次に会える日を楽しみにしてます。
3か月前、僕は健康診断でいろいろと引っかかって、紹介された病院に行った。
お医者さんとの相談は、あっという間に終わる。
ぶっきらぼうに、肥満だと指摘されて。
(前日までは生きた心地がしなかった。
白血球の数値を見て、ネットで調べたらば、
癌などとギョッとするような言葉がたくさん出てきたから)
「一応、栄養管理士さんに会っとく?」
やっぱりぶっきらぼうに、呟かれて、
個室で、栄養管理士さんを待つ。
入ってきたのはどう見ても、
仮に僕に子供がいたら、彼女くらいの年齢だろう、若い女性だった。
気がつくと、当初の予定時間を軽く過ぎて、
笑い声が響いていた。
最後に、彼女が呟く。
「次にお会いする時を楽しみにしてます」
しっかりと目を見て、だけど、途中から、
節目がちに逸らされながら。
それから3か月が経った。
やるならとことんこだわる僕は、
彼女にもらったコンビニは利用しながら、
その中でも、いかに栄養を摂りながら、
痩せていく、そんな指南冊子を読み込んで、
その日から、唐揚げなど揚げ物や、
夜食、眠れない時に食べていたマヨネーズ付きのカップ焼きそばなどを一切、口にしていない。
(彼女から、眠れない時には、ミルクを温めて飲むように指示された…同時にコーヒーには無調整の豆乳を入れるように。
またサラダは必ず食べるように)
仕事柄、1日に15,000歩から20,000歩は
歩くので、運動については特に言われなかった。
体重計に乗るのが、仕事柄、昼間は休憩などほとんどないので、おにぎり3個にしていて(それも彼女の指示で、昆布や鮭にした。それまでは、パンだったりする)、夕食の時間が楽しみになっていく。
もう27年間、通い続けたコンビニが、夕食が楽しみになった。
それから3か月。
体重は8kg、落ちた。
振り幅はあるけれど、10kgまで行く時もある。
休みをもらい、ようやくまた病院に行った。
採血が最初だった。
それから彼女との面談。
やっぱり笑い声が響く。
聞きたい事は山ほどある。
ふと彼女が、これをもらってください、と、
自炊について尋ねる僕に、いくつかのサンプルをくれた。
採血の結果がまだ出てない以上、
もしかしたらこうして彼女と面談するのも、
これが最後かも知れない、とは分かっていた。
なんか、素敵だな、ってひとは、
ピンと来るじゃない?。
笑顔と、キリリと、そんな彼女の表情を見ながら、少しだけ切なくなる。
この笑顔は、あの夏にモヒートをくれたあの子に似てるな、と思う。
慌ただしく面談が終わり、
ほんとに痩せたのは、
彼女の指南のおかげだと、
挨拶して、一旦、別れた。
内科医の待合室で、ぼんやりしている僕に、
彼女が駆け寄ってくる(ように見えた)。
そこで、生活改善と自炊のために、
さらにプリントを2枚くれて、
彼女は部屋に消えていった。
血液検査の結果は、
基準値にすべてが戻っていて、
次回の予約も必要ない、と言うものだった。
相変わらずぶっきらぼうに告げられる。
そんなものだよね、ととうに、
約半分の人生を過ごした僕は思う。
それから、会計をし、病院を出て、
リヒター展に向かう電車にいた。
金曜日、夕方のリヒター展は思っていたよりも、
混んでいた。
かっこいい、と思う作品がいくつもあった。
かっこ良すぎるんだよ、と一人、
ノートに鉛筆で(美術館に借りた)
毒づく。
それでも好みのノート(それがヘッダーの写真)、
目録と、ペンを買う。
日が暮れるのが遅くなったな、
と皇居で、またぼんやりとする。
「煙草とお酒はやめてくださいね」、
前回は、「ストレスがあるだろうから、
無理しないでください」だったのが、
今回は少し強めに言われた。
その日、僕は彼女と別れたあと、
ひとに吸いなよって、しかも断れない先輩から言われ、吸った。
3本だけ。
1日一箱を当座は目標にするつもりだ。
お酒は、やっぱり断れない場面でしか、呑まないつもりだ(最近、ちょっとだけ、荒れていたし)。
それから自炊について、彼女に教わったことを、
少しずつ、はじめた。
ずっと健康などに、興味がなかった。
肥満についてはともかく。
だけど、たった2回会っただけで、
あっという間に、僕の生活を変えたひと。
次に会える可能性はどうやらなさそうだけれど。
でも、また会える日を、どこか、楽しみにしてる。
だから、生きていくのは面白い。
もう、守る気のない約束をする年齢じゃないもんな。
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