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【SS】小さな小さな恋でした(2011/05/16)
ほんまにちぃーさい頃の話でな、今じゃ顔も覚えておらんのですわ。せやけどうちの初恋は、やっぱりあん時やったと今も思うとりやす――
うちは毎日、あの場所さ行くのが楽しみやったんどす。
毎日毎日、飽きもせんと、暇さえあればあの場所へ行って、仲ようしとった子らと遊びながら……ずーーっとほんまは、あの人が来てくれはるのを待っとったんどす。
あの人はな、いーっつもにこにこ笑うてばかりおる人で、甘いもんが大好きでよ。何度か甘味屋で見かけたことがあったのやけど、声さかけたうちに、自分の好きな団子やのに分けてくれはって……ほんまに優しい人だったんどす――
「あっ!お兄ちゃん!」
「こんにちは、小梅ちゃん」
「おおきにぃ。お兄ちゃん元気にしてはったん?ちっともきーひんから、みんなでよう心配しとってん!」
「そうだね、久しぶりだよね。忙しかったけど僕は元気だよ、ありがとう小梅ちゃん」
「お礼なんてええよぉ。ほんま、おとなは大変やなぁ~」
「はははっ……あれ?他のみんなはどこにいるの?」
「今日はうち一人やねん」
「そうなの?それは退屈だったね……何して遊ぼうか?」
「鬼ごっこしようや!…あ、やっぱりままごとがええわ!!今日はみんなおらんしっ」
「ま、飯事かぁ……確かに男の子ばかりじゃ、なかなか出来ない遊びだね」
お兄ちゃんは、複雑そうに笑うてて、せやけどすぐうちに付き合うて、おとんの役、やってくれはったん。
うちはおかんの真似して「父ちゃん、今日はええ天気やなぁ」って、葉っぱのお皿に石の団子をぎょうさん盛って、お兄ちゃんにあげてん。お兄ちゃんは団子が好きやから、にこにこ笑うててな「小梅は気の効く良い嫁だな」って褒めてくれたんや。
嬉しくて、そのあとずっとうちばっか話しよってんけど、お兄ちゃんはずーっうと笑うて聞いててくれはったんよ。
でもな? なんでやろか……今日のお兄ちゃんは、なーんか感じが違いよるなぁて思うてん。
どっかで鈴の音さ響いてよ、うちが「なんやろう?猫かな?」言うたら、お兄ちゃんがえらい嬉しそうな顔でな「小梅ちゃん、今日はこの辺で終わりにしようか」って言うねん。うち、ほんまはもっと遊びたかってんけど、お兄ちゃん困らすのもいややから、ええよって答えたん。
「お兄ちゃん、またうちと遊んでやー?」
「うん、また今度ね」
「ほんならうちもう帰るわ。うちとの約束、お兄ちゃん忘れんといてやー」
ほんまは知ってたんや、うち。お兄ちゃんがだれかを待ってるの、気付いてたん……
せやから階段に向こうて走りよってからに、そーろと後ろを振り返ったんや。
お兄ちゃん、うちの知らん、背ぇの高いお姉ちゃんと話ししよってん。なんだかうち、それ見てたらな、ちょっとだけやけど……えずくろしいなぁて、思うたんや。
――せやから今も、よう覚えとりやす。
あん時のあの人は、今までで一番の笑顔やったと……表情は思い出せんかて、そのことだけはずーっと今も忘れらんと、心に残っておるんどす―――
* * *
「……桜子さん!」
「浜田さん……こんにちは」
「散策ですか?」
「はい。お寺探しも兼ねてますけど、道を覚えたくて……探検してました」「一人で探検だなんて、相変わらず不用心ですねぇ……僕がお供しても構いませんか」
「勿論です。浜田さんに付いててもらえたら心強いです……けど、ふふっ。本当は甘味屋さんが目当てなんでしょう?」
「ああ、ばれました?」
「バレバレですよ、そんな嬉しそうな顔してたら……」
「ははっ、そうですか……困ったなぁ。では先ずはこの辺りを巡って寺探しをし、そのあと甘味処で一休みしましょう。ね?」
「そうですね、案内よろしくお願いします」
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