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ざっくりモンゴル! 草原の秘密|鈴木裕子日本にないものが、モンゴルにある?

「あなたモンゴルでも行く?」この一言で、給食のおばちゃんだった鈴木裕子は、在モンゴル日本国大使館の公邸料理人になった――。モンゴルは驚きの連続。価値観がボロボロと崩れ落ち、そして再構築されていくのがなぜか心地良い。
初の著書『まんぷくモンゴル! 公邸料理人、大草原で肉を食う』でモンゴルの知られざる食と暮らしを紹介し、生きることと食べることの意味について考えさせてくれた著者が、今度は食に留まらない様々な場面で、モンゴルでの気づき、日本との違いをユーモアたっぷりに綴ります。


いのちの熱を浴びて

どこまでも広がる大地、その上には圧倒的存在感を誇る青空。天と地に挟まれるのは草原の淡い緑。人の気配のないそんな大地で風に吹かれると、島国の育ちのわたしは吹き飛んでいくようだ。

そう、モンゴルは世界で一番、人がまばらな国。大都市ウランバートルに人口の半分が住んでいるため、街を出れば人は少ない。いや、日本人的に見ると人が“いない”。モンゴルの人たちが日本で驚くこと、それは「どこまで行っても家がある!」その反対をわたしは実感する。どこまで行っても終わらない大地。「地球は緑だったの?」

人は少ないが家畜はいる。その数およそ人口の20倍、草原でとなれば100倍以上。モンゴルの草原の暮らしは家畜と共にある。家畜というのは家畜自身が自分の脚で人と移動できる草食動物のこと。大地にうっすらと散らばるわずかなカロリー(=草)を掃除機のように家畜が刈り集めれば、あとはお肉とお乳しかない。草原のくらしは、究極のところ草があり家畜がいれば生きられる逞しさ。五畜と呼ばれる家畜は羊、山羊、牛、馬、ラクダで、これにゴツい毛むくじゃらの牛・ヤクなどが加わる。草原の人達はこれらを何種類も併せ飼う。暮らしのほとんどをこの家畜達で賄うから、異なる特徴を持ったそれぞれが必要なのだ。わたしたち日本人には土地と、そこから恵みを得るための水が何よりも重要だったが、彼らは水がわずかな土地で家畜と共に生きてきた。

緑が広がり、のどかに見える大草原の夏の景色は実はモンゴルのほんの一面でしかない。一年の半分以上を占めるのは、零下数十℃に及ぶ寒くて長い夜が支配する生命に厳しい季節。寒いというと私たちはつい雪を思い浮かべるが、モンゴルは超乾燥の土地。雪が降らない年には家畜が渇きに苦しむ。こんな乾燥と寒さの中にあっては、家畜も人も植物もぼんやりしていたら生き延びられない。生きることへの真摯な熱量がモンゴルの生きものの中には充満している、溢れている。この命の濃さをわたしは伝えたい。題して勝手に現地特派員。驚きのモンゴルへようこそ。まったく違うようで、似ているところもたくさんある日本とモンゴル。日本にないものは、きっとモンゴルにある。



鈴木裕子
1968年東京都生まれ。保育園の調理師から在モンゴル日本国大使館公邸料理人に転身。離任後は大好きなモンゴルに健康としあわせを贈りたいと『Japanese chef YUKO’s vegetable and cookbook for MONGOLIANS』上下2巻をモンゴルで出版。2024年にモンゴルで会社を設立、日本とモンゴルを往復する日々。国家資格の専門調理師全六部門を取得した食いしん坊。

鈴木裕子さんの著書『まんぷくモンゴル! 公邸料理人、大草原で肉を食う』はこちらからご購入いただけます。