入院雑記 vol.1 『結婚』
今日で入院して2ヶ月目に突入する。
精神状態は相変わらず、安定しない。
死にたい気持ちが、心の裏から見え隠れする。
わたしの心は、何故こんなにも忙しく
悲観し続けているのだろうか。
答えは、まだ見つかっていない。
昨夜は、なんだか眠りたくなくて、
インスタントのカフェラテを片手に、
病棟のデイルームで同じ患者たち同士で
話をしていた。
すると、入院して2日目のおばあさんから
あなた、美人ねぇ。と話しかけられた。
そんな、と首を振りながら、
「美人」と言われたことの照れなのか、
わたしは、慌てて持っていたカフェラテを
全部飲み干してしまった。
あなた、相手はいないの?
ーはい、そういう人いなくって。
まだ、若いんだから、これからよ。
ーいやいや...私なんか...。
きっと、すぐ相手が見つかるわよ。
ーはは....(沈黙)
その言葉はとても嬉しかったけど、
私は終始、苦い顔をしていたと思う。
笑顔を作ったつもりではいたけど、
口の端が思うように引っ張れず、
その会話は気まずい気持ちと一緒に、
別の話題へ流れていった。
おばあさんはずっと優しかったけど、
ずっと、お喋りだった。
わたしは、
ずっと聞き役に徹しなければならなかった。
話を聞いている間、
「早く終わらないかな」という不親切な気持ちを込めて、
空いたグラスカップを、私はいつまでも
両手で握りしめていた。
おばあさんの声を掻き消すように、
時計の針は、カチカチ、と時を早めていた。
消灯時間の10時を回った。
看護師が全病棟の電気をオフにする。
真っ暗な中、わたしは自分の病室に戻ると、
ベッドに倒れ込むようにして横になった。
そして仰向けになると、
病棟の天井のぽつぽつを見つめながら、
さっきのおばあさんの言葉を反芻した。
「きっと、すぐ相手が見つかるわよ。」
やっぱり、その言葉は、わたしの心を
複雑な気持ちでもどかしくさせた。
わたしはとっても極端な人間だと思う。
嬉しいことがあれば、すぐに
雲の上まで舞い上がってしまう。
私の周りには七色に輝く光の粒が現れ、
空には虹がかかる。出会う人すべてに、
あなたを愛している、と囁きたくなる。
逆に悲しいことがあれば、たちまち
わたしは深い谷底へと堕ちてしまう。
嵐が吹きあられ、冷たい雨が、
小さく体育座りする、私の身体に染み込む。
誰も味方はいないのだと、
何もかも遮断してしまいたくなる。
真ん中、中間地点はもちろん無い。
シーソーのように上下で感情が動くだけ。
それがわたしという極端な人間だ。
他人や物事にいちいち振り回されてしまう
わたしだからこそ、
わたしみたいなまともでない者を
好いてくれて、
なおかつ共に生きてくれる覚悟を
持つ人など、100年待っても、
現れる気がしないと、今日、改めて思った。
そう、私は精神病持ちの自分を恥じている。
結婚する未来なんて、
本当に遥か遠い気がしてならない。
自分が誰かと結婚して子どもを作るなんて日、来るのだろうか。
ましてや、わたしは
そばに居てくれる恋人ですら
見つからない、独身だっていうのに。
幸せになるイメージを頭に浮かべてみても、
それは靄がかかったように遠く、
長い間、輪郭を保つことができない。
しょせんは白馬の王子様なんて幻想、
ご都合主義の御伽話にしか登場しない。
だから一生、独り身でいることを
若いうちから察して、
将来の孤独を癒そうと、
いつかペットを持つことを夢見ている。
そんな自分が、
とてつもなく可哀想、不憫だと思う。
その反面、悲しい感情に自ら浸って、
被害者ぶって、薄幸のお姫様気分でいて
すかしてる自分はなんだか気持ち悪い。
でもどちらも私だ。
だいぶゴニョゴニョとしていて、
どっちみち気持ち悪い。
希望ある未来を描けるはずなのに、
悲観して早々に諦めている自分のことを、
年老いて、本当に独りきりになった自分が
見たら、どう思うのだろう。
きっと後悔しかないし、
もっと素直になればと思うんじゃないかな。
でも今のわたしにとって、
「結婚」という2文字は、
あまりにも非現実で、他人事のように思える。
「まだ若いからこそ、
気にしなくていいのだ。」
この特権を、今だからこそ、平気ぶって、
いずれ本気で悲しくなるまで、
希望的観測を持って、味わうことにする。
悲しいけど。
もし今後、
お付き合いする未来の人が現れるのなら、
わたしは孤独を癒すために
猫を飼う必要があるので、
猫アレルギーでない人がいい。
そして、できればイケメンで、
頼れて、
懐が深くて、
細くて、
身長は180センチ以上あって、
仕事ができて、
もちろん独身で....。
知ってる。欲張りすぎ。
以上、入院雑記。