戯言 過去に戻れるなら戻りたくない
『過去にもし戻れるならば、いつに戻りたい?』って話をされた時に、過去には絶対戻りたくないと思った。
随分と、自分の中で自分自信について、もがいてきた。特に恋愛はコンプレックスでしかなかった。可愛い友達に、「早く彼氏作ればいいじゃん」って言われる度に、工作じゃないんだから、作りたくて作れるもんじゃねぇって思った。
「今、恋愛はしたくないんだよね」って言ってその場をしのいでいたけど、本当は恋愛がしたくて、でも出来なくて、何でわたしはこんなんなんだろうってずっと悩んでいた。
まず、わたしはずっと、自分は可愛くなくて、太っているから恋人ができないんだと思っていた。
大学生になった頃からは別に誰かに外見のことを言われたわけでもないし、周りの人がどう思うかは知らないけど、わたしは自分のことを可愛くないとか太っていて醜いと思い込んでいたから、当然自信も無いし、鏡に映る自分もそのまま醜く見える。
パーソナルカラーだとか骨格診断だとかを調べて、少しでもマシに見える髪型を考えたり、自分に似合うメイクを知るためにわざわざメイクサロンに行って教えてもらった。
でも、教えてもらったところで、グリーンとかパープルのアイシャドウを使ったり眉毛を濃く書かれたメイクを施された自分が可愛いとは微塵も思わなかった。
わたしは別に個性的な魅力が欲しかったわけじゃないし、どうせ教えてくれるなら、普段使いできるブラウンのアイシャドウの塗り方だったり、涙袋をさりげなく作る方法とか、誰にでも使えるテクニックを教えてくれた方がよっぽど有り難かった。というか、それが知りたかった。
あと、奥二重のキツく見える目も大嫌いだった。どうしても二重になりたかったけど、アイプチの使い方が絶望的に下手くそで、瞼の皮が剥がれた人みたいになるから、仕方なくお風呂で白目を剥いた後にマッサージをして奥二重の線を何とかはっきりと二重に癖付けしたその「努力自体」の方がよっぽど可愛い。
ダイエットのために、高いお金をエステやジムにつぎ込んだこともあった。
温感ジェルを塗りたくってマッサージしてみたり、コルセットダイエットとかもやってみたけど、苦しくて続かなかった。
やっぱり食事制限だなって思って、1日のカロリーを1000キロカロリーに抑えてみたり、受験勉強をしながら、炭水化物も甘いスイーツも一切食べられずに、鶏肉とサラダとスープとゆで卵が一日の食事で、「受験勉強」と「空腹」というダブルのストレスと闘う毎日を自分に強いた。
それでも全然効果は無くて、体重はビクともしなかった。
当たり前だ。わたしが思う以上に身体は賢くて、便秘にもなるし、逆にわずかに口にした食品を全部吸収して溜め込むという、今思うとめちゃくちゃ本末転倒なことをしている。
大学生の時は、おばあちゃんやお母さんと姉とデパートに行くと、よく服を買ってくれた。
ほっそりしている姉は、大抵のどんな服でも似合うから欲しい服がいくつもあったけど、わたしは着られる服を選ぶ必要があったから、可愛い服を見つけてもタグのサイズを見ては、ハンガーに戻していた。
憧れのブランドのフロアで姉が何着も試着しながら「これ欲しい!」と言うのを横目に見ながら、試着する勇気もなくてわたしは一着も買えなかった。
ちなみに、あの頃のわたしには、毎食野菜を食べて飲み物はなるべく温かいものを選んで、炭水化物も抜くことなくバランスの良い食事をしていれば、ちゃんと3食しっかりお腹いっぱい食べてもゆっくりだけど確実に体重は落ちていくよ、その方法が一番合ってるよって言ってあげたい。
あと社会人になれば自然に食欲無くなるし、ちょっとげっそりするよって。
相変わらず、誰かと服を見に行くのは苦手だし、まだまだ良いスタイルなんかじゃないけど。
とにかく毎日自分が惨めで仕方なくて、何でこんなに頑張ってるのにわたしはダメなんだろうと毎日消えてしまいたかった。
人前に出るのも、新しい人と仲良くなるのも怖かった。
「何か彼氏が出来ない問題があるとしたら、それは別に外見の問題じゃないと思うよ」大学生の時、仲良かった男の先輩からそう言われたことがある。
でもその言葉の意味を、当時はどう受け取っていいか分からなかったから、見た目じゃなかったらじゃあ何が問題なのって拗ねていた。
でも今ふとその言葉を思い出した時に、見た目云々じゃなくて、わたしは「わたし」が一切無かったんだなと思った。
恋愛に限らず、わたしがわたしじゃないから、誰かを惹きつけられる魅力も当然ない。
あったとしても、自分がそれを握りつぶしている。
本当にそれがその言葉の意図だったのか分からないけれど、誰かに何年間もじっくり考えさせる一言を言ったその先輩は、すごかったなと思う。
確かに見た目は、誰かに選ばれるひとつの要素かもしれないけど、要素に過ぎない。
それだけじゃなくて、人の魅力って見た目以上に、人間性なのかもしれないとつくづく思った。
「彼女とかそういうキャラじゃなく思える」
「隙がないからだよ。何か壁があるよね。」
「恋愛とかしたいの?」
これもすごくよく言われた。
どうしたら人に心を開けるか、親しみやすくなれるかを必死に考えた。
隙があるとは、天然でアホなフリをすることなのか、それとも誰にでも話しかけてみることなのか、心の内を何でも話してしまうことなのか。
モテる友達の話し方を真似してみたりもした。
モテる子は、リアクションが大きくてちゃんと相手に話させてあげているらしい。
なるほどって思って真似してみたけど、不器用だからリアクション芸人に成り果てて、ひな壇に座ってるガヤみたいで自分は全然楽しくなかった。
相手の話を引き出す方法はけっこう身に付いたから、初対面の人との会話が終わった後、わたしは相手の簡単な紹介文を書けるほどはある程度分かったけど、相手はわたしのことを1割も分かっていないだろうなと思った。
結局どれを試しても、1時間後には疲れ果てて無口になった。
「元気で明るくてよく喋る子がタイプのやつがいるんだけど、紹介していい?」
サークルの先輩に言われたことがある。
わたしはその先輩から元気で明るくてよく喋る子だと思われているんだなと思った。
確かに、心を開かなきゃ、親しみやすくならなきゃと思っていた時だったから、別に好きだったわけでもないその先輩相手に、ムダにテンション高くリアクションを取ってみたり、ずっとベラベラと1人で喋っていたりしていた。
でも、その先輩と接した後は、疲労感で眠って電車を乗り過ごしてしまうほどわたしは自然に振舞っていなかった。
そんな間違ったレッテルを貼られて間違ったわたしを期待されて、相手が望む人物像になり切ってまで誰かを紹介してもらおうとは思わなかった。
「わたしなんか申し訳ないですよ」っていつもの調子で断って、ひたすら自分を卑下したその日の帰り道は、いつも以上に疲れてぐったりした。
わたしは愛嬌がないから人に好かれないと思っていた。
だから必死に恋愛エッセイだとか、恋愛心理術の本とか攻略本を読み漁った。
その結果、恋愛シュミレーションゲームなら、確実に正解の選択肢を選べる自信はあった。
でも、いざ教科書通りに振る舞おうすると、頭ではセリフが思い浮かぶのに好かれる態度も言葉も何にも出てこない。
つくづく不器用で、なおかつ天邪鬼で素直になれない。
一瞬付き合った人と別れ話をしてる時に、「わたし天邪鬼なんだよね」って言ってみたけど、「天邪鬼がよく分からない」と言われた。
天邪鬼って、本当に上手に使う人が使えば、テクニックになり得るのかもしれないけど、そのほとんどは、はっきり言えない自分の甘えなんだなって思った。
相手がわたしのことを分かってくれるなんて思うな。天邪鬼を汲み取って変換してくれる人なんていない。
ちゃんと自分の気持ちは素直に相手にそのまま伝えなきゃ伝えたい気持ちなんて全く伝わらないんだなって思って、すごく反省した。
愛嬌って、付け焼き刃で人に可愛いって思われる仕草をしたり、相手が気分が良くなる言葉を使うことじゃなくて、ちゃんと自分の気持ちを素直に相手に伝えるところから滲み出るものなんだなって思った。
この前、久しぶりに会うサークル時代の後輩とランチに行った。彼女は、活発でいつもニコニコと誰にでも気さくに話しかけるから、先輩にも同期とも後輩とも仲良くて、愛されキャラな子だ。ごく自然に人の懐に入るのがすごく上手くて、それがすごく魅力的な子だなと思っていた。
誰かがあげたインスタグラムのストーリーで流れてくる、サークルの何人かで遊んだ写真の中には大抵彼女がいる。
彼女は甘えられるよりも甘えるのが好きみたいで、同期や後輩も好きだけど、本当は先輩達と遊んでいるのが楽しいとよく言っていた。
彼女の職場は男社会らしくて、彼女を可愛がってくれる先輩や上司と写った飲み会やレジャーの写真をたくさん見せてくれた。
「ワンピースとか花柄のスカートを履いていくとおじさん受けがいいんです」「このお局さんにはお菓子を献上して機嫌を取るんです」
それぞれの人に愛される接し方をよく知っているらしい。
ランチの後のショッピングで彼女が時折、ワンピースや身体にフィットしたニットを持ってきて「これはおじさん受けですか?」と尋ねてきた。
その度に、受けなんか気にせずに、自分が好きなものを着れば良いのにと思ったけど、わたしはそう言う代わりに、「そうかもね」と答えて、どんなものが「おじさん受け」なのか分からなかったから、彼女の骨格に似合っていたニットを勧めた。
心で思っていたところで、「あなたはそのまんまで可愛いし、好かれる人だよ」と一言言ってあげられないのが、まだまだ伝えることが下手くそなわたしだなと思った。
でも、「そのままで良い」が自分にも誰かにも出てくるようになったことは、すごく生きやすくなったなと思う。
相変わらず、生活に恋愛がある人生じゃない。
小学生くらいの頃から恋人が途切れない人もいれば、社会人になってもろくに恋愛をしていない人生もある。
誰かに話すと、可哀想な人みたいに扱われることがあるし、時にそれがすごく寂しくて、本当に自分は魅力がないのかなと落ち込むことも確かにあるけど、今は、そんなこと考えても仕方ないし、割とどうでもいいなって思う。
数ヶ月前、仕事も初めてしてみた恋愛も、何もかも上手くいかなくて、心が壊れそうだった時に、話を聞いてもらった人から「自分の中で心と身体と言葉、一本筋が通るようになると、すごく魅力的な人になれるよ。」
と言われた言葉が忘れられない。
誰かから「好き」って言われなくても、そんなに無理せずに自分が自分を素直にまぁ良いかなって思えるなら、結構合格点だと思う。
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