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【日本全国写真紀行】63 高知県須崎市

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。


高知県須崎市



昔ながらの漁村集落が残る、江戸時代からの鰹節の名産地

 須崎は高知市から西へ40キロ、入り組んだリアス海岸の美しい海岸線を持つ漁業の町である。今はマダイやカンパチの養殖をはじめ、定置網や一本釣りなどさまざまな漁業が行われているが、江戸時代は特にカツオ漁が盛んで、鰹節の産地として名を馳せ、「須崎節」のブランドを持っていた。
 須崎という町は江戸期を通じて土佐藩領で、町は大きく村方(農村)と浦方(漁村)に分かれていた。浦方がいつ頃できたのかは明らかではないが、天正年代(1573〜92年)にはすでに漁民集落があったようで、安永5(1776)年の古地図には須崎浦の名称があるという。
 明治・大正期には土佐を代表する港町として栄えたが、国鉄高知線(現在のJR土讃線)が香川から高知の間に建設されてからは港町としての需要が激減した。以来、町の勢いは衰え人口も減り続けているが、貿易港としての貨物取扱量は今も県内一を誇っている。
 須崎の中心街は須崎駅前から西に開け、古くからある商店街が直角に伸びている。大きな魚屋が何軒もあり、すぐそばの魚市場から仕入れた活きのいい魚が店先いっぱいに並んでいる。久しく忘れていたが、漁村育ちの筆者にとって、子供の頃、魚屋の魚は生きて売られているのが当たり前で、母親は動かない魚は絶対に買わなかった。魚屋のオヤジさんが動かない魚をよく「お宅の猫ちゃんに」とタダでくれたものだ。ピチピチと跳ねて木箱から飛び出している店先の魚を眺めながら、そんなことを思い出した。
 須崎は大きな町だが、市街地から南や東の方角に向かうと、野見や久通くつうといった小さな鄙びた漁村がいくつかある。いずれも、漁港から山に向かう曲がりくねった狭い路地に沿って家が建ち並び、風を避けるためだろう黒い石垣をめぐらせ、昔ながらの漁業集落の雰囲気がそのまま残っている。
 この辺りはどこも高齢化と人口減少が進んでいるらしい。確かに若い人の姿はほとんど見ないが、どの家も隣家との間に小さな畑を作り、芋や柿や野菜を育てている。このご時世、とれたての魚と野菜を食べる生活というのは最高の贅沢と言っていい。ここのお年寄りたちはきっと、平均寿命より長生きに違いない。
 余談だが、久通は芋が美味しいことで知られている。干し芋(この辺では「ひがしやま」という)にすると最高の味だそうである。

ふるさと再発見の旅 四国』産業編集センター/編より抜粋




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