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344【自由進度学習を再考する:教育改革の潮流に流されないために】

【自由進度学習の背景と目的】
 自由進度学習は、子供一人ひとりが自身のペースで学びを進められる学習形態として注目されています。その始まりは1970年代まで遡りると言われています。子供の個性に寄り添う教育を目指し、学習計画を子供自身が立て、進度を調整する「単元内自由進度学習」が導入され、この学び方は、学力差を補いながら、一人ひとりの能力を最大限に引き出すことを目的としていました。
 注目が再燃した背景には、現代の教育が抱える課題があります。一斉授業の効率性は高いものの、全員が同じペースで学ぶ形式では個々の理解度や興味・関心に対応しきれないという側面があります。さらに、学力の二極化が進む中で、個別最適な学びの必要性が高まっています。二極化の要因としては、家庭の教育格差や学校の教育力の不足・人材育成が課題とされています。2021年の中央教育審議会の答申で「個別最適な学び」と「協働的な学び」が「令和の日本型教育」を実現する学習形態の一つとして示され、GIGAスクール構想によるICT環境の整備がこれを後押ししています。
 自由進度学習の目的は、「自ら学ぶ力」を育成することです。計画作成や進捗管理を通じて、子供は責任感や自己調整力を養います。また、友達と教え合いながら学ぶことで、協働的なスキルや視野を広げる経験を得られます。

【自由進度学習と複式学級における間接指導の共通点】
 自由進度学習は、子供が自身で学びを進める主体性を重視する点で、複式学級における間接指導と共通しています。複式学級とは、異なる学年の子供が同じ教室で学ぶ学級編成のことです。この形式では、教師が片方の学年に直接指導を行う間、もう片方の学年の子供が自習を進める「間接指導」が行われます。
 間接指導では、子供が自ら教材に向き合い、計画的に学習を進める必要があります。この自主性を支えるために、教師が事前に学習内容を見通せる教材やルールを整備する点は、自由進度学習と共通しています。また、どちらも子供同士の教え合いや自然な協働的な学びが発生しやすい環境を作り出します。
 ただし、複式学級は学級編成上の制約から生まれた形式であり、自由進度学習のように、すべての子供が主体的な学びを進めることを前提としているわけではありません。それでも、両者の共通点からは、個別最適な学びの可能性を見出すことができます。

【ルーブリック評価と自由進度学習】
 自由進度学習では、学びの成果を評価する際に、ルーブリック評価が効果的です。ルーブリック評価とは、学習目標に対する達成度を段階的に明示する評価方法で、子供自身が自分の進度や理解度を振り返るツールとしても活用できます。
 たとえば、「単元内自由進度学習」では、子供が自ら立てた計画に基づいて学習を進めます。その成果を測るために、「目標を達成するための努力」「進捗管理の適切さ」「最終的な理解度や表現力」といった指標を設定し、段階的に評価することができます。この方法により、子供は自己調整力を強化し、学習意欲を高めることが期待されます。また、教師は個々の子供の理解度や課題を把握しやすくなり、より的確な支援が可能になります。

【自由進度学習の注意点】
 自由進度学習は、すべての教育現場にとって万能な解決策ではありません。一見、革新的な学習形態に見えますが、その本質はこれまでの教育の中で無自覚に行われてきたものです。たとえば、授業中に「早く終わった子は追加課題に取り組む」指導や、「分からないところに戻って復習する」時間を設けることも、広義の自由進度学習といえます。
 そのため、特別な取り組みとして自由進度学習を強調しすぎると、現場の負担が増大する可能性があります。さらに、自由進度学習に適応できない子供への支援が不足した場合、学びの格差が広がる恐れもあります。
 また、学習指導要領に基づく内容を確実に教える責任があるため、自由進度学習を取り入れる際には、教師が子供たち全員の進度を把握し、一斉授業や個別指導を適切に組み合わせる必要があります。

【まとめ】
 自由進度学習は、子供の主体性や学習意欲を高める有効な手段であり、ICtの進展によってその実践の幅が広がっています。しかし、それは決して新しい教育手法ではなく、これまでも無意識的に行われてきたものです。一斉授業との組み合わせや教員間の連携を通じて、教育現場に最適な形で取り入れることが求められます。流行に流されるのではなく、各学校の実情や子供の実態に応じた適切な運用が必要です。


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