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没にしたシューティングゲーム企画と、没にした理由について

 この記事は、Unityゲーム開発者ギルド Advent Calendar 2021 12月5日の記事です。

 さて、世の中には数々のインディーゲームが出回っています。その一方で完成に至らなかったゲームもたくさんあります。

 開発を開始したけれども、途中で挫折したもの。企画段階で問題が見つかって断念したもの。

 公の場で開発中止が告知されるのは、主に前者の「開発を開始したけれども、途中で挫折したもの」でしょう。

 一方で「企画段階で問題が見つかって断念したもの」は公開する前に問題が発覚しているので、公の場に出ることはあまりないと思います。

 そこで今回は、普段公の場に出ることはない「企画段階で問題が見つかって断念したもの」とはどんな企画なのか、実際に検討した企画をあげ、断念した理由を説明いたします。

1.没にした企画とは?

 まずは、没にした企画の概要から説明します。没にした企画はデッキ構築縦シューティングゲームです。内容は下記のような内容です。

・ステージを攻略すると敵カードが手に入る
・敵カードを集め、デッキを組み立てると、カードに描かれた敵の登場するオリジナルステージができあがる
・作成したオリジナルステージでスコアアタックを行い、他のプレイヤーとハイスコアを競う

 少しわかりにくいので、詳しく説明します。
(スクショは過去の自作ゲーなどから適当に見繕ったものです)

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 1.シューティングをクリアします

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2.スコアランキングが更新されます

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3.敵のカードが手に入ります

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4.高得点を狙えるようデッキ(ステージ)を組み立てます

 このサイクルを繰り返して、ハイスコアを競うのです。どの組み合わせが一番スコアを取れるのか考えデッキを組み立てます。けれども、高得点を取れるステージほど理不尽に難しくなるので、どこで妥協するのか試行錯誤するのが面白い。そんなゲームを考えていました。

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ゲームサイクル

 しかし、このゲームは開発に入らず断念しました。

 なぜなのでしょう?

2.企画の良いと思ったところ

 ……と、断念した理由を述べる前に、まずは企画の良いと思ったところをあげてみます。

 2-1.新鮮さがある
 「自機を強化していくゲームではなく、敵を強化していくゲームである
 「スコアアタックを目指すシューティングであるのだから敵を強化していくことにも理不尽さはない
 こういったところは新鮮に思えました。少なくとも今まで僕が見てきたゲームの中でこの手のゲームを目にしたことはありませんでした。

 2-2.デッキ構築の試行錯誤が面白そう
 このゲーム、自分で遊ぶのも面白そうだと思いました。ハイスコアの理論値は計算すれば求めることはできると思います。しかし、理論値を求めたからといって、クリアできる難易度であるかはわかりません。

 つまり、理論上最高得点を目指せる難易度SSSランクのステージよりも、そこそこの得点を目指せる難易度Aランクのステージの方がハイスコアを取れることだってありえます。

 また、人によって得意な敵の組み合わせ、不得意な敵の組み合わせもあるでしょう。

 このように攻略デッキが一つに定まらず、各々で試行錯誤ができるゲームに仕上げられれば面白くなる、と考えていました。

 ◆ ◆ ◆

 さて、いかがでしょうか?

 これ面白そうだな! 遊んでみたいな! このシステム他のジャンルにも応用できそうだな!

 とか思っていただけたら嬉しいです。

 また……

 この企画ダメじゃないか?

 と思い、理由もあげられる方は僕と感覚が似ているのかもしれません。

 これから僕は企画を没にした理由を述べていきますが、感覚が似ているという言葉を使ったのは理由があります。その理由は後で説明します。

3.企画を没にした理由

 没にした理由は複数あります。大きな理由から順にあげていきましょう。
(ネガティブな内容が並びますが、4.まとめでフォローしますので安心してご覧ください)

 3-1.デッキ構築中、シューティングが中断される
 なにを当たり前なことを……と思われるかもしれませんが、一番の理由がこれです。

 いやいや、カードゲームだってデッキ構築するじゃないですか、と思われるかもしれません。しかし、カードゲームを楽しむ人はデッキ構築があることも前提にカードゲームを購入すると思います。

 けれども、シューティングゲームを楽しむ人がこのゲームを手にした時、どのように感じるでしょうか?

 シューティングゲームを楽しみたいのに、楽しむにはデッキ構築が必要。デッキを組み立てるためにシューティングを中断しなければならない……

 「純粋にシューティングゲームを楽しめるゲームじゃないのか」と感じるのではないでしょうか? ここは大きな問題だな、と考えています。


 3-2.ターゲット層がとても狭い
 このゲームを楽しめる人はどのような人でしょうか?

 まずはシューティングゲームが好きな人で、インディーゲームのシューティングにも目がいくほどには、シューティングゲームの情報を漁っている人。

 次にハイスコアを狙うためにシューティングを繰り返しプレイする人。

 そして、自身でデッキを構築できて、その試行錯誤を楽しめる人。

 図で表すとこんな感じです。

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想定ターゲット層

 青い円と濃いオレンジ色の円の重なる層がターゲット層です。

 狭い……

 よく「インディーゲームは自分の作りたいゲームを信じ、貫き通すのが大事」といったような話を耳にします。

 もちろん、この企画を自分で信じられるなら良いのですが、僕は想定ターゲットを考えた際に「この企画を信じて開発を開始するのは難しい」と思ったのです。

 ゲーム開発のモチベーションは人それぞれですが、僕は「ゲーム完成を心待ちにしているプレイヤーさんがどれだけいるか」がモチベーションに影響します。

 ですから、ターゲット層の狭さは企画を没にする理由としては大きな理由でした。


 3-3.一言でゲームを説明できていない
 
この理由も大きいです。
「このゲーム一体どういうゲームなの?」と聞かれた時、先ほどの説明では……

 ステージを攻略すると敵カードが手に入る。
 敵カードを集め、デッキを組み立てると、オリジナルステージができあがる。
 作成したオリジナルステージでスコアアタックを行い、他のプレイヤーとハイスコアを競う。

 と説明したのですが、苦しいなぁ……と思いました。

 なぜなら、ブレにくい企画というのは一言でどういうゲームか説明できるからです。

 さらに「このゲームどこが面白いの?」と聞かれたらどうでしょう?

 デッキ構築の試行錯誤が面白い

 と答えるのでしょうか……?

 それはシューティングの面白さとは無関係ですよね……では、たとえばこう書いたら……?

 デッキ構築でシューティングゲームのステージを作れる体験が面白い……

 やっぱりしっくりきません。何がしっくりこないかというと、シューティングゲームの面白さとは無関係なんですよね。


 3-4.シューティングゲームとは無関係な面白さ
 企画の良いと思ったところで「デッキ構築の試行錯誤を楽しめる」と述べましたが、実はシューティングゲームの楽しさについては一言も述べていません。

 ここは慎重に検討していかないと企画がブレるポイントだと思っています。

 3-4-1.シューティングゲームに特別なシステムを入れない場合

 このゲームのシューティングは面白いのか? という懸念が出てきます。プロモーションの時に、シューティングゲームのプレイ動画だけ映していると、特に特徴のないシューティングゲームに見えてしまう懸念もあります。

 3-4-2.シューティングゲームに特別なシステムを採用する場合

 シューティングゲームに特殊なシステムを採用しても良いですが、その場合は企画のアピールポイントがブレてしまいます。アピールポイントがブレてしまうと、このゲームの面白さを一言で説明できなくなります。

 それの何が問題かというと、将来的にシューティングゲームのシステムが一番強いアピールポイントになった時、デッキ構築システムが邪魔になりカットする結果になりうるのが問題なのです。

 元々考えていたシステムやコンセプト、世界観というのは少なからずデッキ構築システムを前提として検討されてきたものです。そのような土台を崩してゲームを作り続けた場合、もはや当初の企画とはまったく異なった企画になります。すると企画はブレはじめ迷走していきます……迷走が続くと開発コストも跳ね上がります……


 3-5.その他の没理由

 大きな理由は概ね説明できたのであとは細かな理由を述べます。

 3-5-1.ゲームの目的に気づきにくい

 このゲーム、ハイスコアを取ることが目的ですが、うまく誘導しないとハイスコアを取るゲームということに気づかない可能性があります。

 ただしそこは「ハイスコアランキングで好成績をおさめたらご褒美が得られる」という風に誘導できれば解決しそうな問題ではあります。

 3-5-2.繰り返し遊ぶのは苦行になるのではないか?

 このゲーム、

 ・攻略パターンを構築するという遊び
 ・高得点を狙えるステージを作るためにデッキを構築する遊び

 という、2つの遊びが存在します。

 そして、ステージ後半に出てくる敵を1~2体変えただけでスコアアタックをしなおすのは苦痛ではないか? と思ったのでした。

 少なくともスコアアタックをするモードとは別に、ステージの一部だけ遊べるテストプレイモードみたいなモードは必要でしょうね。

 3-5-3.大してステージは変わらない
 そして大して感情も揺らがない……

 このゲームは数回ステージを作成したあとは、それほどステージの変化が見られなくなっていくのではないかと予想しております。

 なぜなら主目的が面白ステージを作るのが目的ではなく、ハイスコアを目指すのが目的なためです。

 ハイスコアを獲得するために一部の敵を高得点の敵へ入れ替えるといった行為って、結果も予想できる分、ドキドキもワクワクも薄いのではないでしょうか?

 一方、主目的が面白ステージを作るのが目的であれば、そもそも企画自体が異なる企画になります。

4.まとめ

 さて、没の理由は他にもあると思いますが、このくらいにしておきます。

 このように世の中には、検討したけれども企画段階で問題が見つかって断念した企画というのは多々あるのです。

 そして、そういう企画は表に出ることもなく消えていきます……

 けれども、消えていく企画についても、こうして記事にすると学びがあるのではないでしょうか?

 複数の遊びを合わせると、一見、面白そうで新鮮な企画に見えるものです。

 しかし、実際に形にしていくのは難しい。ターゲット層が狭まったり、一言で言い表せない企画になったりし、開発中に迷走していく企画になりがちです。

 けれども、この企画がダメというワケではありません。

 没にあげた理由について、制作者が制作を開始できる納得いく理由を見つける。もしくは、納得いく仕様を考える、といったことができれば、完成までたどりつけるかもしれません。そして、あわよくば、他にない面白いゲームに仕上げられるかもしれません。

 実際、複数の遊びを組み合わせて、これまでにないゲームに仕上げているゲームはたくさんあります。

 たとえば、最近僕が遊んだ、Inscriptionというゲームはカードゲームと脱出ゲームを見事に融合させています。一言で「ホラー要素のあるカードゲームである」と言い表すことにも成功しています。少なくとも僕は「ホラー要素(サイコロジカルホラー)のあるカードゲーム」と聞いて興味を持ち購入しました。

 ターゲット層についても比較しましょう。

 今回僕が没にした企画は、アクション要素の高いシューティングゲーム+スコアアタックと、アクション要素のないデッキ構築といった組み合わせでした。ターゲット層が離れているため、ターゲット層が狭いと感じました。

 一方、Inscriptionはカードゲームと脱出ゲームの組み合わせです。共にアクション要素のない、頭を使うジャンルなのでターゲット層は近いと思います。

 ホラー要素がある点についても、相乗効果(シナジー)が期待できます。カードゲームはダークな世界観のゲームが多いためです。

 このような説明をすると、アクション要素の高い遊びとアクション要素のない遊びの組み合わせは成立しないように思われるかもしれません。しかし、そのようなことは決してありません。

 もう一つ複数の遊びの合わさった素晴らしいゲームの例をあげましょう。

 それはUnderDevelopmentというゲームです。

 このゲームは紹介文に書かれているように「開発中のゲームを完成させる、ゲームエンジン風パズルゲーム」です。このように一言で内容を説明できていますし、尚且つ、gif画像を見れば、アクションゲームを弄って完成させるゲームであることもわかります。

 アクション要素の高いアクションゲームとアクション要素のないパズル。相反するジャンルに思えます。この組み合わせを違和感なく融合する……それを可能にしているのが、「ゲームエンジン風」というモチーフ(表現のテーマ)です。

 以上、複数の遊びを組み合わせて、新しい遊びを作っているゲームの例でした。

 いかがでしょう? 

 ここまでの話を聞いて、こう思いませんか?

 ゲーム企画は、複雑なジグソーパズルを解く行為に似ていると。

 コンセプト、ターゲット層、世界観、モチーフ、システム、etc……それらが見事に噛み合うようピースを当てはめていくのです。世に出ている名作と呼ばれるゲームはアイデアだけでなく、世界観やモチーフ、システムなんかが、この組み合わせしかないよね! というくらいガッチリと噛み合わさっているのです。

 僕が没にした企画についても、最後までこのジグソーパズルを解き切れば、新鮮味のある、試行錯誤の楽しめるゲームが出来上がるかもしれません。

 そうです、企画に正解も不正解もないのです。

 『2.企画の良いと思ったところ』で、「この企画ダメじゃないか? と思い、理由も上げられる方は正解です」と言わずに「僕と感覚が似ているのかもしれません」と言った理由はそこにありました。

 いかがでしたでしょうか?

 僕はゲーム制作者としては、まだまだ失敗の多い、スライムも倒せない村人レベルの未熟者なので、説得力に欠けるところも多々あるかもしれません。それでも、この記事を最後まで読み、スキと言ってくれる人が一人でもいましたら嬉しいです。

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