ふらんすの家探しのお話

 外国で暮らすための一つの難関である家探しのお話。

【三行概要】
・不動産屋からの返事を期待してはいけない。
・家が決まらないストレスは尋常ではない。
・契約の可否の全ては、良い貸主に巡り合えるかにかかっている。

出国前 ~楽観した思いの中で~

 とりあえず、インターネット上でわかる範囲で治安の悪いエリアを調べたり、以下の2つのサイトで相場観などをふんふーんと眺めたりしていた。

(参考)SeLoger
https://www.seloger.com/

(参考)LOCService
https://www.locservice.fr/

 希望していた主な条件は、①中心部に近いこと、②家具付きであること(最長でも2年しか住まないため)、③浴槽付きであること。「できれば初期費用が抑えられたらいいなぁー♪」、「ショッピングエリアが近いともっといいなぁー♪」なんて、甘いことを考えていた。希望的観測は、人が生きていくための必需品である。

渡航1週目 ~届かない、返事~

 住む予定の街に到着し、上記2サイトに以下のサイトも加えて部屋探し。フランスに留学していた先輩が紹介してくれたサイトで、不動産に特化したものではなく、「メルカリ」のように様々な個人の出品の中に不動産も含まれているとのこと。個人が相手だと、相手によっては交渉がしやすいとのこと。

(参考)leboncoin
https://www.leboncoin.fr/

 10件ほど希望の物件について問い合わせをするも、まぁー、とにかく返事が来ない。フランスではちょうどバカンスの時期であることも要因かもしれない。肌感覚では、6割くらいは返事がなかった。ほとんどが個人ではなく、きちんとした(たぶん)不動産会社であるにも関わらずである。「まぁ、フランスはこんな感じかー」くらいに思っていた。
 残りの4割のうち、3割は「もう他の人に借りられました」の連絡。えぇっ!? 情報サイトに掲載されてから、そんなすぐに決まる?掲載を削除し忘れてたの?「抵当権が設定されて、貸すことができなくなった」との連絡も。この短期間に何があったんだよ!
 そして1件だけ、内見のアポを取ることができた。その不動産会社の方はメールでも丁寧に対応してくれ、内見の当日もアポの時間ぴったりに建物に来てくれた。部屋は、設備も、立地もとても良かった。部屋が空くのは翌月になってからとのことだったが、契約の前の段階として、候補者になるための登録をしなければならないとのこと。日本の不動産の契約のように早い者勝ちではないようで。

むーん「これ、複数の候補者が出たら、どうやって入居者を決めるの?」
担当者「残念だけど、この部屋は2人までしか住めないよ」
むーん「いやいや、一緒に住まないから。もしかしたら、何人も候補者が現れる可能性があるでしょ?早い者勝ちなの?どうやって決めるの?」
担当者「この部屋は見てのとおり狭い。2人までしか~」
むーん「だーかーらー、(以下、何度か同じやりとり)」

というやりとりが発生する。自分の語学力不足なのだろうか。

 とりあえず必要な記入書類をデータで送ってもらうことにする。心の中では、もうこの部屋で決めるつもりでいた。私には他に何もないもの。

渡航2・3週目 ~期待の価値は~

 語学学校が手配してくれたアパルトマン生活。仮ではあるけれども、自分の家があるという悦びを噛み締める。特にキッチンがあったことは、精神衛生状態を著しく向上させた。もうホテルの決まり切った朝食には飽き飽きしていたんだ。料理は命の洗濯だ。
 データで送付した書類に必要事項を記入し、PDF化したデータを必要書類を合わせて返送してほしいとのこと。PDF化はインターネットカフェのような店で行う必要があるが、不動産屋から修正されると二度手間になるので、事前に「以下のように各欄に記載しようと思っていますが、事前に確認をお願いします」とのメールを送る。
 数日待っても、返事が来ない。このままではあかんと思い、「〇日にお送りしたメールのお返事はいただいておりませんが、とりあえず記入したものをお送りします」という趣旨のメールを送る。「待っていても無駄。行動することが大事」と様々な方に言われていたのだ。
 それから返事がないまま、また数日後。担当者から「あなたの書類も良かったんだけど、貸主は他の候補者を選びました。よろしく。」の連絡。裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!

渡航4週目 ~虚無と沈黙~

 決まったことをどうこう言ってもどうにもならないので、不動産のサイトで連絡先を記入欄に入れて問い合わせ、連絡先を記入欄に入れて問い合わせ、連絡先を記入欄に入れて問い合わせ…を繰り返す。打率は変わらず。バカンス時期は終わっているはずなんだけどな。内見にすらたどり着かず。こういうとき、どういう顔をすればいいの分からないけれど、笑っていてもどうにもならない。

渡航5週目 ~死に至る病、そして~

 こうして、大学院の授業が始まってしまう。
 相変わらず、不動産屋の反応が悪い。リマインドのメールを送っているにも関わらずだ。中には、問い合わせた物件についてはすでに契約済みだけれども、別の物件を紹介してくれる方も。ただその物件に下見に行きたいです、他の物件はありますかといった問い合わせに返事がない。最初のうちは「まぁ、フランスはこんな感じかー」と思っていたが、徐々に「仲介手数料をもっと払うので、もっと働いてください…お願いします…」となり、最終的には「てめぇらの仕事だろうが!もっと頑張れよ!」になる。大学院で出会った米国人にも「この国の不動産屋はいったいどうなってるんだ」と愚痴る。
 慣れない環境の中で週の後半に体調を崩してしまうのだが、病床で目覚めると「あぁ部屋がない…部屋が決まらない…手続が進められない…またホテルを探さないといけない…」と頭がぐるぐるするようになる。家が決まらないことで頭がいっぱいになり、もっと重要な大学院生活のあれこれに頭を向けることができない状態。
 逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…と、既に連絡済みのものも含めて、金曜の夜に10件弱の問い合わせ。すると、leboncoinを通じて問い合わせた個人の方から、とても丁寧な返事をいただく。「以下の3点について、確認させてください。1)~、2)~、3)~、」と質問して、「以下のとおり、回答します。1)~、2)~、3)~、」で返してくれた初めての人だ。感動。僕は君に会うためにフランスに来たのかもしれない。

渡航6週目 ~終わる手続~

 口座も無ェ、保証人も無ェ、現金もそれほど持って無ェという状況であったものの、その貸主は外国人に貸すことに慣れているとのことで、不動産屋が相手であれば難しいような相談にも親身に乗ってくれた。何よりレスポンスが早くて丁寧。ポカポカする。
 事前に送付を求められた書類は、①パスポートのコピー、②前の住所の証明書、③学生証又は大学の受入許可証の写し、④家賃を支払う人が本人でなければその支払う者の身分証明書の写しの4点。②については、東京に住んでいた住所が記載された運転免許証を法定翻訳したものを送付した。
 賃料が想定よりも割高ではあったものの、これほど信頼できる貸主には二度と会うことはできないだろうと思い、契約する前提で下見をする日を迎え、無事そのまま契約。今までの苦労はなんだったのかと思うほど、連絡してわずか1週間で契約。

僕はここに住みたい

僕はここに住んでもいいんだ!

\おめでとう!/ \おめでとう!/ \おめでとう!/

ありがとう

貸主に、ありがとう

ホテル生活に、さようなら

そして、頑張った俺に、

おめでとう


すごく、エヴァが見たいです、今。