少年たちの夏が終わる、初稿
公団住宅の一部屋から父親がまず出て行く。
ドアが閉まる音。
続けて母親がドアを開ける。
見送りに出る哲也。
「あんたも東京に行くんだから、きちんとしなさいよ」
うん、小さく頷く哲也。
母親がドアを閉める、音。
母親の足音に耳をそばだてる哲也。
小さくなっていく足音。
車が止まる音。
車のドアの開閉と発車する音。
音を出さないように気をつけながら、家の鍵を閉める哲也。
家の電話で話している哲也。
数十分後。
ベックのメロウゴールドがかかっている哲也の部屋に、チャイムの音が聞こえる。
慌しくノックする音。
ドアスコープを確認する哲也。それから鍵を開ける。
慎太郎 「なんだ、俺一番?早く来過ぎちった」
へらへらと笑いながら、手ぶらで中に入ってくる慎太郎。
再び慎重に鍵を閉める哲也。
居間に腰を下ろす慎太郎。煙草に火をつける。
嫌な顔をする哲也。それでも灰皿を出す。
慎太郎 「まだ吸ってないんか?」
哲也 「喘息出ちゃうからな」
吹かし煙草の慎太郎。
慎太郎 「これ見てみ?」
ジッポーの贋物。
片手でジッポーをジーンズにこすり付けて火をつけてみる慎太郎。三度繰り返す。
慎太郎 「先輩に教えて貰った」
さらに得意げに、
慎太郎 「匂いかいでみ?」
哲也が匂いをかぐと、嬉々として、
慎太郎 「香水入れてんだわ」
チャイムが鳴る。
慎太郎 「誰か来よった」
玄関まで行く哲也。
ドアスコープを覗く哲也。慎重にドアを開ける。
秦とまことがビニール袋を持って、入ってくる。
間にベックからメタリカに音楽が変わっている。慎太郎の仕業。
まこと 「酒、持ってきたぞ」
哲也の部屋から、怒鳴るように慎太郎 「早く呑もうや」
慎太郎、早速秦のビニール袋からビールを取り出して、蓋を開け、呑み始める。
居間に座る秦とまこと。
慎太郎は隣の哲也の部屋の勉強机の椅子に座る。
秦が煙草を吸い始める。深く一服。
まことは自分の持ってきたビニール袋からビールを取り出し、秦と哲也に渡す。
まこと自身の分も取り出して、蓋を開ける。
三人で乾杯。
慎太郎がどんどんCDを変えていく。
秦は無言でいる。
まこと 「ゆうやとたつやは?」
そこでチャイムが鳴る。
玄関に行く慎太郎。
慎太郎、乱暴にドアを開ける。
嫌そうに見る哲也。
ゆうや 「待たせたなあ」
ゆうやが入ってくる。
また乱暴にドアを閉める慎太郎。
慎太郎はまた哲也の勉強机の椅子に座り 「はや、髪切ってくれ」
笑いながら、ゆうや 「呑ませろや」
ゆうやは居間に座ると、まことからビールを受け取り、呑み始める。
秦とゆうやは視線を交わさない。
ゆうや 「ちょっと電話借りるな」
家の電話からダイヤルを回す。
まこと 「彼女おるやつはええなあ」
ゆうや、小さな声で話し始める。
チャイムが鳴る。
今度は急いで哲也が玄関に行く。
ドアスコープを確認して、慎重にドアを開ける哲也。
たつや 「待たせたか?」
哲也 「いまはじまったばっか」
たつや 「そうか」
慎重にドアを閉める哲也。
二人で居間に座る。
たつやは酒を呑まないので、コーラを秦に渡される。
ゆうやが電話を切る。
慎太郎 「はや髪切ってくれ」
ゆうやが仕方なさそうに髪すきバサミをバッグから取り出す。
哲也 「新聞くらい敷けや」
慎太郎 「かまわん、かまわん」
そのまま慎太郎は哲也の椅子に座って、勉強机の上の鏡をチェックする。
ゆうやが慎太郎の髪を切り始める。
まこと、ゆうやに 「親父さんの具合どう?」と聞く。
ゆうや 「相変わらず酒ばっか呑んでるわ」
一瞬の沈黙。
秦、話題を変えるために、たつやに 「さおりとはどうなった?」
たつや 「どうもこうもないけど、二人で会っとる」
まこと 「みんなええなあ」
ゆうやは慎太郎の髪を切っている。
たつやとまことは他愛ない話をしている。
たつや 「告りたいんだけどなあ」
慎太郎、鏡を気にしながら 「告れよ、今夜」
たつや 「いやー、なあ」
ゆうや 「やったもんがちだからな」
たつや、苦笑い。
ゆうや 「はい、終わり」慎太郎の肩を叩く。
地面に散らばる髪の毛を見て、哲也 「だから、新聞引けって言っただろ」掃除機を持ってきて、かけ始める。
慎太郎 「風呂はいるわ」
哲也 「やめろや」
無視して、慎太郎は風呂場に行く。
風呂場でも大きな音。嫌そうな哲也。
まこと 「酒、なくなったから買い出しに行くわ!」
秦 「俺も付き合う」
二人で出て行く。
ゆうやが哲也のアコギを弾き始める。ニルヴァーナのスメルズライクティーンスピリット。
おもむろに写るんですでゆうやを撮り始める哲也。
ゆうや 「写真か?なら」
脱ぎ出すゆうや。笑うたつやと哲也。
パンツ一枚になるゆうや。
写真を撮る哲也。
哲也がカメラをたつやに向けると、顔を隠すたつや。
ゆうや 「階段で撮ろうぜ」
二人は団地の階段に出る。
いくつものポーズをとってアコギとの写真を哲也に撮らせるゆうや。
秦とまことは夜道を歩いている。
まこと 「お前アタマええのに就職するんだって?」
秦 「まあな」
まこと 「なんでや?」
秦 「まあ…うちは母さんもあんなんだし、金もないしな」
まこと 「まだ具合悪いんか?」
秦 「ずっと引きこもってるわ」
まこと 「そうか、まあ、な、仕方ないわな」
秦 「まあ、な」
夜道を歩く、二人の背中。
哲也、ゆうやが写真撮影から戻ってくると、慎太郎が勝手にタオルを使って体を拭いている。
秦とまことも帰ってくる。
ゆうや 「AV持ってきたわ」
ゆうや、AVの再生を開始する。
慎太郎 「かわいくねえー」
慎太郎 「足短けぇ」
どっとみんなが笑う。
慎太郎 「ちょっとトイレ行って来るわ」とトイレに動き出す。
哲也 「お前、オナニーするだろ?」
慎太郎 「わりいか?」
哲也 「やめろよ、人んちで」
無理やりトイレに入り、鍵を閉める慎太郎。
何度かノックをして諦める哲也。
AVが流れる中、
たつや 「おれ、いつかこんなことできるんかな」
ゆうやはすでに酔っ払っている。
ゆうや 「できるわ、みんな」「ていうかいま告れ」「いま告れ」
たつや 「いやだよ、こんな環境で」
ゆうや 「すきだっていやあいちころだわ」
たつや、ちょっと、考えている。
AVが終わる。
たつや 「電話借りていいか?」
哲也 「ん、いいけど」
わっと沸くみんな。
たつや 「一人でかけたい」
ゆうや 「分かった、みんな隣いこう」
トイレにこもりっきりの慎太郎以外は、哲也の部屋で待機する。
たつやが電話をかけている。「やぶんすみません…」
隣の部屋でにたにたしながら、たつやを静かに見守るみんな。
たつや 「ありがとう、またね」
電話を切る。
みんなが居間に出てくる。
みんなに申し訳なさそうに、「だめだった」と呟くたつや。
慎太郎が戻ってくる。「どした?」「ああすっきりした」
まことが持ってきていたロケット花火に点火する。
するとロケットが部屋の様々なものにあたり、爆発する。
爆笑するみんな。
秦 「学校でやろうや、打ち上げもあるし」
みんながそれぞれに靴を履き、外に出て、学校に向かう。
慎重に鍵を閉め、何度も鍵がかかっているかを確かめる哲也。
みんなの背中を追っていく哲也。
学校。
花火を始める。
ロケット花火の打ち合いになる。
ふと、哲也 「あれ、たつやは?」
みんなたつやがいないことに気づく。
花火をやめ、あたりを見渡すみんな。
秦 「多分、分かるから、ちょっと行ってくる」
煙草を吸い始める、慎太郎とゆうや。
部室。
暗い部屋の片隅で震えるたつやを発見する秦。
何もいわず、横に座る。
しばらく無言で二人でいる。
たつやの震えが落ち着いてくる。
みんなが入ってくる。
みんな無言でいる。
たつや 「すまん、もう大丈夫やから」
慎太郎 「じゃあ打ち上げ花火上げようぜ」
みんなが出て行く。
哲也が一番最後に出て行く。部室の中を見渡して。
でっかい打ち上げ花火に火をつける慎太郎。
慎太郎 「十年後にもこうして花火しようや」
ゆうや 「約束だな」
慎太郎 「男のな」
慎太郎がベンチで酔っ払って寝始める。
哲也 「置いてこうぜ」
哲也、慎太郎の写真を撮る。
夜が白み始める。
ゆうやは 「じゃまたなー」といって、学校から街への道を左に、たつやとまことは右に。
秦は公衆電話から電話をかける。
しばらく哲也と秦はそこに二人でいる。
秦の母が車で迎えに来る。
お互いに 「じゃあな」
車が走り出す。見送る哲也。
哲也の家。潔癖的に掃除を開始する哲也。
換気したり、ごしごし風呂やトイレをこすりゴミ袋にゴミをつめる。
ゴミ捨て場に三袋出しに行く。
空が明るくなっている。
部屋に戻ると、写るんですをしばらく見つめ、自分の部屋の押入れのダンボールに入れる。東京、とダンボールに書いてある。
そして誰かが残していった煙草を一本くわえ、火をつける。
大きな一服。
*ひとこと。
これは長らく小説か脚本、物語を書きたいものの、書き始めの一行すら、あるいは書き始めても決して完成させることができなかった僕が、5、6年前に働いていた小売りの酒屋さんで出会い、いまもたまに遊んでいるアニメーターや漫画家に感化されて、書き終えた物語の初稿です。いま読み返すと、ことばの扱いが稚拙で、いろいろと書き直したくなるけれども、そして実際に書き直したものの、これ以降の原稿をなくし、そのアニメーターに渡した最終稿…脚本で仕上げたものも、彼が原稿の裏をメモがわりに使い笑、あげく何枚かををなくしていたので笑、とりあえずいまある初稿を改めて読んで、携帯に打ち直し、アップします。いろいろと直したかったけれど、直したのは、テツヤを哲也と漢字にしたこと、段落を数字で打っていたものを消したこと、それに二、三の漢字変換のミスと、途中の一行と最後に三行ほど入る、映像化のためのト書きだけにしました。いま読むと、粗しかない!笑。
この次に完成させたのは、初めての恋人とのことを小説にしましたが、それもデータ自体ないはず。
読んでくださった方がいらしたら、本当にありがとうございます。
ちゃんと、書いていきますので、よろしくお願いします。
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