。

元気かしら?といまは思う。最後に会ったときに、友達と二人で呑みに来ている脇でいつものようにDJをしていた。ケーブルを携帯に繋げて、アンプを通してスピーカーから鳴らす。サブスクやYouTubeから曲をセレクトして、そこに流す。音量やセレクト、雰囲気に配慮しながらのそれは、僕にとっては何よりのDJタイムだ。フェス、DJイベント、ライブハウスでのバンドの合間、有名無名問わず、ジャンルも問わずに出てきたDJと同じように。Gさん、やっぱりDJ良いんですね!彼女が笑った。

彼女のお父さんもたまにそのバーに飲みに来ていて、僕に話す。きみだけはなんだか、覚えてんだよね、のあとに、いつものように彼女の幼稚園の時の運動会で玉入れをしているみんなから離れて、穴を掘っていた彼女。あいつ、早く海外へ出るべきなんだよなあ。

実は僕は彼女の夢を知っている。僕がふとつぶやいた、介護とは別になんとなくDJでコレクション、出たいんだよねーに、彼女が眼をキラキラさせていう。Gさん、Gさん、私も今の本職をいずれ介護に持ち込むのと、コレクションが夢なんです。じゃあさ、パリで会おう!ミラノで会おう!。そこで呑もう!そんな約束をした。夢が叶う場所で会おう。夢を叶えて会おう。

そのバーのことはいつか小説で書きたいな、もちろん、いまじゃなく。50年後くらいに、92歳で。それでもまだ完成しないんだろうな、と思う。欲張りな僕は夢ばかり見る。叶えたい夢が増えていく。そのうちのひとつ。70歳で彼女と結婚しているかは知らない。でも来週はそのお店のもう一人大切な女の子スタッフの誕生日。彼女の話はまた別に。女の子と音楽のはなしばかりしている気がする。だって、大好きなカメラマンがむかしいってた。ドラッグなんかしなくても、恋をしたらわかるんだよって。思えば恋ばかりしている。女の子と、音楽に。

#エッセイ

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