肉まんとあんまん
2020師走の話
ジムに向かっていた。
クライミングジムである。
途中の駅で乗り換えた。車内は空いていたのでなんとなく優先席に座った。
優先席はとても危険なゾーンである。
それを私は忘れていた。何しろ師走である。
一つ空けた隣におっさんが座った。目がギョロっとしたコワモテの人だ。私の顔を覗きこんで大きくため息をついた。
これは説教されるパターンか?
違った。
「あなたは肉まんとあんまんどっちが好きか?」
正解がわからない。金の斧と銀の斧と普通の斧とか大きいツヅラと小さいツヅラのような明快な正解がない。
「肉まんですかね」
好きな方をシンプルに答えた。
するとおっさんがいう。
「いや、これはまいったな、オレも肉まんが好きなんだ!あんまんでいいかな?」
といって、あんまんを差し出された。
三木大雲和尚とアフリカケンネルの社長の缶コーヒーのような可能性が脳裏をかすめる。
毒はあんまんのほうに入っていたのか!
おっさんが怖くて、とりあえずあんまんを受けとった。
「あったかいうちに食べて!」
わー、食べるしかないわ。食べた。少し冷めてる。
おっさんの昔話と日米の政権批判とコロナについての持論を聞きながら、心を無にしてあんまんを食べた。
「いやあ、いい食べっぷりだなぁ!肉まんもお食べ!」
車内は人がまばらながらも私に注がれる視線がいたい。
肉まんはほのかに暖かい。
「いやぁ、ありがとう!」
肉まんを食べている私を置き去りにして、おっさんはご機嫌で電車を降りて行った。
入れ替わりに赤ちゃんとお母さんが乗って来て、私は優先席を離れた。
人を信じられない自分に神さまがおっさんの姿で現れたのだろうか?
多分絶対違う。
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