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10月30日(金) 緩和か治療か

受診日
急激に悪化している感じはなかったが、耳や口の中の血色は悪くなってきており先週より良くなっていることはないだろうとは思っていたが、やはりヘマトクリット 31.0%と下がっており、塗抹標本上も再生像は見られないとのことだった。
最初に治療を始めた時よりもかなり多いステロイドが入り、さらに免疫抑制剤を投与していても改善どころか維持ができなくなっており、主治医からは免疫抑制治療に対する反応はあまりなく、このまま他の治療をしなければさらにヘマトクリットは徐々に下がっていくだろうという話があった。私は主治医に”時間延ばしのためだけのグロブリン投与や輸血はもうやめようかと思います”と伝えた。

7月の発症以降何度も秒単位での判断に迫られながら常に”何とかして生かす”ための選択をしてきたが、それはその先に希望があってのことだった。1週間悩みに悩んだが、グロブリンなら2週間、輸血なら3日間ほどの命を延ばすためにねねちゃんに1日病院で過ごす恐怖に耐えさせるのはもう限界だと思った。これまでの経験から輸血をすれば確実に元気になって遊びまわれる時間が作れることは分かっている。しかし調子が上がってもすぐまた調子が悪くなる苦痛を繰り返し何度も何度も与えることになるのだ。
命優先とはいえ経済的にも当然苦しい。グロブリン/輸血の度に7~8万の費用がかかり、それがいつまで続くかもわからない。
先週からの1週間悩みに悩んだが、助からないことが分かっていて延命を続けるとしたら、それはただただ1日でも長くねねちゃんにそばにいて欲しいという私の気持ち、つまりは"やっぱり私のエゴなのだ"という気持ちの方が強くなってきていた。
“ねねちゃんにどうしたいか聞けたらいいんですけどね”と医師たちから言われたが、もし話せたらねねちゃんの性格上”もうやめてください”と言うのは明白だ。しかしねねちゃんが嫌だと言ったらやめるのか…思考は堂々巡りをするばかりだった。

私の延命はしない宣言を聞いた主治医は、“延命のための治療を続けないということであれば、1度だけグロブリンを使って状態をよくして脾臓を摘出するというも手だと思います”と言った。私は脾臓の摘出もやるつもりはなくなっていた。しかし“手術を受けさせてみよう”と前向きに思える判断材料があるかどうかは確認をしておこうと思い、話を聞いた。
“少しでも勝ち目があるのであれば賭けてみようと思うのですが、何か良くなるかもしれないと思える材料はありますか?”と問うと、“ありません。よくなった症例があるというだけで、やってみないと五分五分としか言えません”との答えだった。医療においてこんなにあやふやなことがあるだろうか?“よくなるかどうかはわからないけどとりあえず臓器を取ってみましょう。判断材料は何にもないですが(素人である)飼い主がやるかやらないかは決めてください”というのだ。医師を責めている訳ではないのだが、命の選択であるにも関わらずサイコロを投げるのと何ら変わりがない。
ただ、手術に関しては脾臓は体表に近いところにある臓器のために他臓器をどかして探し出す必要がなく比較的簡便な手術で、侵襲は避妊手術より少し高い程度、とのことだった。この情報には心が揺らいだ。現在の私の優先課題は“いかにねねちゃんに苦痛を与えないか”だ。ねねちゃんは避妊手術が終わった2時間後には家で遊んでいた。今は体調が悪いのでそうはいかないだろうが、その手術と苦痛の大きさが大して変わらないというのであれば(ダメ元で)賭けてみる価値はあるかもしれない。

今すぐに決断しなければいけないという状況でもないということで、“よく家族とも相談してまた来週”ということになった。“ちなみに先生のうちの猫なら手術しますか?”と聞いてみると、“やります”とのことだった。しかしNRIMAの猫は稀なため脾摘の効果が出るか見てみたいという気持ちもあるのだろうなぁと勘ぐってしまう。治療が奏功するにせよしないにせよ、ねねちゃんはいずれ学会で症例報告をされることになるだろう。今後NRIMAを発症する子やその飼い主さんの役には立てるかな。でもねねちゃんが過去の知見を享受できたら良かったな。
今後のひとつの手としてエビデンスは全くないが、今投与している免疫抑制剤のシクロスポリンに加えてタクロリムスを投与するという案が提案され、“さらに状態が悪化するのを待つのではなく今から開始したらダメですか?”と尋ねて今日から投与を開始することになった。免疫抑制剤は効果が出るまでに2週間ほどを要するため、次回の来院時に効果の有無は確認できないし、ここまで免疫力を落とす治療をすると感染で命を落とす恐れもあると思うが、やはり(より少ない侵襲で)改善に向けてできることがあるならやっておきたい。

診察が終わってすぐに、いつも相談に乗っていただいているねねちゃんの保護主さまを含む保護ボランティアの皆さんにLINEで“もし皆さんの猫ならどうしますか?”とお聞きした。自分でも卑怯な問いかけだと思う。ひとのうちの猫の命を左右する問題に安易に答えるられるものではなく、かつサポートしてくださっている立場上答えない訳にもいかなかったと思う。でも、ねねちゃんの尊厳と私のエゴとの間で揺れ動いてひとりでは判断ができなくなっており、何か材料が必要だった。
皆さん質問にすぐに返事を下さり(お忙しいのにいつも平日の昼間にすいません…)真摯に回答を下さった。また、お知り合いの獣医さんに獣医仲間に知見を聞いてもらって下さったり、NRIMAではないものの免疫性の血液疾患が疑われる猫ちゃん(やはり黒猫)の情報を教えていただいたりと、いつもながら心も時間も砕いて下さったりと感謝しかない。(“感謝”という言葉以外にいかに有難いと思っているかを伝える言葉がないものだろうか…)
要約すると皆さんのご意見は“同じように悩むだろうけど、他に手がないなら賭けてみるかも”というのが多数派という印象だった。
これまでは“あなたがやらない方がいいと思うならそれがいい”というスタンスであった私の家族も、脾摘に関しては“ねねちゃんの苦痛があまり大きくないのであれば、やらずに後悔するよりもやってみてもいいいのでは”という意見であった。
私の中では“やる”と“やらない”がまったくの半々で“誰か決めてくれー”という心境だったので、周囲が“やってもいいのでは”と思うのであればそちらに賭けてみようと思っている。正直な気持ちとしてはこれまでの経緯を考えると手術をしてよくなる可能性はかなり低いだろうと思っている。でも、効かないという保証もない。

ごめんね、ねねちゃん。また辛い思いをさせるかもしれないけど、みんなねねちゃんのことがだいすきなんだよ。

この日の医療費
再診料、処方量、血液検査(塗抹評価含む)、腹部超音波検査
内服薬(ステロイド、胃腸薬、免疫抑制剤【シクロスポリン+タクロリムス】)
計 37,851円

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