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【じゆうけんきゅう】なぜさいたま市の学習支援事業が「随意契約」から「一般競争入札」へと入札方式が変更されたのか

はじめに

さいたま市の学習支援事業が委託事業者の変更によって授業の実施が遅れている、というニュースがSNSで回ってきました。無料塾の運営に携わっていた者としては、どうしても気になってしまうニュースです(どちらも有料記事で冒頭しか読めないのですが…)。

なぜこんなことになったんでしょう?

本けんきゅうは、このさいたま市の学習支援事業がなぜ「随意契約」から「一般競争入札」へと入札方式が変更されたのか、そのことによって事業の開始が遅れるに至ってしまったのかを公開されている情報をベースに「妄想」を繰り広げたものです。繰り返します。妄想です。

以下のようなお献立でお送りします。

【献立】
はじめに
1.「さいたま市生活困窮者学習支援業務」ってなに
2.さいたま市長定例記者会見でのやりとり
3.法令上の「随意契約」の扱い
4.これまで随意契約ができていた理由
5.なぜ「一般競争入札」に
おわりに

1.「さいたま市生活困窮者学習支援業務」ってなに

この学習支援事業の契約時の正式な業務の名称は「さいたま市生活困窮者学習支援業務」です。同業務は予算上、「生活困窮者自立支援事業」の中の「学習支援事業」として 76,571千円(7657万1千円)計上されており、「『貧困の連鎖』を防止するため、生活困窮世帯の中学生等を対象に、学習支援教室の開催、進路相談の実施などの支援を行います。」と説明されています(1つ目のリンクp.163)。平成24年度から続く長い事業のようです(平成24年度当初予算資料には平成23年度予算にも428千円計上されていたと記載がありましたが、平成23年度予算に具体的な項目もなく、少額であることから、他の予算の一部として執行されていた事業なのではないかなと思います。(2つ目のリンク p.147))。

平成31年度予算の「さいたま市生活困窮者学習支援業務」は、平成31年2月13日に一般競争入札として告示、3月14日に入札、同日に開札・落札者決定、4月1日に契約といった流れだったようです(下記リンク「さいたま市契約公報第3号 平成31年2月15日発行 」p.47~50)。

落札者は現時点でまだ公表されていないようですが、これまでずっと請け負っていた「NPO法人 さいたまユースサポートネット」ではなく、「全国で学習塾などを展開されている株式会社」(平成31年4月11日(木)さいたま市長定例記者会見中の毎日新聞記者の発言より)が落札したようです。ここで「ズレ」が生じてしまったわけですね。

2.さいたま市長定例記者会見でのやりとり

以下、4月11日(木)の市長定例記者会見のやりとりです。この時点で市長はあまり本件について詳細をご存じでなかったようです。正直なところ、入札方式や落札事業者について市長が把握しているというのは、なかなか難しいところだと思います。

〇平成31年4月11日(木)さいたま市長定例記者会見(p.14-17 抜粋)
〇毎日新聞 毎日新聞と申します。
 さいたま市の学習支援事業に関することで質問をさせていただきたいと
思います。さいたま市の学習支援事業は、市内のユースサポートネットさん
が受託されてきて、これまで8年間さいたま市と一緒に学習の支援にとどま
らず、家庭訪問を行ったり、民生委員さんたちと協力した地域づくりを行う
など、全国でも先駆的な取り組みを進めてこられたと思います。市長にとっ
ても大切な事業として、市長も考えられているのではないかと私も認識して
おりました。
 今回、新年度からの受託業者さんが変更になりましたが、その点は市長は
ご存じだったんでしょうか

〇市長 その結果等については、つい最近まで存じ上げておりませんでしたけれども、つい最近知りました
〇毎日新聞 選定方法が、今までのプロポーザル方式や随意契約などから一般競争入札に今年、急にといいますか、2月の告示で変更が発表されましたが、その変更自体もご存じなかったということでしょうか
〇市長 細かい経緯については理解しておりません
〇毎日新聞 今回一般競争入札が行われた結果、全国で学習塾などを展開されている株式会社さんが落札されたということなんですけれども、今回の、特にその株式会社さんがいけないとか、ユースさんがいいとか、そういう観点で申し上げているのではなくて、この学習支援事業というものの特殊性ですね、子供たちとの信頼関係を築いてきて、そして信頼関係の上で学習支援が成り立つという性質を考えたときに、この学習支援、この事業を企画が考慮されるプロポーザル方式ではなく、価格、ほぼ一定の要件は設定されているにしても、価格で落札業者を決めるという方法に変更したということに関しては、市長はどのようにお考えでしょうか
〇市長 ちょっと私自身も状況が十分把握できておりませんので、今この場ではコメントは控えさせていただきたいと思います。また後ほどコメントをお返ししたいと思います。
〇毎日新聞 ちょっと続けてですが、そうするとこの学習支援事業は、私が申し上げるまでもなく、市長は十分ご理解されていると思うんですけれども、子供たち、生活困窮家庭の子供たちというのは、虐待などが背景にあって、大人が信頼できないという子供たちが非常に多くて、その中で学習支援教室の先生たちが子供との信頼関係を、家庭訪問をして外に出られない子と1日1日積み重ねながら支援を重ねて、長い期間をかけて信頼関係を築いてきて、その上で成り立っております。
 こうした変更、質が担保されない形、今回余り引き継ぎなどの面でも、
2月に選定方法の変更が告示されて、3月の中旬に選定業者が決まるという
ことで、教室閉鎖まで2週間しかないということで、特に引き継ぎなどを行
う時間もないし、引き継げるような情報でもない
と思うのです。子供たちの
個人情報にかかわるものですし、信頼関係の中で得てきた情報を全く新しい
団体さんに引き継ぐということは、非常に難しいのではないか
と思うのですけれども、この点についてどのように今後質を担保されていくのかというこ
とについてもお伺いしたい
と思います。
〇市長 いずれにしましても、前に担当していただいたところと、新しくやっていただくところの引き継ぎであったり、あるいは情報共有であったり、そういったものについてはしっかりしていただいて、できるだけ子供たちに影響がないような形で取り組んでいきたいと思っております。
〇毎日新聞 ちょっと重なってしまうんですけれども、非常に引き継ぎも、個人情報が含まれるので、簡単にはいかないかと思うんですけれども、ある意味今まで家庭に居場所がない、学校に居場所がない子供たちにとって、学習支援教室ってある意味そこしか居場所がなくて、命綱のような側面が持っていると思うんですね。そこが、子供の側からしたら突然断ち切られたという状況で、非常にショックを受けているお子さんたちも多いと思います。
特に市として学習支援事業に対して、何か方針の変更があったというわけ
ではないですか
。今回の決定は、市長がご存じないということなので、特に
方針が変更されたとか、そういうことではないのですね。
〇市長 その辺については、十分承知しておりませんので、後ほどお答えを返したいと思います。
〇毎日新聞 わかりました。
 では、非常に動揺している子供たちも多いと思うんです。まだ、恐らく新
しい教室スタートしていないかと思うんですけれども、動揺している子供た
ちに対して、市として今後どういうふうに子供たちの学習支援事業に取り組
んでいくのかということについて、市長の姿勢をお話しいただければと思い
ます。
〇市長 もちろん今お話のあったとおり、ただ学力を上げるということだけではなくて、もう少し幅広い分野から子供たちとのコミュニケーションを樹立させながら、そしてあわせて学習の状況を向上させていくということが必要だと認識をしておりますので、私たちとしても、そうした子供たちをしっかりと受けとめて、学力を向上させ、そして高校への進学であるとか、あるいは将来にしっかりとつなげていきたいと考えております。
 さいたま市は、基本的には、教育活動については教育委員会で行っており
ますけれども、やはりいろんな環境にある子供たちがおります。その子供たち、全ての子供たちを私たちは夢と希望をしっかりと持ってもらい、そして
それを実現するために知力、それから体力、それからコミュニケーション力、そして徳力といいますか、そういったものをしっかりと、この4つの力を身につけて社会に送り出していくというのが、私たちの大きな役割だと思っています。
 引き続き、そういった子供たちにしっかりとサポートできるようにしてい
きたいと思っております。
〇毎日新聞 ありがとうございます。
 そうしますと、今までの方針から市長のお考えは変更ないと。
〇市長 ええ。基本的な考え方については、変わっているものではないと考えております。
〇毎日新聞 業者の選定方法1年単位の契約なんですけれども、今後質の担保の観点から見て、今回非常に動揺とか影響が大きかったわけですけれども、特に直前になってからの変更で、準備がなかなかとれなかったということもあって、今後選定方法について見直されたりするお考えはありますか
〇市長 いずれにしても、今年度の状況を十分に踏まえながら、検討していきたいと思います。
https://www.city.saitama.jp/006/003/003/010/011/p064701_d/fil/kisyakaikenkiroku0411.pdf

続いて、4月26日(金)の市長定例記者会見のやりとりです。学習支援を受けている児童及びその保護者に対する謝罪はありますが、なぜ入札方式が変更になったかは分からずじまいですね。

〇平成31年4月26日(金)さいたま市長定例記者会見(32:00~37:30 抜粋)
〇毎日新聞 毎日新聞の山寺と申します。よろしくお願いいたします。
 前回の会見でも伺ったんですけども、さいたま市の生活困窮世帯のお子さん向けの学習支援事業が業者さんの急な変更によってですね、ちょっと混乱が生じていることということで、前回の会見では市長が詳細を把握されていないということだったんですけども、今回、教室の開始時期が5月の連休明けにずれ込むという事態になっておりますこれについて、市長の受け止めと今後の対応についてお聞かせください
〇市長 まず、このさいたま市における学習支援事業については、学業や進学の環境が十分でない生活困窮世帯の子供たちが成長し、そのことによって、大人になっても、就労等の自立が困難にならない、再び生活が困窮しないようにと、その連鎖を防止するという意味で、これまで、まさに全国に先駆けてさいたま市としては取り組んできた事業であります。生徒が卒業進学するために必要な基礎的な学力をしっかりと身につけることであったり、あるいはこの学習習慣の定着をしていただくことであったり、社会的に孤立をしないように、良好な人間関係を構築していくための居場所作り支援なども含めた事業だというふうに認識をしておりまして、さいたま市にとってもこれまでも大変重要な事業として進めてきたものであります。
 それが今回の新たな契約方式によって、非常に混乱をしたという状況がございました。これについては、子供たち、こちらに来ていただいてるお子様や、あるいは送り出していただいている保護者の皆様方にも、大変ご心配とご迷惑をおかけをしたというふうに思っております。心からお詫びを申し上げたいというふうに思います。
 また特に受験にとっては、この4月あるいは5月というのは大変重要な時期だろうというふうに認識をしております。こういった時期に、こういった混乱を招いたということは本当に申し訳ない思いでいっぱいであります。
 今後ですね、いずれにしても、速やかにこういった事業が行われるように、また事業がですね、本来の目的に沿ってしっかりとですね、行われるように、私たちとしてもしっかりとフォローアップをしていきたいというふうに考えております。
〇毎日新聞 ありがとうございます。
 すいません、もう一点、今回ですね、契約方式が今までは随意契約かプロポーザルだったものが一般競争入札に変更になって業者が変更になったという点と、それとですね、新年度のスタートまで2週間しか時間がないという中で、かはり端から見ていても11教室、今年から13になりますが、ある中で、このスケジュールで先生も総入れ替えするというのは無理なスケジュールであったのは目に見えていることなんですけれども、今後こういったことが起こらないような対応としての入札の時期ですとか、方法について、何か今後、検討されるようなご予定はありますか
〇市長 今の記者さんからもご指摘のあった通りですね、やはり、おそらく、もしこのままこういった形の入札制度でやるとすればですね。なんというんですかね。3月が終わった、3月の予算が通ったタイミングでやられているんだろうと思いますが、そのときにあって、それで新たにその準備を踏まえて教室が始まってくるということを考えると、先ほど申し上げた通りこの4月、5月というのは子供たちにとっても大変大切な時期だろうというふうに私たちも考えておりますので、その時期は本当に、この今の、この時期でいいのかどうか、あるいはその入札方法についてもこれで本当によかったのかどうかっていうことも含めて、今後、これからいろいろ検証しながらですね。検討していかなくちゃいけないなというふうに思っております。
〇毎日新聞 ありがとうございます。
 すいません。最後の入札方法が本当に良かったのかっていうのは、この事業の性質上、一般競争入札が適切だったかという意味で捉えてよろしいですか
〇市長 そういったことも含めてやることになると思います。
〇毎日新聞 事業の内容、企画内容を問わない方式でよかったのかっていうことですか
〇市長 要するに本来の事業の趣旨に照らして適切だった、より適切な方法だったのかということについては、今後の動向等も含めてですね、しっかりと検証し、そして検討していくべきものだと思ってます。
〇毎日新聞 わかりました。現段階ではまだ適切だったかどうかの判断っていうのは今後を見てからということで。
〇市長 そうですね。
https://vdg.jp/2Ehk-DXR6aGq/
※現時点で記者会見記録が掲載されていないので、録画映像から文字起こし。記者会見記録が掲載されたら差し替えようと思います。

3.法令上の「随意契約」の扱い

地方自治法では、地方自治体の契約の方式について第234条第1項で「一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする」とされていますが、基本的には一般競争入札で行うこととされており、最低価格によらない随意契約は地方自治法施行令第167条の2で定める条件に該当する場合のみ行うことができるとされています。第1号から第9号までありますが、簡単に言うと①少額の契約、②その性質又は目的が競争入札に適しない契約をするとき、③特定の施設等から物品を買入れ又は役務の提供を受ける契約をするとき、④新規事業分野の開拓事業者からの新商品の買入契約をするとき、⑤緊急の必要によるもの、⑥競争入札に付することが不利なもの、⑦時価に比して著しく有利な価格で契約ができるもの、⑧競争入札に付し入札者又は落札者がないとき又は⑨落札者が契約を締結しないときに限定されています。

〇地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
(契約の締結)
第二百三十四条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする
2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる
3~6 (略)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000067

〇地方自治法施行令(昭和二十二年政令第十六号)
(随意契約)
第百六十七条の二 地方自治法第二百三十四条第二項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする
 一 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(貸借の契約にあつては、予定賃貸借料の年額又は総額)別表第五上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき
 二 不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき
 三 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)第五条第十一項に規定する障害者支援施設(以下この号において「障害者支援施設」という。)同条第二十七項に規定する地域活動支援センター(以下この号において「地域活動支援センター」という。)同条第一項に規定する障害福祉サービス事業(同条第七項に規定する生活介護、同条第十三項に規定する就労移行支援又は同条第十四項に規定する就労継続支援を行う事業に限る。以下この号において「障害福祉サービス事業」という。)を行う施設若しくは小規模作業所(障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第二条第一号に規定する障害者の地域社会における作業活動の場として同法第十八条第三項の規定により必要な費用の助成を受けている施設をいう。以下この号において同じ。)若しくはこれらに準ずる者として総務省令で定めるところにより普通地方公共団体の長の認定を受けた者若しくは生活困窮者自立支援法(平成二十五年法律第百五号)第十六条第三項に規定する認定生活困窮者就労訓練事業(以下この号において「認定生活困窮者就労訓練事業」という。)を行う施設でその施設に使用される者が主として同法第三条第一項に規定する生活困窮者(以下この号において「生活困窮者」という。)であるもの(当該施設において製作された物品を買い入れることが生活困窮者の自立の促進に資することにつき総務省令で定めるところにより普通地方公共団体の長の認定を受けたものに限る。)(以下この号において「障害者支援施設等」という。)において製作された物品を当該障害者支援施設等から普通地方公共団体の規則で定める手続により買い入れる契約、障害者支援施設、地域活動支援センター、障害福祉サービス事業を行う施設、小規模作業所、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和四十六年法律第六十八号)第三十七条第一項に規定するシルバー人材センター連合若しくは同条第二項に規定するシルバー人材センター若しくはこれらに準ずる者として総務省令で定めるところにより普通地方公共団体の長の認定を受けた者から普通地方公共団体の規則で定める手続により役務の提供を受ける契約、母子及び父子並びに寡婦福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)第六条第六項に規定する母子・父子福祉団体若しくはこれに準ずる者として総務省令で定めるところにより普通地方公共団体の長の認定を受けた者(以下この号において「母子・父子福祉団体等」という。)が行う事業でその事業に使用される者が主として同項に規定する配偶者のない者で現に児童を扶養しているもの及び同条第四項に規定する寡婦であるものに係る役務の提供を当該母子・父子福祉団体等から普通地方公共団体の規則で定める手続により受ける契約又は認定生活困窮者就労訓練事業を行う施設(当該施設から役務の提供を受けることが生活困窮者の自立の促進に資することにつき総務省令で定めるところにより普通地方公共団体の長の認定を受けたものに限る。)が行う事業でその事業に使用される者が主として生活困窮者であるものに係る役務の提供を当該施設から普通地方公共団体の規則で定める手続により受ける契約をするとき
 四 新商品の生産により新たな事業分野の開拓を図る者として総務省令で定めるところにより普通地方公共団体の長の認定を受けた者が新商品として生産する物品を当該認定を受けた者から普通地方公共団体の規則で定める手続により買い入れ若しくは借り入れる契約又は新役務の提供により新たな事業分野の開拓を図る者として総務省令で定めるところにより普通地方公共団体の長の認定を受けた者から普通地方公共団体の規則で定める手続により新役務の提供を受ける契約をするとき
 五 緊急の必要により競争入札に付することができないとき
 六 競争入札に付することが不利と認められるとき
 七 時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき
 八 競争入札に付し入札者がないとき、又は再度の入札に付し落札者がないとき
 九 落札者が契約を締結しないとき
2~4 (略)
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322CO0000000016

さいたま市においても、随意契約について「随意契約ガイドライン」(平成31年4月 さいたま市財政局契約管理部)を作成しており、「1 はじめに」で「競争入札を原則とする契約において、必要以上に随意契約とせず競争入札とするよう改めて点検する」とあり、「随意契約の適正かつ円滑な運用を確保するため、例外的方法である『随意契約』についての標準的な解釈・指針を示すものとして、ガイドラインを定める」としています。

4.これまで随意契約ができていた理由

それでは、今回の「さいたま市生活困窮者学習支援業務」はこれまでどういった理由で随意契約で良しとしてきたのでしょうか。

さいたま市が公表している「業務委託契約情報一覧・随意契約結果表(平成30年1月から平成30年3月契約分)(建設工事に伴うものおよび水道局発注のものを除く)」では、同期間に行われた契約情報が記載されています。

この中で件の「さいたま市生活困窮者学習支援業務」の詳細については、「随意契約結果表」のうち、保健福祉局のもののp.26に掲載されています。

〇随意契約結果表【保健福祉局】
件名:さいたま市生活困窮者学習支援業務
契約締結日:平成30年3月16日
契約の相手方:特定非営利活動法人さいたまユースサポートネット
契約金額:82,824,768円
随意契約によることとした理由
 本業務の支援対象である生活困窮世帯には、学習習慣がなく低学力であることや、学校や家庭に居場所がない、不登校、ひきこもり等の複雑な事情を抱えている子どもも多くいる。このため本業務の中心である学習支援教室では、こうした子どもと1対1で支援員が寄り添い、個々の状況に応じた学習支援や進路支援、相談支援等を行っている。
 当該事業者は、本業務を履行する中で、きめ細やかな支援を行うために、子どもと年齢の近い学生から 経験豊富な社会人まで多様な人員を確保している。
 また、生徒やその保護者と学習支援員との信頼関係を構築することにより、不登校の解消や、学習や進学への意欲の向上等の成果が出ており、生活保護受給世帯の高校進学率は上昇傾向にある。さらに、当該事業者は、生徒の状況に応じて、電話や家庭訪問、関係機関との連携等、教室外においても臨機応変に対応している。
 当該事業者は本業務の他にも「さいたま市若者自立支援ルーム」や「地域若者サポートステーションさいたま」といった子ども・若者支援に関する事業を受託しており、これらの事業を実施することにより培ったノウハウを本業務においても有効に活用している。
 これらのことから、複雑な事情を抱えている子どもたちの支援の充実を図るため、学習する場や居場所として学習支援教室を機能させている、現に契約履行中の当該事業者に業務を委託することが有効である。
 以上の理由から、地方自治法施行令第167条の2第1項第6号の規定により、当該事業者と随意契約により契約を締結した
https://www.city.saitama.jp/005/001/017/007/005/p059563_d/fil/hokenfukusikyoku.pdf

「地方自治法施行令第167条の2第1項第6号の規定により」とされていますね。つまり「競争入札に付することが不利と認められるとき」に該当すると判断したわけですね。

その理由として、同NPO法人が

①「子どもと年齢の近い学生から経験豊富な社会人まで多様な人員を確保している」こと、

②「生徒やその保護者と学習支援員との信頼関係を構築することにより、不登校の解消や、学習や進学への意欲の向上等の成果が出ており、生活保護受給世帯の高校進学率は上昇傾向にある」こと、

③「生徒の状況に応じて、電話や家庭訪問、関係機関との連携等、教室外においても臨機応変に対応している」こと及び

④「本業務の他にも『さいたま市若者自立支援ルーム』や『地域若者サポートステーションさいたま』といった子ども・若者支援に関する事業を受託しており、これらの事業を実施することにより培ったノウハウを本業務においても有効に活用している」こと

を挙げています。②で挙げられている理由は、毎日新聞の記者の方が指摘していた「子供たちとの信頼関係を築いてきて、そして信頼関係の上で学習支援が成り立つという性質」(平成31年4月11日(木)さいたま市長定例記者会見)であり、この点を考慮に入れた上で随意契約としてきたようなんですね。

以上の理由については、この事業の性質も、またこれまで請け負ってきた事業者側も大きく変化していることは考えづらいことから、依然として上記理由は存在し、これまでのように地方自治法施行令第167条の2第1項第6号の規定を根拠として随意契約とすることができるにも関わらず、何かしらの理由で一般競争入札に切り替えたのではないかと考えられます。

5.なぜ「一般競争入札」に

それでは、なぜ平成31年度では随意契約から一般競争入札へ切り替えたのでしょうか。

一般的に担当部局としては随意契約の方が手続がやや面倒になることはありますが、安心できるんですよね。特に今回のような事業であると、上記の昨年度の理由付けからもわかるように継続性が非常に重要な案件ですので、可能であれば随意契約にしたいわけです。担当部局が自らの意志で一般競争入札に変更するとは考えづらいです。なんらかの「外圧」があったはずなんです(憶測)。

まず、一般的に考えられるのは「市長」の意向です。随意契約というのは場合によっては行政と事業者と間の「癒着」とも見えるので、クリーンな行政を目指す首長からは嫌われます。ただ、今回の場合は市長会見のとおり全くご存じでなかったということから、この説は無しですね。

また、財務当局等の市の「内部部局」からの指摘も考えられます。随意契約から一般競争入札にすることで価格競争が起き、一般的に価格は低下すると考えられます。しかし、平成24年度からずっと随意契約で行ってきたにもかかわらず、状況に大きな変化がないと考えられる中で大きな方向転換は考えづらいです。

次に考えられるのは「議会」の指摘です。随意契約は価格による競争ではないかたちで事業者を決めることから、税金の使い方をチェックする議会、特に野党から厳しい目が向けられます。

さいたま市議会会議録検索システムで「学習支援」のワードで検索してみたところ、平成30年の秋に気になるやりとりがありました。平成29年度の決算に関する議論です。

〇平成30年10月5日(金)平成30年9月決算特別委員会
〇稲川智美委員 自由民主党真政さいたま市議団の稲川でございます。
 (略)
 114ページの下段、生活困窮者自立支援事業についてお伺いいたします。
 先ほど斉藤委員から4の学習支援事業についてのお尋ねがありましたが、もう少し詳しくお聞きしたいと思います。
 先ほどの答弁の中で、決算額は8,652万3,000円になっております。それで、参加人数が261人ということで、1人当たりの額も33万円余りということが今言われておりましたけれども、この事業の委託の事業者というのは何者あるのでしょうか。それから、何カ所でこの学習支援事業が行われたのでしょうか。それから、事業者に委託する、その方法についてお答えください
〇生活福祉課長 まず、委託事業者につきましては、昨年度は1者でございます
 それから、教室の数につきましては、中学生、高校生が参加できる教室が各区に1カ所ずつ、それから高校生のみが参加できる教室が中央区に1カ所になります。ただ、対象は全区対象になっております。
 それから、委託方法につきましては、昨年度は公募型のプロポーザル方式により提案募集を行いましたが、募集があったのは1者のみということになります
〇稲川智美委員 決算は先ほど言いましたけれども、この事業の予算額についてもう一度お知らせください。
〇生活福祉課長 当初予算につきましては8,652万3,000円になります。
〇稲川智美委員 そうしますと、この委託の業者に対しては、どういう形でこの額を積算して使われたという形になるのでしょうか
〇生活福祉課長 契約につきましては、先ほど申し上げましたプロポーザルになりますので、その際に事業者から提示された金額での業務委託契約になります。業務委託契約の中身につきましては、主なものとしては人件費等々になります。
〇稲川智美委員 参加人数が261人ということでしたけれども、当初は何名を想定して、この額で予算立てしたのでしょうか。
〇生活福祉課長 目標人数といたしましては、300人以上の参加ということで予算計上しております。
〇稲川智美委員 そうしますと、300人以上で予算立てをして、実際は261人だったのだけれども、全額そのままお支払いしたということなのでしょうか
〇生活福祉課長 この契約に当たりましては、今申し上げました300人の人数に対して、また、11カ所の会場、あるいは自治会数等、当初そういった規模に見合った体制を確保した上で事業を行っておりますので、当初契約のとおりの支出ということになります
〇稲川智美委員 会場費、それから人件費ということでの積算の根拠だったのだと思いますけれども、結果的に対象、予定していた人数よりも非常に少なくなったわけですから、この辺は、その最初の予算立てだけではなくて、検証していただいて、結果的にもう少し決算額のほうで調整ができないのかどうか今後は、そういうところも考えていただきたいのですけれども、いかがでしょうか
〇生活福祉課長 こちらの契約金額については、その契約項目の中に減額できる規定はございませんので、こういった契約額と支出額になります
 今後につきましては、業務委託仕様書の内容ですとか、あるいは契約方法等を見直しまして、今、委員から御指摘のようなことにならないような配慮をしていきたいと思います
〇稲川智美委員 8,650万円も使っているわけですから、効果的な事業になるように検討していただきたいと、ぜひよろしくお願いいたします

さいたま市議会は57議席で構成されていますが、稲川議員が所属する「自由民主党真政さいたま市議団」は8人で構成された4番目に大きい会派です。市長との関係については、「議会は2元代表制の一翼を担う中、市長・執行部とは是々非々で臨み、市民のための議会・会派を目指す。」としています。必ずしも野党というわけではないようで、「是々非々」とのことです。

この議論で、予算額の積算根拠としていた参加人数よりも実際には少なかったのに、契約金額を満額受け取れるのはおかしいのではないか、という問題提起がなされます。市側としては積算根拠とした人数をベースに請負者が体制を組んでいること、また契約項目に減額できる規定がないことからそのままの金額としたとしつつも、今後(平成31年度予算以降)は、業務委託仕様書の内容や契約方法等を見直し、稲川委員の指摘のようなことがないように配慮をしたい、としています。

その後、決算特別委員会としての提言をまとめる段階に入ります。

〇平成30年10月15日(月)平成30年9月決算特別委員会
〇稲川智美委員 自由民主党真政さいたま市議団の稲川智美です。
 会派を代表いたしまして、議案第125号「平成29年度さいたま市一般会計及び特別会計歳入歳出決算の認定について」及び議案第126号、第128号について認定の立場から討論をいたします。
 (略)
 生活困窮者自立支援事業の学習支援事業については、261人の参加に対して8,652万3,000円という巨額の事業費が投入されていますが、事業の実績によってその経費を事業者に払うのではなく、一括契約で支払っていることが判明いたしました費用対効果を検証し契約内容を精査し、効率的な事業方法を再検討していただくことを要望いたします
 (略)
 以上、今後の事業展開に要望を付け加えさせていただきましたが、引き続き市民の皆様のために情熱を持ってサービスの向上に取り組んでいただくことを要望し、認定の討論といたします。

5日で指摘していた事項をしっかり入れ込んでいますね。これを受けた副委員長からの提言の説明が以下の発言です。

〇平成30年10月15日(月)平成30年9月決算特別委員会
〇土橋勇司副委員長 平成29年度さいたま市各会計決算の審査を踏まえた平成31年度予算編成に向けた提言書案について御説明させていただきます。
 (略)
 平成29年度さいたま市各会計決算の審査を踏まえ、市長、その他の執行機関が平成31年度予算編成に向け、以下の取り組みに努めることを決算特別委員会として提言する
 (略)
 8、生活困窮世帯の中学生等を対象にした学習支援教室については、事業内容を検証し参加者の拡大を図るなど事業効果が最大限発揮できるように取り組むこと
 (略)
 以上でございます。

委員会としての提言の中に稲川委員の指摘が入れられましたね。「参加者の拡大を図る」については、5日の委員会で稲川委員の前に質問していた斉藤委員の議論で出てきたポイントです。

そして、決算特別委員会の提言が定例会で報告されます。

〇平成30年10月18日(木) 平成30年9月定例会
〇三神尊志決算特別委員長 決算特別委員会の審査報告を申し上げます。
 (略) 
 平成29年度さいたま市各会計決算の審査を踏まえ、市長その他の執行機関が、平成31年度予算編成に向け、以下の取り組みに努めることを決算特別委員会として提言する
 (略)
 8 生活困窮世帯の中学生等を対象とした学習支援教室については、事業内容を検証し、参加者の拡大を図るなど事業効果が最大限発揮できるよう取り組むこと
 (略)
 以上で、決算特別委員会の審査報告を終わります。(拍手起こる)
〇平成30年10月19日(金) 平成30年9月定例会
〇稲川智美議員 自由民主党真政さいたま市議団の稲川智美でございます。会派を代表いたしまして、議案第125号、議案第126号及び議案第128号について、委員長報告に賛成の立場から討論いたします。
 (略)
 続きまして、保健福祉委員会関係についてです。生活困窮者自立支援事業の学習支援事業については、261人の参加に対して8,652万3,000円という巨額の事業費が投入されていますが、事業の実績によってその経費を事業者に支払うのではなく、一括契約で支払っていることが判明いたしました費用対効果を検証し、契約内容を精査し、効率的な事業方法を再検討していただくことを要望いたします
 (略)
 以上、今後の事業展開に要望をつけ加えさせていただきましたが、引き続き市民の皆様のために情熱を持ってサービスの向上に取り組んでいただくことを要望し、賛成の討論といたします。

注:議案第125号:平成29年度さいたま市一般会計及び特別会計の歳入歳出決算
議案第126号:平成29年度さいたま市水道事業会計決算
議案第128号:平成29年度さいたま市下水道事業会計決算

いずれも既に発言したものとまるっきり同じですね。

以上の流れから考えられるストーリー(私の妄想)はこうです。

・ 市側としては、平成31年度の「さいたま市生活困窮者学習支援業務」の契約に決算特別委員会で明示的に受けた指摘をなんとか反映させなければならない(そうでなければ、次の議会で詰められてしまう。)。
・ しかし、随意契約の仕組み(一般的な契約全体かも)では稲川議員の指摘するような、結果的な参加者の人数によって「事後的」に契約金を減額することは困難である
・ こういった状況で指摘を踏まえて「効率的な事業」としたと説明する(認めてもらう)ためには、随意契約から一般競争入札に切り替えることにより「事前的」な予算執行の効率化を行っていると説明するしかない
・ したがって、市側としてはこれまでの随意契約を可としてきた要件に変更はないものの、随意契約から一般競争入札へと契約方式を変更することによって、事業の効率化を説明できるようにした

結果的に一般競争入札としたことによって、これまで随意契約をしていたNPO法人ではなく、経営規模が大きい「全国で学習塾などを展開されている株式会社」がより安価な金額によって落札するに至った、ということでしょうか。 

平成31年度予算案が公表されたのが平成31年2月1日のようですから、予算案成立を前提とした公示の手続(決裁)を2週間程度で大急ぎで行って2月13日に告示、1か月の期間を置いて3月14日に入札、同日に開札・落札者決定、残りの2週間を引継期間として4月1日に契約…はしたものの、引継や準備が間に合わず、教室の開始時期が連休明けとなってしまった、ということではないかと思います。

以上が公開されている情報から私が妄想した「さいたま市生活困窮者学習支援業務」が随意契約から一般競争入札になったワケ、でした。

おわりに

これまで長年活動してきた団体から他の法人に移り変わり、そのことで事業の出だしに不具合が生じていることは残念です。また、まさにこの事業が随意契約である必要性として挙げられていた「子供たちとの信頼関係を築いてきて、そして信頼関係の上で学習支援が成り立つという性質」が一般競争入札によって崩れてしまったことは、前年度から引き続き通うことを予定している生徒たちに悪い影響がないかなと心配してしまいます。私も無料塾のボランティアの経験を通じて、いかに子どもたちとの信頼関係を築くかが勉強だけでなく、生活面や前向きな姿勢に影響するかを肌で感じています。

一方で、市民の代表である議会から受けた指摘を何とか反映させたいという市側の対応も、私自身の職業柄、とても理解できます。市民からいただいた税金の使い方の効率化は、行政が常に考慮すべき重要な視点の一つです。税金を原資とした支援には、このようなリスクが常に伴うということであると思います(私が無料塾に公的資金が入ることについて消極的な理由の一つです。)。

ご理解いただきたいのは、上記のような指摘を行った稲川議員や、そのために随意契約から一般競争入札に切り替える決断をしたさいたま市を責める気持ちは全くないということです。それぞれのアクターがなすべき仕事をした結果だと思っています。何より上記推論はあくまで私の妄想ですし。結果的に少し残念な状況になっているのは認めざるを得ませんが、この状況を踏まえて、今後、議会の場で市側と議員でどのような議論がなされ、また事業の現場でどのような支援が行われるかをに期待したいと思います。

しつこく繰り返しますが、最後に述べているストーリーは公開されている情報をベースにした私の妄想であることはご留意ください。妄想です。