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100キロ走れた私がALSになり老人ホームに入るまで #2「診断」

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診断

 神経内科のある大きな病院でもこれと言う原因はわからず、経過観察となった。世間では新型コロナウィルスの感染拡大が始まっており、病院は物々しい雰囲気だった。
 この頃から少しずつ咽せることが増え、舌足らずというより酔っぱらいのような喋りになっていった。健康診断ではバリウムを誤嚥し、盛大に咽せて検査室をバリウムまみれにしてしまった。そのことを医師に話すと検査入院することになった。
 入院期間は二週間。採血やCT等一般的な検査のほか、自己免疫疾患に使う点滴薬を連日投与してみたり、筋肉に針を刺し電気で刺激する筋電図検査というのも受けたりした。舌に針を刺された時は飛び上がるほど痛くて検査にならなかった。

 退院前に夫も呼ばれて医師から説明を受けた。脳や内臓に問題はない。自己免疫疾患でもない。運動ニューロン障害であることは間違いない。ただ神経の病気は診断が難しい。ほかの病気の可能性を消去していくと今考えられるのはALSだ。今は症状が少ないからあくまで暫定診断だ。後々ほかの病気だとわかるかもしれない。しかしもしALSだった場合を考えると進行を遅らせるための投薬は今から始めた方がいい。そのためにまず保健所で特定疾患の手続きをして受給者証をもらってください。もしほかの病気だとわかった場合はその時取り消せばいい。
 先生は神経伝達の仕組みや運動ニューロンについて図を描きながら説明してくれた。「筋萎縮性側索硬化症」という文字を迷いなくスラスラと書いたのが印象的だった。私は今だに書けない。滑舌の悪さを自覚してからここまで一年ほどだった。

#3へつづく

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