「氷壁」
2座目
井上靖の山をめぐる小説である。
ナイロンザイル事件を題材としつつも、山男の友情、豪放磊落な上司、人妻、老境の科学者など盛りだくさんな内容で、なんやかんやあって主人公は最期に
「シズカナリカギリナクシズカナリ」
と書き残して滝谷で失命するという物語である。
私は今まで、氷壁を4回くらい読んでいる。
一回目は中学生の頃だ。井上靖の「あすなろ」だか何かを読んだ後に続けて読んだが、ちょっと分からなかった。
二回目は成人してからだったが、人妻の魅力って怖いくらいの印象しかなかった。
三回目は登山を始めた頃にナイロンザイル事件に興味を持ったのでもう一度読む気になった。しかし、昔は麻縄で登ってたとか凄い!以上の感慨はなかった。
四回目はつい最近で、徳沢園が「氷壁の宿」だと言っているが徳沢園て出てきてたっけとおもって読んでみた。
前の3回より、めちゃくちゃ引き込まれた。
それは、登場するルート名や山の位置関係が理解できるようになっていたというのもあるけれど、井上靖の人物描写に圧倒されたのだった。
ナイロンザイル問題は解決しないのに主人公の魚津恭太はムリ目な登山の末に死んでしまうというなどストーリー展開は強引なのだが、人間関係の描写が凄い。
主人公と墜死したパートナーとの友情や独特な上司との関係、そしてナイロンザイルについての試験を行う年の差婚をした科学者と妻との乾いたやり取りなどが実に濃やかに語られている。
デュプラの詩も勿論エモいんですけど、それより何より井上靖凄いなっていう小説でした。
因みに山小屋の名前ですが現在の徳沢園という名前でなく徳沢小屋としてて出てきてました。
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